AI時代に本当に問われるスキルとは
AI(人工知能)が仕事を変える時代に企業は何を「人の力」として評価すべきなのか。AIを使いこなす力が重要になるのは間違いない。しかし、それだけでは十分でない。定型的な業務をAIが担う比重が高まるほど、変化に適応する力、問いを立てる力、学び続ける力といったソフトスキルの重要性が高まる。経済協力開発機構(OECD)はデジタル化やAIの普及に伴い、技術スキルだけでなく、創造性、コミュニケーション力、対人関係など他者と協働しながら課題を解決し、新たな価値を生み出す力の重要性が高まっていると指摘している(注1)。
本稿では、最新の研究や調査を手がかりに、ソフトスキルの重要性とその見えにくさという課題について考えたい。

労働力の59%、学び直し必要に
経済産業省は今年3月、「2040年の就業構造推計(改訂版)について」を公表した。それによると、AIとロボットの活用が進む中で、2040年には事務職で約440万人の余剰が生じる可能性がある(注2)。数字だけを見ると、「事務職が不要になる時代」が来るようにも映る。だが、ここで起きているのは単純な雇用消失というより、仕事の中身が変化し、求められるスキルが変わっていく将来の姿だ。
実際、AIは職業を一律に代替するわけではない。大規模言語モデルの影響を分析した研究でも、多くの職種で担当業務全体ではなく、その中の一部で影響を受けることが示されている(注3)。定型的な文書作成、情報整理、要約といった業務は自動化や効率化が進みやすい。一方、判断、調整、対話、課題設定といった業務は人が担う余地が大きい。AI時代に問われるのは「自分の仕事がなくなるかどうか」ではなく、「自分の仕事のどの部分が変わり、どの力がより重要になるか」という点である。
この変化は、世界的にも大規模な学び直しを迫っている。世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025」によれば、2030年までに労働者の中核スキルの39%が変化すると見込まれている(注4)。また、世界の労働力の59%は、その変化に対応するために何らかの研修が必要になるという。
必要とされるソフトスキル
では、AI時代に何が重要になるのか。同じく世界経済フォーラムによれば、2025年から30年にかけて重要性が高まるスキルの上位には、AIやITに関連したビッグデータ、ネットワーク・サイバーセキュリティー、技術リテラシーといった技術系スキルが並ぶ。注目すべきは、こうした上位三つの技術系スキルに続く4位以下だ。創造的思考、レジリエンス(困難やストレス、逆境などに適応し、しなやかに立ち直る力)、柔軟性、好奇心といった、いわゆるソフトスキルが名を連ねている。
ソフトスキルとは、コミュニケーション能力や協調性、問題解決力といった、数値では測りにくい「人と円滑に関わるための能力」や「仕事への取り組み方」などを指す。

重要性が増すスキルランキング
(出所)世界経済フォーラム「Future of Jobs Report 2025」を基に作成
何を問題として設定するか
重要性が増しているスキルの一つである創造性について、代表的な研究を見てみよう。
創造性研究と聞くと、多くの人が思い浮かべるのは「独創的なアイデアをひらめく力」だろう。これに対して、米オクラホマ大学の心理学者であるマイケル・マンフォード教授らが過去30年の研究をまとめたレビュー論文は、創造プロセスモデルを示し、創造的な成果を左右する最初の分岐点がアイデアを出す段階ではなく、問題定義の段階にあると示唆している(注5)。
創造プロセスモデルは、問題を定義し、情報を集め、整理し、概念を組み合わせ、発想し、評価し、実行計画につなげていくというさまざまな段階がある。このモデルは、ある時点でうまくいかなければ、前段階へ立ち戻るというフィードバック構造を持っている。情報を集めてみたり、アイデアを出してみたりして、初めて「そもそもの問いの設定が間違っていた」と気づくことも多いのではないだろうか。問題発見(Problem finding)や問題構築(Problem construction)が重要なプロセスとして議論されているのだ。

創造プロセスモデル
(出所)Mumford et al. (2012)を基に作成
土台は専門知識の蓄積
ここで興味深いのは、「良い問いを立てる力」が生まれつきの能力ではないと示唆している点だ。まず土台として欠かせないのが専門的な知識の蓄積。良い問いや良い解決策は豊富な専門知識という土壌があってこそ生まれると言われている。
その上で、曖昧で不明瞭な状況を解決していく際、情報や知識にどのようにアプローチし処理するか、その方法を知っていることが重要だ。具体的には、①典型的な特徴や例外的な特徴を探すといった手順②アイデア実行後の結果の予測③複数の結果に影響する要因は何かといった「因果関係」の考察④「制約」となる事項の体系的な洗い出し―といった「思考の進め方」だ。
可視化が難しい「思考の進め方」
つまり、問いを立てる力には土台となる「専門知識」に加え、それを使いこなすための手続き的な工夫である「思考の進め方」が重要だ。この二つが両輪となって支えている。
厄介なのは、専門知識については資格や実績、扱えるデータの幅といった形で可視化しやすいのに対し、いわゆるソフトスキルである手続き的な工夫は目に見えにくく、評価や言語化が難しい点だ。

仕事の成果にも影響
コンサルティング大手・米デロイトの最近の調査「Human Capabilities Are at the Heart of High-Performing Teams(人間の能力がハイパフォーマンスチームの核)」によると、高い成果を上げるチームに所属していると回答した人ほど、仕事の成果に対するソフトスキルの影響が大きいと見ている(注6)。また同調査は、重要なソフトスキルとして、好奇心、感情・社会的知性、拡散的思考、情報に応じて機敏に行動する力、レジリエンス、境界を越えたチームワークの六つを挙げている。
これは、単なる実務家の経験則ではない。学術研究においても、ソフトスキルの重要性が確認されている。例えば、カーネギーメロン大学のアニタ・ウーリー教授らは、2人から5人で構成されるチームに、論理問題、ブレーンストーミング(集団発想法)、交渉など複数の課題を行わせ、その成果を分析した(注7)。それによると、チームの成果はメンバー個人の知能の単純な足し算では説明できず、社会的感受性の高さや発言機会の均等性と強く関係していた。チームの力は、誰か1人の優秀さだけでなく、他者の状況を読み取りながら、円滑にコミュニケーションできるかどうかにも左右される。
充足度は十分とは言えない
ソフトスキルの重要性は明らかだ。しかし、世界経済フォーラムの報告によれば、企業が把握している自社人材のソフトスキル充足度は、協働56%、創造性・問題解決51%、レジリエンス・柔軟性・俊敏性49%、好奇心・生涯学習33%にとどまる(注8)。重要性は高いが、実際には十分に備わっていると見なされていない。また把握が難しい面もある。

企業がみる自社人材のソフトスキル充足度(世界平均)
(出所)世界経済フォーラム「New Economy Skills: Unlocking the Human Advantage」を基に作成
成長の道筋を「見える化」
こうした中、欧米ではソフトスキルを可視化しようとする動きが出てきている。学校、大学、企業、政府機関などが参加する英国の非営利団体「スキル・ビルダー」は「コミュニケーション」「コラボレーション」「問題解決」などを、初心者から熟達者まで段階に分けて可視化する共通枠組み(ユニバーサルフレームワーク)を整備している。
ユニバーサルフレームワークは、学生から社会人までを対象にコラボレーションなど4分野にまたがる8スキルについて、それぞれを16のステップで進捗(しんちょく)を測る。例えば、コラボレーションに関わるスキルにはリーダーシップとチームワークがある。
このうちチームワークについてみると、最初のステップは協働。「一緒に働くことの意味や効果を理解しているかどうか」を測定する。最終ステップである文化的向上に関しては「チームカルチャーの重要性を理解し、変えていくことができる」ことを基準に達成度を測る。ソフトスキルの習得段階を明確にすることで成長の道筋を見えるようにしている。
人の力の再定義を
AI時代のスキル論は、ともすると「デジタル人材をどう増やすか」という面に偏りがちだ。しかし、本当に問われているのは技術を使いこなす力と並んで、①他者と協働する②変化に適応する③問いを立てる―といった力だ。そして学び続ける力をどう育て、どう評価し、どう生かすかが今後を左右する。それは、個人の努力だけで完結するわけではない。筆者が事務局を務める「はたらく人の創造性コンソーシアム」でも、創造性の発揮には個人の経験や学習だけでなく、心理的安全性や対話のしやすさといったチームを取り巻く環境が大きく影響することを確認している。
事務職440万人余剰という経産省が示した将来推計は、雇用の単純な縮小ではなく、企業が求める人材像の転換と言える。定型的な業務をAIが担う比重が高まるほど、人に求められるのは協働、適応、課題設定、学習といった力、つまりソフトスキルになる。だからこそ今後の人材戦略では、こうした力をどう「見える化」し、育て、評価するかが重要になる。AI時代の競争力は技術導入そのものよりも、それを生かす人と組織をどう設計できるかにかかっている。

《おさらい》
Q AI時代に問われるスキルは何か
A AIを活用するための技術リテラシーや活用スキルに加え、ソフトスキルの重要性も増している。
Q ソフトスキルとは、どのような力か。
A コミュニケーション、協働、レジリエンス、創造的思考など、仕事を進める土台になる力。
Q AI時代に、なぜソフトスキルが重要になるのか
A 定型業務ほどAIに代替されやすく、人には判断・協働・課題設定などの定型化しにくい力が求められるようになるため。2030年までに労働者の中核スキルが39%変わる見込みで、ソフトスキルの比重は一段と高まると考えられる。
注1 OECD. (2025). Empowering the Workforce in the Context of a Skills-First Approach. OECD Skills Studies, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/345b6528-en.
注2 経済産業省経済産業政策局「2040年の就業構造推計(改訂版)について」第30回産業構造審議会経済産業政策新機軸部会 参考資料2、2026年3月5日。
注3 Eloundou, T., Manning, S., Mishkin, P., & Rock, D. (2024). GPTs are GPTs: Labor market impact potential of LLMs. Science, 384(6702), 1306-1308. https://doi.org/10.1126/science.adj0998
注4 World Economic Forum. (2025). The Future of Jobs Report 2025.
注5 Mumford, M. D., Medeiros, K. E., & Partlow, P. J. (2012). Creative thinking: Processes, strategies, and knowledge. Journal of Creative Behavior, 46(1), 30-47. https://doi.org/10.1002/jocb.003
注6 Rizzo, D., Kreit, B., Mahto, M., Schlictman, N., & Spelman, S. (2026, January 14). Human Capabilities Are at the Heart of High-Performing Teams. Deloitte Insights.
注7 Woolley, A. W., Chabris, C. F., Pentland, A., Hashmi, N., & Malone, T. W. (2010). Evidence for a collective intelligence factor in the performance of human groups. Science, 330(6004), 686-688. https://doi.org/10.1126/science.1193147
注8 World Economic Forum. (2025). New Economy Skills: Unlocking the Human Advantage. White Paper.
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