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失敗しない!
3Dプリンターでの大型部品造形のポイントを技術者が解説

コラム
  • #PA12 #ABS #最終部品製造 #コスト低減

リコーが開発を進める『クローラ型走行ロボット』。大型部品も3Dプリンターで造形する理由とは

30cm以上の大型部品を造形する場合、歪みや反りが発生してしまう、精度が良くならないなど、3Dプリンターでの造形の難しさが見受けられるケースと言われています。デスクトップ型の3Dプリンターを保有している方では、貼り合わせをして大型部品を造形することも可能ですが、分割や貼り合わせが面倒、綺麗に接着できないなどの問題も出てきます。

そうした課題について『リコー3Dプリンター出力サービス』には多くの大型部品の出力依頼が寄せられており、精度の高い大型の3Dプリンターを用いることで対応し続けてきました。ノウハウと実績を併せ持つリコー出力サービス 技術者の小林 峻氏に、大型部品の出力に際して気をつけねばならないことやうまく出力するためのコツなどを伺いました。
(語り手:リコージャパン株式会社 小林 峻氏 聞き手:3DP エキスパート編集部)

プロフィール

小林 峻

小林 峻
リコージャパン株式会社
産業ソリューション事業本部 インダストリアル事業部
造形サービス事業推進室 造形技術グループ

プリンターやMFPのメカ設計者として入社。主に給紙トレイや排紙トレイ、両面ユニットなどの設計を担当。その業務において早い時期から設計者として3Dプリンターを活用することが増えてき、3Dプリンターの価値を実感。社内外のお客様とともに3Dプリンターの価値ある活用法を検討するエンジニアとして活躍中。

大型部品の造形をスムーズに行うためのノウハウ

大型部品の造形が難しい理由

「大型部品の造形は難しい」「大型部品は反りや歪みが発生しやすい」という話をよく聞きます。大型部品の造形がうまくいかず、悩まれる方は多いようです。

そうですね。大型部品の造形では、「寸法精度が悪い」「反りが大きくなる」「強度が不足する」「微細部の再現性が低下する」「コストが高くなる」「納期がかかる」といった問題がよく起こります。

A3サイズ大の大型部品を3Dプリンターで造形すると、このように想定外の問題が起こることが多くなります。

A3サイズ大の大型部品を3Dプリンターで造形すると、このように想定外の問題が起こることが多くなります。

これらの問題を解決するには、どうすれば良いのでしょうか。

私たちは、「求める品質・機能を実現するのに最も適した造形方式・造形条件を選択する」ことが大事だと考えています。つまり、事前準備が重要なのです。

それはなぜでしょうか。

大型部品の場合、造形時の姿勢や位置を工夫するだけでは、求める品質や機能を実現できないケースが多いからです。また、材料や時間を多く使用するので、一度の失敗でもコスト的・時間的ダメージが非常に大きくなります。以上の理由から、造形前にできるだけリスクを排除する必要があるのです。

大型部品造形時の大事な3つのポイント

造形方式や造形条件を選択する際、具体的にどのような点を確認されるのでしょうか。

①造形物のサイズ ②部品の用途や求められる機能 ③QCD項目とその優先度の3点です。

1つめに重要なのが、①造形物のサイズです。造形エリアの大きさは、使用する造形方式によって異なります。そのため、「①造形物のサイズ」が収まる造形エリアを持つ造形方式や3Dプリンターを選択する必要があるのです。

次に、②部品の用途や求められる機能を確認します。寸法精度や微細部の再現性、表面性、価格、納期といった項目に優先順位をつけます。例えば「実使用の試験をしたいので強度が必要」といったケースや、「見るだけなので強度は不要だが、形状を精度良く再現したい」といったケースが出てくるからです。その内容によって方法論が変わってきます。

そして③QCD項目とその優先度の確認も大切です。QCDとは、Quality(クオリティー:品質)、Cost(コスト:費用)、Delivery(デリバリー:納期)の頭文字を並べたものです。QCDのうちどれを優先させるかに応じて、選択すべき造形方式や造形条件が変わります。

大型造形が可能なリコー3Dプリンター出力サービスの3つの造形方式と特徴

大型部品の造形では、どのような造形方式を使用するのでしょうか。

リコー3Dプリンター出力サービスの場合、造形エリアの関係から、材料押出(MEX/FDM)、光造形(VPP/SLA)、粉末焼結積層造形(PBF/SLS)の3方式が候補に挙がります。

3Dプリンティングにおける造形方式の種類のなかから、リコー出力サービスでは大型部品の造形には材料押出(FDM / Fused Deposition Modeling)、光造形(SLA / Stereo Lithography Apparatus)、粉末焼結積層造形(SLS / Selective Laser Sintering)を主に用いています。

3Dプリンティングにおける造形方式の種類のなかから、リコー出力サービスでは大型部品の造形には材料押出(FDM / Fused Deposition Modeling)、光造形(SLA / Stereo Lithography Apparatus)、粉末焼結積層造形(SLS / Selective Laser Sintering)を主に用いています。

各造形方式について、順に材料押出(MEX/FDM)から教えてください。

材料押出は、熱で溶かした樹脂をノズルから押し出し、積み上げて造形する方法です。熱可塑性樹脂を使用できるABSやPC、ULTEMなどのエンジニアリングプラスチックが材料になります。造形の安定性や再現性が高い、内部を格子状の中空構造(スパース構造)にした造形が可能、といったメリットがあります。一方で、他の方式と比較して積層ピッチが大きいため表面の積層段差が目立つといったデメリットを併せ持つのです。

大型造形は一般に寸法ずれや反りが発生しやすいのですが、MEX/FDMは寸法精度が比較的良いため、このような不具合はあまり発生しません。しかし、大型造形における造形時間は他の方式よりも長くなる傾向があります。

続いて、光造形(VPP/SLA)について教えてください。

Vat(バット)とよばれる水槽のような入れ物に液体状の光硬化性樹脂を入れておき、樹脂に紫外線レーザーを当てて一層ずつ硬化させる方式です。①微細部の再現性に優れる、②寸法精度が高い、③造形物表面が滑らかになる、④透明材料の造形が可能、といった点がメリットです。デメリットとしては、強度や色が経時的に劣化する、洗浄などの後処理に手間がかかる、といった点です。

大型造形にVPP/SLAを用いれば、寸法精度が良いので微細部の再現性に優れた部品を製造できます。また、30°以上の斜面は基本的にサポート材なしで造形が可能です。しかし、大型造形となると 強度が弱くなる、コストが比較的高くなる、といったデメリットも。

最後に、粉末焼結積層造形(PBF/SLS)について教えてください。

粉末状の材料にレーザーを照射して、材料を焼結させる(固める)方式です。「箱に粉末状の材料を薄く敷き詰める→固めたい箇所にレーザーを照射する」という動作を繰り返して、材料を一層ずつ焼結させます。

SLSには、①強度が高い、②サポート材が不要、③造形物を縦に積んで一度にたくさん造形できるといったメリットがある一方、材料が粉なので表面がざらざらする、装置が高価、といったデメリットもあります。また、大型造形の場合は熱の影響を受けやすいため、板形状や箱形状の造形では反りや歪みが起こりがちです。

材料押出
(MEX/FDM)
光造形
(VPP/SLA)
粉末床溶融結合
( PBF/SLS )
メリット ・造形の安定性や再現性が高い
・内部を格子状の中空構造(スパース構造)にした造形が可能
・微細部の再現性に優れる
・寸法精度が高い
・造形物表面が滑らかになる
・透明材料の造形が可能
・強度が高い
・サポート材が不要
・造形物を縦に積んで一度にたくさん造形できる
デメリット ・表面の積層段差が目立つ
・積層面をはがす力に弱い
・強度や色が経時的に劣化する
・洗浄などの後処理に手間がかかる
・表面がざらざらする
・装置が高価

リコーの実例から学ぶ造形方式の使いこなし方

①給紙トレイをMEX/FDMで造形

3Dプリンター出力サービスは、リコー社内でも活用されているとお聞きしました。リコー社内で大型部品を造形した事例はありますか。

商用プリンター用給紙トレイ(A3サイズ)の試作品の製作依頼があり、リコー3Dプリンター出力サービスで造形を行ったことがあります。従来の試作方法である切削よりも短納期で造形できないか、という依頼でした。

リコーが手がけるコピー機の給紙トレイを3Dプリンターで造形する社内事例。短納期での実現と仕上がりに期待が寄せられました。

リコーが手がけるコピー機の給紙トレイを3Dプリンターで造形する社内事例。短納期での実現と仕上がりに期待が寄せられました。

A3サイズは造形物のなかでも大きい方に分類されますね。

そうですね。この事例では、高い寸法精度、反りや歪みがないこと、摺動性、強度が求められました。そこで、これらの点で問題がなく、価格や納期といった点を考慮してメリットがあるMEX/FDMを採用し、造形しました。

造形姿勢の3Dデータがこちら。造形姿勢が違うだけでサポート材と造形時間が約2倍になるのです。

造形姿勢の3Dデータがこちら。造形姿勢が違うだけでサポート材と造形時間が約2倍になるのです。

社内の開発担当者からは、「切削と比較すると寸法精度は劣るが、納期が20日から7日に大きく短縮されたのは魅力的」とのコメントをいただきました。

②廃トナーボトルをVPP/SLAで造形

続いては、廃トナーボトルの試作品をVPP/SLAで造形した事例です。廃トナーボトルとは、印刷時に紙に付着しなかった余分なトナー(廃トナー)をプリンター内に溜めておくためのボトルです。従来は切削で試作していましたが、納期が長い、分割接着で作るため密閉性が低い、といった点が課題でした。

同じくコピー機の廃トナーボトルを3Dプリンターで造形するという事例。切削ではできない密閉性の実現というミッションが加わりました。

同じくコピー機の廃トナーボトルを3Dプリンターで造形するという事例。切削ではできない密閉性の実現というミッションが加わりました。

この事例では、給紙トレイの事例とは異なりVPP/SLAを採用されたのですね。なぜでしょうか。

廃トナーボトルは、給紙トレイとは異なり何度も取り外したりしませんし、重いものを入れるわけでもありません。そのため、VPP/SLAでも強度は十分あります。また、FDMは密閉性に懸念があり、PBF/SLSでは反りが発生する可能性がありました。そこで、総合的に考えた結果、VPP/SLAを採用しました。また、この事例では、内部にサポート材を付着させないために水平ではなく斜めの姿勢で造形を行いました。

上段のように水平置きで造形してしまうと、トナー内部にサポート材が詰まってしまいます。そこで光造形セルフサポートは下段のように斜め置きで造形し、結果トナー内部にサポート材が残らなくなりました。

上段のように水平置きで造形してしまうと、トナー内部にサポート材が詰まってしまいます。
そこで光造形セルフサポートは下段のように斜め置きで造形し、結果トナー内部にサポート材が残らなくなりました。

社内の開発担当者は、「寸法精度はVPP/SLAで十分満足。質感がブロー成形と似ている点も高評価」とおっしゃっていました。

③オフィスプリンター用のフレーム部品をPBF/SLSで造形

3つめは、オフィスプリンター用フレーム部品の試作品です。こちらも従来は切削で試作を製作されており、納期が長くコストが高い点が課題でした。

この事例では、どんな品質や機能が求められたのでしょうか。

反りや歪みがないこと、微細部の再現性などですね。熱がかかる場所で使用するため、150℃程度の耐熱性も必要でした。耐熱性の点で条件を満たす方式はPBF/SLSのみであったこと、14個もの部品を造形する必要があったことなどから、総合的に考えてPBF/SLSを採用しました。

開発担当者からは、「切削と比較すると微細部の再現性や寸法精度の差は少しあったが、追加工すれば十分クリアできるレベルなので、それらを考慮すると納期とコスト面のメリットは大きい」と言ってもらえました。

3つの事例は「納期を短くするために3Dプリンターを使用したい」というものでしたが、納期短縮が見込める形状などはあるのでしょうか。

造形装置や造形物、造形配置等によって造形時間や納期は異なってきます。モデルの形状では一概には言えないですね。弊社の3Dプリンター出力サービスでは造形物に求める仕様をお伺いした上で納期短縮が可能な方法を提案させて頂きています。

④社内実践 | プロダクションプリンターの造形

最後に紹介するのは、高耐久・高信頼・高生産の厳しい製品品質を求められるプロダクションプリンターの部品を3Dプリンターで造形した部品に置き換え使用実現が、そして3Dプリンターと新たな設計(Design for Additive Manufacturing)の効果を測るプロジェクトです。これまでリコー設計現場では、3Dプリンターの活用用途はほぼ試作に限られていました。そのような状況の中、自分たちの商品で3Dプリンターの実力を確かめるという活動に取り組んだ事例になります。

それは面白いですね。何点の部品を置き換えたのでしょうか。

全部でパーツ数は158、パターンは193になりました。同じパーツを複数の方式で造形したケースもあるため、パーツ数よりパターン数の方が多くなっています。

大型部品も置き換えたのですか。

そうです。例えば、ADF(自動原稿送り機能)のカバーをVPP/SLAで造形しました。透明材料で造形したので、紙搬送の様子を外部から確認できます。また、給紙トレイやサイドフェンス、インナーカバー類をMEX/FDMで、紙搬送のガイド版をPBF/SLSで作りました。

SLA、SLS、FDMなど部位に最適な造形方式と3Dプリンターを選定し、作成を試みました。

SLA、SLS、FDMなど部位に最適な造形方式と3Dプリンターを選定し、作成を試みました。

3Dプリンター造形品に置き換え、このプロダクションプリンターを稼働させて、通紙試験を実施し、4万枚の紙を通しても問題なく動作しました。この結果には、リコーのプロダクションプリンター設計部担当者も驚きでした。

用途に合わせた設定がカギ

大型部品の製造での注意点はどこになりますでしょうか。

注意しなければいけないのは、貼り合わせ部分の強度が落ちてしまう点です。求められる性能を考慮して、接合部の位置を調整する必要があります。実際に造形したい造形物の目的や機能、形状を一緒に見ながら調整していきます。

求める性能、機能、形状で作り方がだいぶ変わってくるんですね。

現在3Dプリンターの主要な造形方式5種類、20種類以上の材料にも対応しています。さまざまな材質や形状の造形物を研究してきただけでなく、実際に使用できる品質で造形してきた経験をもとにお手伝いさせていただきます。

品質やコスト、納期に問題はないかなどあたりがつけられるのはノウハウがあってこそですね。相談するだけで勉強になりそうです。

3Dプリンター出力サービスの造形時の品質やコスト、納期はご相談からでも熟練の技術者対応いたしますので、気兼ねなくお問い合わせいただきたいです。

大型部品の造形で「もう失敗できない」となる前に

クローラ型走行ロボットの試作機は3Dプリンターを活用し、短納期で製作

大型造形物を一定の品質で造形するには、用途に合わせた方式・材料・造形条件の設定が必要だということでした。自社の3Dプリンターで大型造形を試みようと考えている方はもちろん、□30cm以上の大型造形を目的に3Dプリンター導入を考えている方の中には「何度か挑戦したけど上手くいかない」「上手く造形できるかどうか確証が持てない」といったお悩みをお持ちの方もいるかと思います。「もう失敗できない」という本当に大変な状況になる前に、今後の挑戦に備えた小さな相談から始めてみましょう。

Why RICOH (リコーだからできる事)

リコーは3Dプリンターをものづくりの現場で20年以上にわたって活用してきました。 製品の試作に始まり治具製造、さらには最終製品製造へと適用範囲を広げております。 2014年以降、自社で蓄積してきたノウハウを活かして 3Dプリンターの販売や3Dプリンター出力サービスを提供しております。

3Dプリンター出力サービスでは、お客様のご要望やご予算に合わせて 最適な造形材料・造形方式・後加工などをご提案しています。 従来の加工方法(切削/射出成型など)とは異なる、 3Dプリントの特性を最大限に活かした造形を丁寧にご支援します。