2026年04月

人×AIの協働で対面の価値を再定義。

AIが会議にもたらす変化と、気づきを連鎖させる「デザインシンカー」の仕事

#コラム

#インタビュー

"体験と対話"から生まれたお客様のアイデアや未来構想の具現化を支援するRICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO(以下、RICOH BIL TOKYO)。
来場者の方からいただくご相談の中でも特に多いのが、いかに生成AIを活用していくべきか、ということです。

RICOH BIL TOKYOでは、はたらく人が単純作業から解放され、人ならではの創造力を発揮し、達成感や充足感を得られる世界の実現を目指しています。そこで、次世代のはたらき方を先取りし体感できる、AIを搭載したワークショップルームを開設いたしました。
このAI会議空間では、AI技術を使った新しい会議のフレームワークをつくり、ファシリテーションを行う「デザインシンカー」が新たな共創の起点づくりに取り組んでいます。

今回は、この新たなAI会議空間とはどういったものなのか、またAIを活用した会議を進めていく上でのデザインシンカーの役割について、実際にその役割を務める齊藤和幸と武田修一が語りました。

AI活用によって会議に伴うタスクワークが6割削減。出社による効率性と創造性の再定義がいま求められている

── RICOH BIL TOKYOのワークショップルーム「Summit」に新しくAI会議空間が開設されましたが、どのような空間であるのか教えてください。

齊藤:Summitルームは天井にマイクが設置されておりまして、すべての発話を音声認識AIによって解析しています。そして会議の議事録をAIで自動生成したり、戦略書のようなドキュメントを自動生成したり、また、人力ではたどり着かないような情報をAIが瞬時に収集し、ワークショップでの発話に対して新たな示唆や提案を出してくれるような空間です。

そうしたAI会議空間ができた背景にあるのが、オフィス回帰です。RICOH BIL TOKYOに来場される経営者の方々が最近多く話されているのは、オフィス回帰をどう進めるかということ。
なぜなら、空間を共有することで得られる情報量はリモート会議よりもずっと多く、「違和感」を感じ言葉にできる可能性を高めることができるからです。そのため、より良いインサイトを得て創造性を高められる、と考えられています。

一方、たとえばリモートワークに慣れている方にとっては、すでに自分の働きやすい環境を自宅に整えていたりするため、なぜ出社する必要があるのかと懐疑的になられている方も多いと思います。
そこで、出社による効率性と創造性を再定義し、対話や共創による空間設計と体験の提供というのが、創造的な議論を促進する新たなAI会議空間であるSummitルーム開設の背景のひとつです。

また、昨今はAI人材を育てたいというニーズがある一方、eラーニング等で学んでも実際の業務の現場で活かしきれていないというケースが多くあります。そこで、このSummitルームのようなAIを搭載した空間でワークショップを実施し、AIに親しむ日常体験を通じて、社内のDX人材・AI人材の育成を行うというのがもうひとつの目的です。

お客様を招いたワークショップはもちろん、リコー社内でも昨年よりAIを活用した会議というのを積極的に行っています。過去に半年間、RICOH BIL TOKYOメンバーがどの業務にどのくらいの時間を使っているのかを調査したことがあるのですが、ワークショップの準備や設計に718時間も要しており、全体の業務のTOP3に入るほどのインパクトがありました。

対面会議の有効性は理解しつつも、会議のための資料を準備したり、議事録を作成したりと、会議に伴うタスクワークが実は膨大で、そこにストレスを感じている方が多くいらっしゃいます。日経新聞の調査(日本経済新聞社×Job総研『2025年 職場会議の実態調査』)では、7割もの人が会議に不満を抱えているそうです。そこで我々としては会議に伴うタスクワークはAIに置き換え、浮いた時間をクリエイティブワークに充てていくべきだと考えています。実際に社内実践では、従来のワークショップがAI活用によって6割もの工数削減に繋がっています。

RICOH BIL TOKYO デザインシンカー 齊藤和幸
リコー入社後、複写機・プリンターのプロダクトデザインを起点に、広告・プロモーション領域へ。コピーライティングやコンセプトメイキングを通じてブランド価値を言語化。現在はRICOH BIL TOKYOにて、デザインシンカーとして課題をひも解くワークショップ設計・ファシリテーションを担う。

── AIを活用した会議やワークショップは、事前にどういった準備や設計が求められるのでしょうか?

齊藤:AIを使えば勝手に良いアウトプットを出してくれるかと言えばそうではなく、従来の会議ではたどり着かない結果や成果を得られるよう、事前にお客様と打ち合わせし、課題をひも解くワークショップのフレームワークの設計が求められます。

共有がメインの定例会議や来期以降の戦略を練っていく経営会議、またアイデア出しのためのワークショップ形式の会議など、会議の種類ごとにその会議のゴールが異なります。AIのアウトプット精度を高めていくためには、各会議のゴールに応じて、事前にフレームワークを設計していくことが重要です。

たとえばDXを推進したいお客様とのワークショップでは、対話の中で様々な業務課題についての発話が生まれることが想定されます。そうした際に、ただテキストベースで要約するのではなく、緊急度と重要度の軸でマッピングさせることで、この課題は緊急度も重要度も低いからこれ以上議論は行わないという意思決定ができたり、逆に緊急度も重要度も高い課題に対しては、その場でさらに深堀りしていくということができます。

どういったアウトプットがあれば議論がより活発化するか、人力ではたどり着かないアイデアが生まれていくか、そうしたことを踏まえたフレームワークの設計が大切になります。

武田:実際に私たちがSummitルームで行うワークショップでは、お客様企業の抱える課題を可視化、言語化していくわけですが、そこから次のアクションへと繋げていくことが重要です。解像度の高いアクションを出すために、事前のプロンプトのチューニングが非常に大切になります。

AIを活用したワークショップはインプットとアウトプットの繰り返しで進んでいきますが、どういったインプットがあると次にどういったアウトプットが出るかを事前に設計する必要があり、こちらが求める粒度のアウトプットを出すためには、やはりプロンプトのチューニングが鍵となります。

もしもプロンプトがいまいちであれば、求める粒度でのアウトプットが出てきません。そこでワークショップがスムーズに進行できるよう、一度ひとりでダミーのデータ等を用いながらワークショップを擬似進行して、アウトプットをシミュレーションしています。

また、当日のワークショップにおいても、粒度の高い発話が生まれるように適切な問いを投げかけたりといったファシリテーションも重要であり、そうした事前設計から当日の進行までを担当するのが、我々デザインシンカーの役割です。

── いまお話があった、デザインシンカーとは一体何なのか、またデザインシンカーとしてどういったミッションを抱えているのか教えてください。

齊藤:昨今は様々な企業で “デザインシンカー” という言葉が定義されておりますが、我々は「問いを立てる」「場をつくる」「価値を生む」仕事を行うのがデザインシンカーであると捉えています。

営業担当がお客様企業を訪問し、応接室などでお客様が何に困っているのかをヒアリングし、そのお困りごとに対してソリューションを提案するということは一般によくある流れです。しかし、よくヒアリングすると、根本的な課題が別の部分にあったりするということは珍しくありません。

そこで我々はまずはじめに、お客様のありたい姿(ゴール)をテーマにお伺いし、そこから具体的な業務課題を深堀りしていきます。そうすると課題だと思っていたことが本質的な課題ではなかったり、またいままで気づけていなかった本質的な課題に出会えます。
よく我々が例えとしてお話するのが、頭痛のケースです。頭が痛いというときにただ頭痛薬を処方するのではなく、休息を取ることであったり、気分転換することが根本的な解決策になったりするように、本質的な課題を見極め、根本的な解決策を共に考えるお手伝いをするのが、デザインシンカーの仕事だと捉えています。

武田:デザインシンカーはそうした漠然とした課題感を具体化していき、構造化して整理し、解決策を提案していくわけですが、根本的な課題の発見だけでなく、いかにお客様と共創を進めていくか、その起点をつくることが私たちのミッションでもあります。
昨年度はデザインシンカーの検証期間として進めてきましたが、本年度からはさらに多くの共創プロジェクト案件へと繋げていきたいと考えています。

RICOH BIL TOKYO デザインシンカー 武田 修一
リコー入社後、インハウスデザイナーとしてユーザーインターフェースのデザインを担当。その後、コピー機や複合機のデザインを担当する。様々な社内プロジェクトの支援業務を経て、2018年よりRICOH BIL TOKYOの立ち上げに参画。新規事業支援にも携わり、現在はデザインシンカーとして従事。

── ワークショップの設計・進行において、どういった点を特に意識して組み立てていますか?

武田:設計フェーズではやはりプロンプトのチューニングというのが重要になりますが、ワークショップの実際の進行においては、言語化というのを意識して進めています。
たとえばワークショップの中でも、対話の中でなんとなくニュアンスで内容が理解できるというシーンは多くあったりします。そうしたときは意識的にテキストに残るよう、それはどういうことかと再度聞き直したりします。

粒度の低い対話ばかりの場合はアウトプットの粒度も低くなってしまいます。アウトプットの質はインプットの質に依存するため、粒度の高い発話が生まれるような問いを投げかけたり、ひたすら話してもらえる空間づくりなどを意識してみたりして組み立てています。

──実際のワークショップを通じて、これまでにお客様からはどういった反響がありましたか?

武田:AI会議空間の利点は、タスクワークの削減はもちろん、AIによっていままで得られなかった気づきや視点を得られるということがあります。
そもそも対面での対話の価値というのは、ひとりで仕事をしているとどうしてもひとりの創造性からの発想になるところを、そこを超えた新たなアイデアが生まれやすくなる点にあります。

ワークショップではまず、お客様の業務で本来実現したい価値と、お客様が持っている技術や業務アセットを整理しながら解決策を考えていきます。ただ、価値とアセットをそのまま掛け合わせただけでは、いつものアイデアにとどまってしまうことが多いのも事実です。
そこでSummitルームでは、AIを活用してお客様の価値とアセットを起点に、すでに世界で実現している先進事例を瞬時に収集します。それらの事例に触れることで、自分たちだけでは思いつかなかった視点や選択肢に気づき、議論が自然と広がっていきます。

AIを活用することで、今まで情報収集に時間がかかっていた世の中の先進事例を、議論の流れの中で即座に取り入れることが可能になりました。いろいろな人の知識を組み合わせることで、視野が拡張されてアイデアも増幅されるわけです。
それに刺激され議論が活性化し、 そこにさらにAIが加わることで、よりアイデアがブーストしていく―― 。そうした創造性が加速していくことが、AI会議空間の大きな利点です。

齊藤:デザインシンカーとしては、課題をひも解くためにも集まった人に対してどれだけ発話してもらえるか、場をいかに活性化させるかが重要になります。
そうした心がけの結果、とあるワークショップは非常に盛り上がり、お客様からは「踊る会議だった」と素敵なお言葉をいただいたこともありました。

対話を重ねるだけであらゆることが創造的に決まっていく。
クリエイティブワークに集中できる世界観の実現を目指して

──そうしたAI×会議・ワークショップが普及していった先にどういった未来が待っているとお考えですか?

齊藤:まず、人間のインターフェースをしたAI、すなわちバーチャルヒューマンが会議やワークショップをファシリテーションする未来が訪れていくでしょう。
しかし、バーチャルヒューマンばかりになると、我々人間は「バーチャルヒューマンに指示されている」という感覚になったりと、最終的な意思決定に対して頭では理解できていても、感情的には納得できないという状況になってしまうと思います。

たとえば音楽でも、すでにAIによって生成された音楽があったりしますが、人間が聞きたいと思うかどうかで言えば、私たちは人間がつくったものに心が惹かれたりするわけです。
そのため、会議やワークショップにおいても、この部分はバーチャルヒューマン、この部分は人間に任せようといった役割分担が出てくるでしょうし、ファシリテーションにおいてもこのトピックであればこの人、あの人といったファシリテーターの個性が大事になってくると考えています。

武田:従来のワークショップであれば、インプットデータを用意するために事前に宿題を用意したりしていましたが、AI会議空間ではAIがインプットデータを膨大に用意できるため、我々人間はそれらのデータに対して思ったこと、思いついたことをただ話すだけでワークショップが進んでいきます。

つまり、ただ対話を重ねていくだけであらゆることが創造的に決まっていき、合意形成が進みやすくなります。合意形成によってチームとして動きやすくなったり、組織力が強化されるケースが増えていくでしょうし、対面であるべき必要性が生まれていきます。
リコーが掲げる「はたらき方を変えていく」ということを我々自身も実践していき、人間がタスクワークからクリエイティブワークに集中できる空間をつくっていければと考えています。

──最後におふたりの今後の抱負をお聞かせください。

武田:これまでは検証期間と位置づけてSummitルームでのワークショップを実施してきましたが、今後はより進化、発展させてお客様課題に寄り添い、課題解決に伴走してご支援できるよう、このワークショップをサービスとしても展開していく予定です。
このAI会議空間で様々なお客様との共創の起点をつくり出していきたいですし、それに伴い、若手のデザインシンカーの育成にも力を入れていきたいと考えています。

齊藤:Summitルームの取り組みはメディアでも注目されつつあり、お問い合わせをいただけるようになってきました。すでにPoCの実施や現場への実装まで進んでおり、一定の手応えは得られています。

一方で、個別の現場課題の解決にとどまらず、より早い段階から横展開を見据えた取り組みへとつなげていくことが重要だと考えています。
今後は、こうした取り組みを起点に、点で終わらせるのではなく、共創プロジェクトへと発展させ、より一層加速させていきたいと考えています。

参考動画

本記事でご紹介した「AIが支援する会議」の取り組みについて、具体的なイメージを伝えている紹介動画です。

クリエイティブな発想と対話を促すAI参加型ミーティング
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