技術者が語る 3Dプリンターのいろは

3Dプリンターならではの形状(ちょうつがい)

本記事の内容が当てはまる造形方式

  • FDM
  • MJ
  • SLS
工夫次第で広がる3Dプリンターの用途

皆さんは3Dプリンターをどのような用途で使用しているでしょうか?担当している製品の試作での使用が多いと思うのですが、その中でも形状を確認するだけという方はかなり多いのではないでしょうか。形状確認はもちろん重要な3Dプリンターの用途ですが、それだけではもったいないですよね。3Dプリンターを使いこなせば、例えば、組立レス設計なども可能だったりします。ということで今回は、ちょっとした工夫で更に3Dプリンターの用途が広がるかも知れない「3Dプリンターで図1のようなちょうつがいの構造が造形出来ますよ」ということについて紹介したいと思います。

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図1:ちょうつがい構造

ちょうつがい構造を取り入れて扉などの作動する機構の動きを確認

皆さんの担当する製品にはユーザーが使用するときに例えば、蓋や扉を開けたり閉めたりといったように形状が変化するものはありませんか?実は、3Dプリンターでちょうつがい構造を作ることが出来るのです。例えば、図2のような「名刺入れ」や図3の「折りたたみ式コンテナ」が3Dプリンターで作ることが出来ます。このようなちょうつがい構造を取り入れることで、蓋や扉などが開いたり閉じたりする動きの確認をすることが可能になります。皆さんの3Dプリンター試作にこれを応用することは出来ませんか?

  • 図2:作例「名刺入れ」

    図2:作例「名刺入れ」

  • 図3:作例「折りたたみ式コンテナ」

    図3:作例「折りたたみ式コンテナ」

では、図2の名刺入れを例に、3Dプリンターで作るちょうつがいの構造について解説しましょう。図4に示すように、名刺を入れる側の部品(ポケット部)と蓋部が回転する軸部が一体になっていて、その軸に蓋部が組み込まれています。蓋部は取り外し不可の状態ですので、組み合わされた状態で造形したということがわかると思います。つまり、図5に示した軸部と軸受け部の"隙間"のサポート材を造形後に除去するとちょうつがいが出来上がります。図2の名刺入れはSLS方式の作例なので、さきほどの"隙間"のサポート材は粉末状ですので、この粉を除去すればちょうつがい構造の完成という訳です。既にお気づきの方も居ると思いますが、このちょうつがい構造が可能となるのは、造形後にこの"隙間"のサポート材を除去出来る方式の3Dプリンターに限定されます。つまり、安価なFDM方式の3Dプリンターに多く見られるモデル材とサポート材が同じ材料のものではまず不可能です。

  • 図4:「名刺入れ」の構造

    図4:「名刺入れ」の構造

  • 図5:ちょうつがいの軸部と軸受け部

    図5:ちょうつがいの軸部と軸受け部

ちょうつがい構造を作るポイント

最後に、ちょうつがい構造を作る時のポイントを紹介します。
・ちょうつがいの"隙間"のサポート材を出来る限り除去しやすいように構造を工夫する。
Ex.軸受けをわざと短く区切って設計しておく(図2、図3の作例参照)
・軸の外径と軸受けの内径の円形状がきれいになる方向で造形する。
・名刺入れのように普段は蓋を閉じて保管する製品でも、蓋を開いた状態で造形する。
(閉じた状態で造形すると蓋と名刺を入れる部分が一体になってしまいます)
・軸と軸受け部の隙間の量は、3Dプリンターの方式や装置、造形方向などにより異なります。最初は何度かトライ&エラーが必要になるかも知れません。

いかがでしたでしょうか。この「技術者が語る 3Dプリンターのいろは」によって3Dプリンターの活用用途の幅が広げることが出来たなら幸いです。

(寺原 大介)

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