2026年05月
現場を歩いて動画を撮るだけで進捗を見える化へ
労働人口減少時代の業界変革に挑む、日本設備工業×リコーの施工管理DX

リコーのデジタルサービスと顧客のアイデアの融合によって価値を生む知的創造空間、RICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO(RICOH BIL TOKYO)。
ここで現在、空調・衛生設備工事を主力とする日本設備工業株式会社と共に、3次元点群認識とAIによる施工進捗管理可視化の共創プロジェクトが進んでいます。
これは、設備工事の計画データと現場の実績(現場の状況を「RICOH THETA X」で撮影したもの)を3次元点群化し、デジタルの仮想空間上に重ね合わせて表示。さらにリコーの画像認識技術を用いてデジタルツイン上で位置合わせ・差分検出・物体認識を行い、進捗度合を算出してその差分を可視化するというプロジェクトです。現在は、進捗算出ロジックの検証を進めながら、現場でのテスト運用に向けたシステム開発を進めている段階です。
労働人口が減少する中、建設・設備工事業界の属人化の解消だけでなく、データ蓄積・活用によって働き方改革へも繋がっていく本プロジェクト。
今回はRICOH BIL TOKYOに来場いただいた背景から実際の共創プロセスに至るまでを、日本設備工業株式会社 事業統括本部 技術統括部 部長の足立 篤史様、渡邉 英人様、そして本プロジェクトを担当したリコーの萩田 健太郎およびリコージャパンの吉田 拓人が振り返りました。
AI活用による3Dモデル作成など、すでに一定の成果は上がっていたものの、日常的に現場で活用するには課題が多かった
リコー萩田:貴社では、リコーとの共創プロジェクト以前から、現場業務でデジタル技術やAI活用を積極的に行われていたと伺っています。あらためて、どのような取組みをされていたのか、またその背景について教えてください。
足立様:これまでもAIツールによる業務効率化や、3Dレーザースキャナーを用いた現状図作成、複雑な設備空間の3D化に取り組んでいます。具体的にはMatterportによる3Dモデル作成も導入しており、360度画像をAI技術により自動で点群合成ができるようになっています。これにより従来手作業で行っていた点群データの結合や調整といった複雑な作業が不要となり、お客様への工事説明をより視覚的に、わかりやすく行えるようになりました。
そうした取組みの背景としては、やはり労働人口の減少という社会課題が大きく影響しています。我々の業界においても、現場での作業員が減っていくという未来が見えている中で、いかに限られた人数で現場業務を遂行していくかを考えていく必要がありました。
そこで積極的にDXの取組みを進めていくようになったのですが、実際にAI活用によって、あるオフィスビルのプロジェクトでは施工準備時間が52%削減、施工図作成時間は45%削減と、一定の効果を上げることができていました。

日本設備工業株式会社 事業統括本部 技術統括部 部長 足立 篤史 様
リコー萩田:それはすごいですね。すでに業界的にも先進的な取組みをされていた中で、どういった課題感をお持ちだったのでしょうか?
渡邉様:いくつかありますが、まずひとつが技術的なハードルの高さです。AIによる自動合成で3Dモデル作成が効率的に行えるようになったものの、効果的に活用するには専門的な知識と経験が必要でした。
また、機器自体が重く、機械室や屋上などの限定された空間では効果を発揮するものの、より広範囲に現場全体で日常的に活用するには、作業時間やコストの面でも課題を感じていました。
AI活用をより広く現場浸透させるためには、誰でも毎日簡単に使えること、そして当社の業務に最適化できる技術が必要です。そこでドローン撮影画像によるSfM(Structure from Motion)処理による取組みも行っていました。
しかし、狭小空間での限界や飛行許可の問題、また広大な場所ではデータのズレなどが発生してしまうなど、まだまだ課題も多く、代替手段を模索していたことが今回のリコーとの共創プロジェクトに至ったきっかけでした。
目指したのは「現場を短時間歩いて動画を撮るだけ」の運用。リコーのデバイスとAI・画像認識技術が課題解決に繋がると確信
リコー萩田:2024年にRICOH BIL TOKYOに来場いただき、リコーの3D技術やデジタル活用に関心を持っていただいたことが、今回の取り組みのきっかけでした。その後、双方で対話を重ねる中で、日々の工事進捗を3Dで可視化し、設計データと比較しながら把握したいというテーマが具体化していきました。
こうした経緯も踏まえて、あらためてRICOH BIL TOKYOの印象についてお聞かせいただけますか。
足立様:もともと建設業界向けのソリューション開発を検討する過程で、リコーの360度カメラ「RICOH THETA」を知りました。また、リコーは建設業界向けのAI・画像認識ソリューションの開発もされていたため、当社の課題を解決できる画期的なソリューションが生まれるのではと考えていました。
そうした中、初めてRICOH BIL TOKYOを訪問した体験は、非常に刺激的であったことを覚えています。画像認識AIや3Dスキャンなどの実際に動くデモを目の前で見させていただき、「これであれば現場で使える」という確信が生まれましたし、技術を実際に体験する重要性を強く実感しました。
また、我々は遠隔管理や定点監視といった具体的な手段を想定していたのですが、ワークショップでは、「現場での進捗管理で本当に困っていることは何か」という根本的な問いから始まりました。
そこで表面的な解決策ではない、真に価値のあるソリューションを目指せるのだと気づきましたし、対等なパートナーとして、共に未来を創っていく姿勢に強く共感しました。

リコー 技術本部 DT技術開発センター ODS開発室 開発1グループ 萩田 健太郎
リコー萩田:先ほど渡邉様からもお話がありましたが、点群を取得する技術はいろいろとあるものの、重さやコストの課題があり、誰でも使えるというものではありません。
そこで今回、「現場を短時間歩いて動画を撮るだけ」という運用実現に向けて、RICOH THETAを用いて3D点群データを取得し、事前に登録されたBIM/CADデータと比較して、配管やダクトの設置状況を設計データと比較し、進捗を可視化する仕組みづくりを進めました。
しかし、配管と言っても種類や長さなど複数のパラメータがあり、映像だけではどの部材が入ってきているのかが判断できません。そうした設計図と実際の設備機器のマッチングの精度をいかに高めるかがポイントで、リコー独自の画像認識技術含め、複数のロジックをかけ合わせながら、泥臭く様々な方法を試して進めていきました。
リコー吉田:また、工事現場をシステム化していく上では、当然ながら現場の実際の業務を理解する必要もあります。また、そもそもどういったアウトプットがでれば、実際の管理者にとって進捗管理が行いやすいのかなど、我々にとっては不明点も多くありました。
そのため、何度もすり合わせをさせていただきましたし、サンプルとなる実データをご提供いただいたり、実際の工事現場に同行させていただいたりと、本当にお忙しい中ご協力いただき、とても感謝しています。

日本設備工業株式会社 渡邉 英人様
渡邉様:我々としても、気づかずに業界用語を使ってお話していたことも多々あったと思いますし、難しい要件を伝えていたこともあったと思います。それにもかかわらず、こうして形にしていただけたことはとても感謝しています。
また、私自身もこれまで360度カメラを用いた点群化は行っていましたが、オープンソースでできることには限界がありました。そのため、自分ではできなかったことをリコーでは実現できていて、あらためてリコーの技術力に驚かされました。
そしてプロジェクトを通じて、あらためてRICOH THETAの素晴らしさを実感しました。360度全方位を撮影できるからこそ、どこを撮るかを考える必要なく、ただ歩いて撮影するだけという運用が可能になります。
また、照明条件が様々な建設現場であっても、高性能センサーによって鮮明な画像が撮影できるため、撮影条件の影響を受けにくい運用を目指しやすい点も魅力です。
なによりも、RICOH THETAは気軽に現場に配布できるということが大きなメリットです。高価な機器となると、どうしても簡単に配るのは難しいのですが、高価な測量機器と比べると導入しやすいRICOH THETAであれば、現場に複数台配布して活用する世界観も想像しやすいと感じています。
これから、いよいよ現場での検証がはじまっていくため、現場からの反響も非常に楽しみです。

労働人口減少に対応するソリューション。データ活用で建設・設備工事業界の働き方が大きく変わっていく
リコー萩田:今回の進捗管理の自動化が実現することで、どういった変化が起こるだろうと期待していますか?
渡邉様:今回の取組みによって、現場をデジタル上に再現するデジタルツインを生成できるだけでなく、時系列で現場の状況を追えるようになるため、そうした情報が自社のデータベースとして蓄積されていくことにも価値を感じています。
たとえば、どういった規模の現場で工事がどれだけの日数で終わったのかといった進捗具合は、これまでは現場の経験に依存しておりました。そうした暗黙知が形式知となり、会社の財産になっていくというのは非常に大きな変化だと感じています。
また、どれだけ設備機器が入っているのかといったモノの進捗率は、これまで現場でしかわかりませんでした。しかし、データベース化されることで誰もが正しく管理できるようになり、将来的には、進捗データを見積や出来高管理と紐づけることで、金額面での進捗把握にもつなげられる可能性があります。
また、予定よりも進捗が遅れている場合は適切な対処を講じるなど、本来あるべきマネジメント体制が実現できるというのは、この業界において画期的な変化です。

足立様:進捗を正しく把握できるようになることは、施工ミスの軽減にも繋がっていきますから、品質面での保証がより確実になっていくことも期待できる変化のひとつです。
また、同じ現場は二度とないからこそ、業務の体系化が非常に難しかったのですが、データがあることで社員教育にも活用できることにも期待しています。
リコー吉田:現場の方も報告したいわけなのですが、報告のためだけに資料を用意するのは気が進まないことかもしれません。しかしデジタルツインで状況が伝わる状態に近づけられれば、報告のためだけの資料作成を減らせると思っています。
そうした管理のためだけの作業や時間が減っていき、みなさんの業務がもっと楽になったら、私たちもとても嬉しく思います。
今回の共創プロジェクトは、あらためて建設・設備工事業界全体のDXという観点において、どういった意義を持つと感じられていますか?

リコージャパン デジタルサービス技術本部 オファリング企画センター テクノロジーインキュベーションラボ
SEサービスデザイングループ 吉田 拓人
足立様:やはり、労働人口減少に対応するソリューションであるということに、大きな意義があると感じています。そして、人が増えなくても同じ売上高を実現したり、また週休3日制になっていったりと、より労働環境を改善していけるでしょう。
特に建設業界には、体力的な負担や危険を伴う仕事というイメージもあるため、魅力的な業界に変わっていく必要があります。当社でも残業なし、完全週休二日制を導入しているのですが、今回の取組みはそうした業界のあり方を変えていく大きなきっかけになっていくことは間違いありません。
また、技術継承も業界課題のひとつ。現場で見て学ぼうにも、技術力を持った先輩がいなくなっていく未来がもう来ています。そのため、彼らの技術を継承していくためにも、いまのうちにデータベース化していく必要があります。
そのような観点からも今回の取組みは非常に意義あることであり、今後は設計図からのCADデータの自動生成など、今回の取組み以外にもDXを進めていきたいと考えています。
渡邉様:この業界は、2Dの図面で意思決定していくのがまだまだ当たり前。3Dモデルで意思決定していくということ自体が、一般の工事ではそう多くありません。
今回の取組みが広がっていくことで、建設・設備工事業界での進捗管理に客観性が生まれていくでしょう。客観性が生まれることで属人化がなくなっていきます。そして遠隔管理が実現することで管理業務の効率化も図れます。
そして何よりも意義があるのは、データの蓄積と活用です。データ活用によって、工期の予測精度は向上していくでしょうし、リスク予測にも活用できます。また、社内および協力業者とのコミュニケーションの効率化を図れるなど、総合的な働き方改革に寄与する取り組みだと感じています。また、データを活用することで発注者の方にも工事の状況をより分かりやすく共有できるようにしていきたいと考えています。進捗や品質を客観的に示せる施工体制を整えることで、安心して任せていただける現場づくりにつなげていきたいです。
リコー萩田:今回の進捗管理はあくまでも一歩目に過ぎません。お話があった通り、技術継承という文脈でも活用していきたいですね。また、将来的には、デジタルツイン上に記録されたトラブル内容や対応履歴を蓄積し、類似事例の検索やマニュアル整備、リスクの事前把握につなげていくことも考えられます。
そうしたデータが蓄積されていくことで、新たなプロジェクトの際も過去の類似プロジェクトのデータを参考に、次の現場での計画や判断を支援するなど、様々な可能性が広がっていきます。
今後現場での試験活用が始まっていき、また新たな課題に直面するでしょうが、引き続き共創パートナーとして、価値創造に取り組んでいければと存じます。本日はありがとうございました。

お客様情報
日本設備工業株式会社 様
詳しい情報は、こちらをご覧ください。
https://www.nihonsetsubi.co.jp/