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注目が集まるペレット式3Dプリンターの過去・現在・未来

コラム
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注目が集まるペレット式3Dプリンターの過去・現在・未来

粒状に加工した材料ペレットは射出成型用の材料として広く流通しています。現在、3Dプリンターの材料としては線状に加工した樹脂をリール状に巻いたフィラメントや粉末などが主に使われていますが、ペレットであれば既存の材料をもとにしたモノづくりが可能になるということで、ペレット式3Dプリンターに期待する産業界の声は根強く、2019年のドイツで開催されたFormnextでも多数のメーカーがペレット式3Dプリンターを展示していました。日本でもこの技術は期待されており、3DPエキスパートの読者の方からも問い合わせは増えております。リコージャパンでもこの新方式ペレット式3Dプリンターを2019年より正式に販売を開始しました。

ペレット方式と呼ばれる3DプリンターはMEX方式(Material Extrusion: 材料押出積層方式 別名FDM方式)の一種で、多種な材料、また、それらを混合して3Dプリンターの材料として造形することができます。また従来のフィラメント式のMEXと比較して単位時間当たりの造形能力が高いことも特徴です。リコージャパンでは日本製ペレット式3Dプリンターを製造するエス.ラボ社と提携し、同社のペレット式3Dプリンターを販売しています。立ち上げ当初からかかわっているリコージャパンの山口清氏にお話を伺いながら、ペレット式3Dプリンターの過去・現在・未来に迫ります。
(語り手:リコージャパン山口清 聞き手:3DPエキスパート編集部)

ペレット式3Dプリンターの特徴を教えてください。

ペレット式3Dプリンターは射出成型用の樹脂ペレットを利用できる3Dプリンターで、一番の特徴は材料にあります。粉末状の樹脂を扱う3Dプリンターでは防塵防爆対策が必要な点や、粒径や粒形状など材料に対して大きな制約があります。またフィラメントを扱う3Dプリンターでは材料が硬すぎると折れてしまい、柔らかすぎるとつぶれて搬送できなくなり利用できる材料に限りがあります。ペレットMEX方式3Dプリンターはこれらの制約がなく、幅広い種類の材料が利用可能です。さらに射出成型用のペレットを利用できるので、日本企業が得意とする材料技術を活かしたモノづくりを3Dプリンターでも展開することができます。

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ペレット式3Dプリンターで射出成型と全く同じ材料が利用できるのですか?

そうですね。世界的にはマイクロペレットと呼ばれる通常のペレットの規格よりも細かい材料を使われるケースも多いのですが、エス.ラボの3Dプリンターは、通常のペレットを利用できます。
ただ多くの射出成型を行う企業は、加工する装置ごとに材料に配合する添加剤を変えるなど生産時に工夫を加えています。そこが企業独自のノウハウになっていると思うのですが、ペレット式の3Dプリンターでも同じように、装置の特性を生かした材料のチューニングは必要になると思います。そういう意味で、射出成型で培った材料技術を活かせる3Dプリンターだと言えると思います。

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世界でも注目を浴びているという事ですが、どれくらいの企業が参入しているのでしょうか?

Formnextという国際的なAM(3Dプリンター)企業の展示会があるのですが、例年数百社の出展があります。コロナで2020年は全面オンライン開催となってしまったため、実態がつかみづらいのですが、2019年開催時には、7社以上の企業がペレット式3Dプリンターに取り組んでいました。700社以上が出展していたので、ひょっとしたらそれ以上に取り組み企業がいる可能性もあります。産業用ロボットアームの先端に吐出口をつけて造形できるようにした機種もあれば、筐体を持ったいわゆる3Dプリンターのような形状をした装置もありました。

ほかのメーカーの取り組みと比べてエス.ラボの特徴や差別化ポイントはありますか?

各社特徴的な機種を展開していますが、エス.ラボの特徴としては、材料を溶かして吐出するヘッド部分の小型化に成功していることで、フットプリントを削減できている点があげられるでしょう。エス.ラボのペレット式3Dプリンターは固定された台座の上に、造形するヘッド部分を移動させながら、一層一層造形を行います。これはヘッド部分が小型だからできるのですが、大部分のペレット式3Dプリンターではヘッドが大きいため、ヘッドを固定して台座を稼働させながら造形を行います。そのため、台座の可動範囲分、装置のフットプリントが大きくなってしまう傾向があります。エス.ラボの装置は、台座が稼働する方式の装置に比べると4分の1程度のフットプリントに収まるので、装置性能を犠牲にせずに大幅な小型化を実現しています。この点は大きく競争力がある部分といえるでしょう。

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エス.ラボには豊田合成も出資していますし、リコーも出資していますよね。かなりの力の入れ具合だと思うのですが、どんなきっかけがあったのでしょうか。

エス.ラボとの出会いは2014年までさかのぼります。当時リコーとして3Dプリンターを研究しようということで、多くの装置を実際に購入し、試験造形を行っていました。海外製の高額な装置から、ホビーユースの廉価帯の装置まで幅広く評価をおこなっていました。そんな中で、数千万円クラスの高級機しかできないような複雑な形状を、日本製の廉価帯3Dプリンターでも造形できるという発見がありました。そういった優れた機種が何機種かあったのですが、詳しく見ていくと、装置にみられる設計者のクセのようなものが非常に似ていることに気が付きました。これは同じ会社や人が設計に携わっているに違いない、という事で、さまざまな手段で調査を行いまして、おなじ会社が設計していることがわかりました。それが京都で他社の3DプリンターのOEM製造を行っていたエス.ラボとの出会いでした。

―探しに行かれたのですね!


はい。高級機とは違い、廉価機にコスト制約が多く存在します。そんな中でも設計者の工夫で、一線を画する性能を実現していた設計者にどうしても会って話を聞きたかったのです。京都まで会いに行きまして、同じ設計者同士、意気投合しましていろいろ話し込んでしまいました。 エス.ラボは押出成型装置を製造していたのですが、その知見を活かして他社の3Dプリンターを製造していました。またそれだけではなくたくさんのアイディアをお持ちの会社さんです。いつかは樹脂ペレットで造形できる3Dプリンターを製造したいというお話も早い段階から出ていました。いつか一緒にやろう、と夢を語りあっていたんです。

―それが実を結んだのですね!

はい。「樹脂ペレットで造形できる機種が開発できた」と話をきいてすぐに打ち合わせを持ちました。これはいけると手ごたえを感じましたので、リコーとしては販売できる仕組みを整えました。私が当初から想定していたのは、自動車業界でした。なかでも自動車のバンパーやフロント部分です。自動車のフロント部分は自動車の売れ行きを左右する重要部品です。マイナーチェンジの際も細かい修正が入り、微妙な形状の違いを用意していきます。1種類つくるのに、金型費用は3,000万から1億円近くかかります。非常に力を入れている上に、変更頻度もある部品だといえます。試作にも費用が掛かっている部分ですので、これを3Dプリンターでより柔軟に素早く造形できれば、自動車メーカーの支持がえられると考えました。そこで、ポルシェのカタログを見ながら一番大きなサイズをしらべまして、エス.ラボの造形サイズを指定していきました。

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―あのワイド(幅)はポルシェを意識していたのですね!おもしろい!

そうして一緒にスペックを決めながら用意していったのがエス.ラボの「GEM」シリーズです。エス.ラボの技術力を活かした小型ヘッドで装置サイズを抑えながらも、自動車のバンパーのような大型部品を高速で造形できる装置が開発できたと思います。樹脂ペレットを使うことで射出成型に取り組んできた企業が自社の材料技術を活かした新しいモノづくりに挑戦できる装置になっていると思います。

樹脂ペレットが使えることで、幅が広がったと思うのですが、どんな材料に注目ですか?

2つ挙げるとすれば、エラストマーのような柔らかい材料と金属やセラミックですね。
先ほどご紹介したように、MEX方式で利用するフィラメントは線状に樹脂を加工しリール状に巻き取っていく必要があります。やわらかすぎる材料や硬すぎる材料はリール状のフィラメントに加工するには適さないのです。しかし樹脂ペレットでは材料の配合を複数のペレットを混ぜ合わせることで調整可能です。実はフィラメント自体をエス.ラボで製造することもできるのですが、最適な配合を探す際の試行錯誤を、非常に簡単に試すことができました。

金属やセラミックス材料に関しては、MIM(Metal Injection Molding:金属射出成型)やCIM(Ceramic Injection Molding:セラミックス射出成形)という金属やセラミックスの射出成型技術で行っていたことがGEMシリーズでも実現できます。金属とバインダーと呼ばれる繋ぎ粉を混錬して製造したペレットを使うことで、造形後に、脱脂・焼結することで金属やセラミックスの部品を製造することができます。MEX方式ですので厚肉部をスパース構造にして故意に密度を下げることが可能で、脱脂とよばれるバインダーを有機溶剤に溶かし出し除去する工程がスムーズに進みます。焼結することで、通常にMIMでは実現できないような大型な造形物にも対応できることが検証できました。これはCIMに関しても同様です。もちろん3Dプリンターですので、金型を使うMIMやCIMよりも複雑な形状を造形できます。

非常に夢が広がるのですが、導入する際の課題や注意事項に関しても教えていただけますか?

材料がオープンで自由ということは、可能性が広がりますが、その分仕上がり品質が異なるということでもあります。そのため最適な材料の配合や造形時の温度、ヘッドのスピードなど装置を制御する際の最適な条件出しは、利用企業側、また材料メーカーと連携して実施する必要があります。自由度は高い反面、条件出しには時間やスキルが必要になってきます。

条件出しにはスキルやノウハウが必要になってくるんですね。検討中の企業にアドバイスはありますか?

弊社でも装置の検証や検討企業さまのご支援を通じて数多くの造形を行ってきました。その知見はお伝え出来ますが、本格的に材料技術を活かした生産をお考えのお客様は、材料メーカーもしくは材料担当のエンジニアと一緒に見学にいらっしゃいます。一目見ただけで「温度が高いな」など自社であつかう材料の状況を判断できる方も多く、やはり餅は餅屋だなと感じさせられます。私たちは装置をどう設定すれば挙動がどう変わるかという観点からアドバイスはできると思います。

ペレット型の3Dプリンターでは今後どのような分野で活躍が期待できそうですか?

大型造形を高い生産性で製造できることから、自動車のメーカーなどでも活躍する可能性があると期待しています。また自社で材料技術に自信がある樹脂材料のメーカーや射出成型をおこなう部品製造業の分野でも活用できると思います。自動車の分野でいうと、柔らかい材料を利用できますので、座席シートなど座る人の負荷が軽減できるような複雑な形状をさまざまな材質の組み合わせで実現できると楽しいですね。個人的には昔のベンツのスプリングシートのホールド感と座り心地をいつか実現してみたいと思っています。MIMやCIMに取り組む企業では、金型不要で造形できるメリットや、従来実現できなかった大きさの造形を実現できる点を活用いただけるかもしれません。

まとめ

樹脂、金属、セラミックの垣根を軽やかに乗り越える可能性を秘めているペレット式3Dプリンター。製造能力の高さや対応できる材料の幅広さを活かして、試作や治具製作にとどまらず多品種少量生産や中量製造に取り組む際の現実的な手段になる可能性があります。高い材料技術を活かした新しい加工手段は、AMの在り方にも一石を投じるかもしれません。

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(リコーだからできる事)

リコーは3Dプリンターをものづくりの現場で20年以上にわたって活用してきました。 製品の試作に始まり治具製造、さらには最終製品製造へと適用範囲を広げております。 2014年以降、自社で蓄積してきたノウハウを活かして 3Dプリンターの販売や3Dプリンター出力サービスを提供しております。

3Dプリンター出力サービスでは、お客様のご要望やご予算に合わせて 最適な造形材料・造形方式・後加工などをご提案しています。 従来の加工方法(切削/射出成型など)とは異なる、 3Dプリントの特性を最大限に活かした造形を丁寧にご支援します。

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