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金属AMの量産への期待が高まるデスクトップメタルが日本の製造業に与える影響

コラム
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⾦属AMの量産への期待が高まるデスクトップメタルが日本の製造業に与える影響
図1:デスクトップメタルの製品写真

リコージャパンが2020 年度に実施した3Dプリンター実態調査の結果、「次に3Dプリンターで造形したい材料は金属材料である」と回答した企業は17%ありました。日本の産業界からも多くの関心が寄せられる金属3Dプリンター分野には、国内外のプレイヤーの参入が相次いでいます。2015年創業のDesktop Metal(以下デスクトップメタル社)はそんな金属AM分野(※)で成長を続けるユニコーン企業として無視できない存在感を発揮しています。
今回は、日本でデスクトップメタル社の販売代理店の一角を担うアルテック社に、デスクトップメタル社がどのような企業で、どのように製品を展開しているのか、そして日本の製造業にどのようなインパクトを与える存在なのかを伺いました。
(語り手:アルテック株式会社 香西 秀樹氏 森田 隆幸氏 聞き手:3DP エキスパート編集部)

※Additive Manufacturing:3Dプリンターを用いたモノづくりのこと。付加製造。

Desktop Metal ( デスクトップメタル) とは

まだご存じない読者のために、デスクトップメタル社についてご紹介ください。

香西氏:一言で表現するなら「試作から量産まで見据え、金属AMを中心にソフトウェアからハードウェアまで一体的に開発している企業」といえるでしょう。2015年の創業以来、デスクトップメタル社は成⻑を続けており、世界各国に拠点を展開するほか、2021年には NY証券取引所に上場するに至っています。デスクトップメタルの金属3Dプリンターは、造形後に脱脂や焼結といった処理を行い金属部品を完成させる仕組みなのですが、各工程での造形シミュレーションを⾏うソフトウェア開発も行っています。
正確な売上高や累計出荷台数などは開示していないのですが、世界の3Dプリンターに関する統計情報を提供している3Dプリンター関連調査結果によると、1000台以上の出荷実績を持っているようです。

デスクトップメタル社が手がける 3Dプリンターの特徴を教えてください。

香西氏:デスクトップメタル社は、試作や少量生産行うための Studio System、中量生産を行うための Shop System、本格的な量産を見据えた Production System の 3 つのシリーズを製造販売しています。少量生産に焦点を当てたStudio System はMEX方式の造形機と脱脂装置、焼結装置の3つの装置から構成されるシステムとして発売されました。

prototype_detail06_img03.jpg3D プリンター、脱脂装置(デバインダー)、焼結炉(ハーネス)の 3 つの装置で造形を⾏う Studio System

原理的には、MIM(Metal Injection Molding/金属粉末射出成形)の技術を応用しています。樹脂とワックスと金属粉を混錬した材料に 3D プリンターで造形した後、脱脂装置でワックスを除去し、焼結装置で焼結しながら樹脂を抜いて金属部品として完成させる仕組みです。

従来金属3Dプリンターで多く採用されてきた SLS (Selective Laser Sintering/粉末焼結積層造形)方式では、材料に金属粉を採用する関係上、粉塵爆発や粉塵による健康被害などを防ぐために大掛かりな設備を必要としていましたが、Studio System は棒状に固めた専用材料を造形に利用することで設備負担を大幅に軽減しています。

Shop System、Production System は Studio System と同じくMIMの技術を応用していますが、製造量が多いため高速で造形できるバインダージェット方式の造形装置で造形した後に、脱脂と焼結を行うことで、製造量を向上させた装置構成になっています。

こうした 3 つの装置を一体的に制御できるソフトウェアの開発や、専用材料開発を一つの企業の中で一貫して⾏うことで、MIM や焼結のノウハウがない企業でも金属造形を⼿がけられます。例えば焼結時に部品は体積が収縮しますので、形状変化が起こります。デスクトップメタルでは Live Sinter というソフトウェアがシミュレーション結果に基づき、あらかじめ造形時に収縮を⾒越して大きめに造形しておくなどの取り組みをすでに実装しています。

デスクトップメタルは材料、装置、制御ソフトウェアを一体的に提供することで、すべてのエンジニアが金属AMを活用できる環境を実現しようとしています。絶えず技術革新を起こしているデスクトップメタル社は、デバインダ―と呼んでいる有機溶剤を使った脱脂装置が不要な専用材料を開発しています。
Studio System2 という名称で新機種を出していますが、従来の Studio System を保有している企業に対してもソフトウェアのアップデートとノズルなどの一部部品の交換を行っています。

新機種の Studio System2 は脱脂装置が不要と聞いて驚きました。どのような仕組みなのでしょうか︖

棒状の造形材料の成分を改良することで実現しています。従来は金属粉と樹脂とワックスを混錬して材料を生成していたのですが、Studio System2 ではワックスを使わずに金属粉と樹脂のみで製造できるように改良しています。

prototype_detail06_img03.jpg

森田氏:先ほど簡単に触れたように、有機溶剤を使った脱脂装置(デバインダー)でワックスを溶かし出して除去をしていたのですが、ワックスを利用しないことで、脱脂装置を利用せず焼結工程だけで脱脂を行うことができました。
ワックスが果たしていた役割を樹脂成分で補っているため、焼結時間を⻑くとり樹脂成分を揮発させる必要があります。そのため造形のトータル時間はさほど変わりませんが、脱脂装置の導入費用、有機溶剤を処分するための設備導入費用や廃棄コストを削減することができるため、大きなコスト削減につながります。環境負荷も下げられるため、二の足を踏んでいた企業が導入しやすくなることが期待できます。



脱脂装置(デバインダー)不要で金属部品を造形できる Studio System2

当然材料が変わるので、装置や制御ソフトウェアも改修されています。従来機を利用していた企業でも、吐出ノズルの換装や制御ソフトウェアのアップデートにより脱脂装置不要の新材料を利用できるのです。焼結工程も材料によって最適な設定が異なりますので、新材料に対応したレシピが適応されるようになっています。

実際の造形物と期待される適用分野

材料、装置、ソフトウェアを一体的に開発しているからできる対応ですね。そんな Studio System2 で実際にどんなものを造形できるのか気になるところです。最も小さいサンプル、最も大きいサンプルをご紹介いただけますか︖

O リング エンドエフェクター 30 ㎜ x 10 ㎜ x 7 ㎜ 17-4PH (SS with 250micron head) プリント時間: 4.5 時間 焼結時間: 61 時間

森田氏:最も小さいサイズの造形サンプルとして、25 セント硬貨とほぼ同じサイズの造形物をお持ちしました。(エンドエフェクターの部品 30 ㎜×10 ㎜×7㎜)これはSUS630 と同等の材料で造形されたものです。有機溶剤での脱脂が不要なStudio System 2 で⽣産しようとする場合、4.5 時間程度で造形し 61 時間かけて焼結させます。

YE6 Burner Tip 149 ㎜ x 149 ㎜ x 91 ㎜ 316L (SS)

最も大きいサイズの造形サンプルとして、15 ㎝角のサンプルをご紹介したいと思います。装置の造形可能なワークエリアは、30 ㎝角程度なのですが、造形の安定性を考慮すると 15 ㎝角程度のものが適正な最大サイズと考えています。(149 ㎜×149 ㎜×91 ㎜のノズル部品)

具体的にはどのようなターゲット層の利用を期待していますか︖

香西氏:樹脂 3D プリンターの場合もそうでしたが、まずは公設試験研究機関や大学、国の研究機関などの公的な機関への導入を目指しています。公的な機関は先端的な装置の導入に前向きな上に、技術的な成果を民間企業とシェアすることが目的ですので、アーリーアダプターとして利用者層を広げる役割を担ってくれます。その次に実際金属加工を⾏っている企業への拡大を図っていきたいと考えています。

森田氏:現状、金属3Dプリンターは切削加工などほかの従来加工法と比べて、仕上がり精度が高くありません。一方でコスト面や納期面で優位性があります。そこでニアネットシェイプ(完成品に近い形状)まで3Dプリンターで造形を行った後に後加工をしていくことで効果を発揮します。
現在、金属の切削加工に強みを持っている企業が導入すれば、金属の塊から削っていくよりも、ニアネットシェイプに造形した部品を切削加工で仕上げる方が加工時間もコストも削減できるため、既存加工技術の活用が可能になります。MIMを⾏っている企業であれば、MIMでは造形できない大きなサイズの部品に対応できるため、新しいビジネスチャンスを得ることができるでしょう。

さらに部品を組み立てる際に重要な要素である精度についても、AMでは複数の部品の一体造形が可能なので、モジュール部品を一体で造形すれば組み⽴てが不要になります。その結果、組み立て時に必要としていた精度は必要なくなります。AMの活用、ニアネットシェイプによる造形、切削での仕上げのために必要な部分のみ、精度と品質を追い込んでいくという考え方は、もっと注目されてもよいだろうと思います。

今後の展望

AM全般でいえることですが、世界でAM導入が先⾏しています。日本と海外で大きく違う点などをお感じになることはありますか︖

香西氏:企業文化の違いを感じることは多いです。アメリカではリスクを一番大きくとった企業が競争⼒を得るという文化があるので、新しい技術は多くの企業が導入を⾏います。一方で日本企業ではリスクを率先してとる企業は一部で、様子見して問題なければ自社も導入という企業が多い印象を持っています。

今後の展望をお聞かせください。

香西氏:Studio System2のように継続的な技術進歩は今後も続いていきます。デスクトップメタル社が目指しているのは「AM2.0」と呼ばれる金属AM による本格的な部品量産であり、AMを前提とした設計製造の普及です。そのために今後も材料、装置、ソフトウェアの継続的な進展を図っていくことでしょう。
金属AMの分野ではアルミは難易度の高い材料の一つですが、デスクトップメタル社は 6061 アルミに相当する材料の開発を発表しています。量産を⾒据えた Shop System や Production System でアルミ材料の最終部品を製造できるとなれば、自動⾞業界をはじめとした日本の製造業に大きな影響を与えるでしょう。

こうした金属AM 領域の拡大は、従来の金属加工技術と対⽴する技術として成⻑していくものではありません。むしろ金属AMを補完する技術として、切削などの従来加工技術が存在します。従来加工で強みを持つ企業こそ、工法としての AM に取り組むことで、成長を実現する武器として活用できると考えています。コロナ禍を機にグローバル化したサプライチェーンに大きな変化が⽣まれています。消費地のそばでモノづくりを⾏う Local to Local の機運は、3Dプリンターとの親和性が高いです。そこには大きなビジネスチャンスがあります。金属AMには専門的な取り組みが不可⽋ですが、大きな可能性が秘められていると思います。

森田氏:まだ日本でも詳細は展開されていないのですが、最近デスクトップメタル社では、異種金属の接合造形に成功しています。量産能力をもった Shop System や Production System では本格的な AM のための設計も採用できますが、そのための設計支援ソフトウェアとして Live Parts などの独自ソフトウェアの開発も進んでいます。
世界中で技術進歩が進み、装置の導入が進む中ですので、日本の製造業も何らかの取り組みを⾏っていくべきかもしれません。

prototype_detail06_img03.jpg

まとめ

2021 年現在の日本企業に関していえば、最終部品製造は従来工法で⾏うため、3Dプリンターは試作や治具にしか活用していない企業が大半です。この状況を変えるインパクトを持っているのが、量産に適した製造能力を持つバインダージェット方式です。

デスクトップメタル社はバインダージェット方式の金属AM装置の有望なプレイヤーの一角ですが、まずは防塵防爆設備が不要な Studio System で初期市場を開拓します。その後の量産市場を狙う同社の製品は、すでに世界中で販売されおり、日本市場での今後の拡大が期待できます。

リスクを取ってAM2.0と呼ばれる最終部品の量産に取り組む世界中の企業に対して、日本はどう渡り合っていくべきなのか。コロナ禍を機に多くの企業が改めて取り組み方を問われているといえるでしょう。

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