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リコーが開発を進める『クローラ型走行ロボット』。
大型部品も3Dプリンターで造形する理由とは

コラム
  • #PA12 #試作製造 #納期短縮 #コスト低減

リコーが開発を進める『クローラ型走行ロボット』。大型部品も3Dプリンターで造形する理由とは

近年ロボット技術の進展は進み、コミュニケーション、掃除、接客、搬送、警備、製造など家庭用から産業用まで様々なシーン、用途でロボットが開発され、普及してきています。
日本では少子高齢化により人手不足が大きな社会問題であり、ロボットの導入により自動化を進め、省力化・省人化させることは人々の暮らしやものづくりの現場において欠かせない取り組みとなっています。
リコーでもロボットによるものづくり改革の取り組みを行っており、その一つにクローラ型走行ロボット(自立移動ロボット)の開発があります。今回はそのプロジェクトおよび開発に貢献した3Dプリンターの活用秘話をご紹介します。

語り手:株式会社リコー デジタル戦略部 デジタル技術開発センター 小泉 英知氏、岡本 寛氏
聞き手:3DPエキスパート編集部

普及が進む「産業用ロボット」と「サービスロボット」

普及が進む「産業用ロボット」と「サービスロボット」

現在ロボットの普及は進み、様々なシーンで活用されてきていますが、その種類は大きくは「産業用ロボット」と「サービスロボット」の2種類に分かれています。「産業用ロボット」は産業オートメーション用途に用いられ、人に代わって溶接・塗装、製品の組み立て、搬送など製造工程の様々な作業の自動化を行っています。
一方「サービスロボット」とは警備や受付、接客、清掃など人が行う動作や作業を支援することを目的としているロボットです。産業用ロボットとは異なり、人と同じ空間で移動し、動作や作業できること、また安全性を確保するためのガイドラインをクリアすることなど様々な課題があります。
リコーでは人と同じ空間で「運ぶ・見る・作業する」を代替することができるサービスロボットの「自律移動型ロボット」の開発を進めています。この「自律移動型ロボット」のこれまでの課題は、人にとっては簡単に通過できる段差や斜面などの場所でもロボットでは移動できないことが多く、屋内での使用に限定されているという点でした。
リコーではそのような課題に着目し、段差や凹凸、砂利道や草地など、様々な屋内外の場所を走行できるように、移動方式としてゴムベルトを採用したクローラ型走行ロボットの開発に取り組んでいます。
今回は、そのクローラ型走行ロボットの開発について株式会社リコーデジタル戦略部 デジタル技術開発センターの小泉 英知氏、岡本 寛氏にお話を伺いました。

リコーが開発を進める『クローラ型走行ロボット』。
人と同じ空間で「運ぶ・見る・作業する」を代替させる技術とは

『クローラ型走行ロボット』を開発したきっかけ

『クローラ型走行ロボット』を開発したきっかけは何だったのでしょうか。

『クローラ型走行ロボット』を開発したきっかけ

岡本氏:自律移動型ロボットは警備や接客、清掃など多くの用途で期待され、製品化もされています。しかし人と同じ空間を移動し、作業を行うには、人が通れる場所を移動できる必要があります。出入口は80㎝以上になっていますので、ロボットのサイズは幅・奥行きは60cm程度にしなければなりません。そのような小型のロボットではこれまで段差や凹凸、砂利道や草地などの不整地でも、人の歩行や走行スピードと同じ程度の時速3~5 km 移動できるロボットがなかったことに着目し、開発を進めることになりました。

不整地でも移動できるリコーのクローラ型走行ロボットの開発条件

不整地でも移動できるリコーのクローラ型走行ロボットは、どのような条件で開発を進めているのでしょうか。

不整地でも移動できるリコーのクローラ型走行ロボットの開発条件

岡本氏:屋内外の段差や凹凸、砂利道や草地などの不整地を自在に走行させるため、ロボットの移動方式は車輪ではなくゴムベルトを採用した走行部を持つクローラ型を採用することにしました。また建設現場での資材運搬やけん引、ビルや工場などの点検・巡回警備、農作物の収穫など、人の「運ぶ・見る・作業する」を代替することを想定していましたので、これまで人と同じ約60cmのサイズで、時速3~5 kmのスピードが出せることが条件でした。また人と同じ空間で作業するため、ロボットのデザインもこだわっています。

3Dプリンター活用を前提とした設計

クローラ型走行ロボットの試作機は3Dプリンターを活用し、短納期で製作

クローラ型走行ロボットの試作機は3Dプリンターを活用し、短納期で製作しています。

クローラ型走行ロボットの試作機は3Dプリンターを活用し、短納期で製作

小泉氏:クローラ型走行ロボットはお客様が求める用途・条件に合わせて開発しており、現在はGPS情報を利用し、走行経路を学習させて無人運転できるクローラ型走行ロボットの開発も進めています。開発段階では、お客様とクローラユニットの仕様やデザインを相談しながら設計を進め、試作機を製作して走行テストを行うこともあります。しかしその際にネックになるのが試作機の製作納期です。

岡本氏:特に外装パーツについては、クローラロボットの仕様や機構などの設計完了後、最終段階で外装の仕様やデザインを決定することが多くあります。外装パーツは1mほどの大型パネルになることもありますが、通常工法(切削や射出成型等)ではスケジュール上製作が厳しいため、3Dプリンターを活用することを前提で設計をしています。

クローラ型走行ロボットの試作機は3Dプリンターを活用し、短納期で製作

小泉氏:試作機を短納期で製作する時は金型を製作している時間がないので、設計段階から3Dプリンターを活用することを決めています。
我々は自部門でデスクトップ型の3Dプリンターを保有していますが、3Dプリンターのメリットは短納期で造形できること以外にも、切削や射出などの既存工法とは異なり、アンダーカットなども考慮せずに設計することができ、また2D図面が不要な点もあります。
そのため普段から設計・試作に3Dプリンターを活用しています。デスクトップ型の3Dプリンターですが、大型のパーツも分割して造形し、その後組立や接着して製作しています。
しかし分割造形後に組立、接着する場合は手間や工数がかかるので大変であり、大型造形かつ急ぎで製作する必要があった時に、社内の人から『リコー3Dプリンター出力サービス』の造形技術部隊を紹介してもらい、3Dプリント造形に関して相談させてもらいました。

3Dプリンター出力サービスの利用により大型パーツも短納期で製作

『リコー3Dプリンター出力サービス』を活用して良かった点はありますか。

3Dプリンター出力サービスの利用により大型パーツも短納期で製作

岡本氏:『リコー3Dプリンター出力サービス』の造形技術部隊を紹介してもらい、通常の出力サービスと同等に大型パーツ含めて約30パーツの3Dプリントおよび造形品の塗装含めて約3週間ととても短納期で作ってもらえたことがあり、その時は大変助かりました。
また我々が通常使っているFDM(MEX)方式の3Dプリンターではなく、外装パネルの大きさや表面の質感、納期も考慮して粉末焼結タイプのPBF/SLS方式3Dプリンターで造形してもらえたことで、薄肉や勘合部でも割れない強度がありました。あとクローラ型走行ロボットの目の部分などLEDで光る部分は光造形SLA(VPP)方式の3Dプリンターで造形してもらいました。
出力サービスでは対応している3Dプリンターの造形方式、造形材料が多くありますが、各部品や希望する用途に合わせて出力サービスの技術者に選定してもらいました。
さらに良かった点としては、出力サービスの技術者と設計段階から事前に相談することができたので、寸法公差やパネルの肉厚を考慮した設計、リブのつけ方など、"3Dプリンターならでは設計"の思想を取り入れることができた点です。そのため大変高品質な仕上がりで、二次加工をすることなく組立もできました。

小泉氏:費用についても、出力サービスの技術者からは低コストを考慮した造形方式や材料、分割方法まで提案頂き、従来工法と比較してもほぼ同等でした。満足いく造形品質、納期、コストで造形してもらい、リコー3Dプリンター出力サービスに依頼して良かったです。

今後の展望

今後の展望

今後も建設現場や警備ロボット工場内の設備点検などお客様が希望される用途に合わせたクローラ型走行ロボットの開発を行っていきます。GPS情報やAIの活用により人と同じように賢く"移動できるロボット"の開発を進め、お客様の現場のオートメーション化・デジタル化を進めていきたいと考えています。そのためにも早く設計、デザインし、試作機を作り、改善点があれば修正をしていくことが重要であり、3Dプリンターおよび出力サービスの活用はさらに増えていくと思います。

Why RICOH (リコーだからできる事)

リコーは3Dプリンターをものづくりの現場で20年以上にわたって活用してきました。 製品の試作に始まり治具製造、さらには最終製品製造へと適用範囲を広げております。 2014年以降、自社で蓄積してきたノウハウを活かして 3Dプリンターの販売や3Dプリンター出力サービスを提供しております。

3Dプリンター出力サービスでは、お客様のご要望やご予算に合わせて 最適な造形材料・造形方式・後加工などをご提案しています。 従来の加工方法(切削/射出成型など)とは異なる、 3Dプリントの特性を最大限に活かした造形を丁寧にご支援します。