2026年09月

工場操業を支える重要インフラを守るために。

24時間365日の水質管理現場が進めたDX

#解決シナリオ

#インタビュー

#共創事例

リコーのデジタルサービスと顧客のアイデアを融合し、新たな価値を生む知的創造空間、RICOH BUSINESS INNOVATION LOUNGE TOKYO(以下、RICOH BIL TOKYO)では今、川崎重工業株式会社が掲げる「FMビジョン2030 (FM:ファシリティマネジメント)」の実現に向けた共創プロジェクトが進んでいます。

その具体的な現場導入事例が、明石工場における排水設備巡回点検のデジタル化です。明石工場では、51万平方メートルの広大な敷地でオートバイなどの製品が生産されています。一方で、生産現場からは大量の排水が発生しており、その水質を24時間365日体制で管理しています。排水の管理は社会的影響が大きいからこそ、一切の妥協が許されない領域です。さらに、限られた人員で安定した運営を続けるため、現場の業務負荷をいかに軽減し、人がより付加価値の高い業務へ注力できる環境を整えるかという点も、大きな課題となっていました。

そこでスタートしたのが、川崎重工業株式会社、そのインフラ維持管理を担う株式会社カワサキライフコーポレーション(以下、KLC)、そしてリコーの三者による共創プロジェクトです。

現在では、敷地内に数多くある点検メーターを1日4回、目視で巡回点検していたところを、センサーによる遠隔監視と「RICOH kintone plus」によるダッシュボード化によって、巡回を1日1回に削減。しかも夜間点検が不要になり安全性が向上しただけでなく、20分ごとに届くデータによって異常の予兆を先回りして把握できるようになりました。

今回は、プロジェクトのきっかけとなった課題感から共創のプロセス、そしてその先に見えるさらに進化した未来まで、川崎重工業株式会社 総務本部 明石事業所 環境エネルギー課 竹田 仁様、株式会社カワサキライフコーポレーション 吉岡 慎吾様、そして本プロジェクトを担当したリコーの上野 真由子、石倉 浩二が振り返りました。

「これは本当に人がやるべきことなのか」24時間365日体制で工場の水質管理を担う現場が向き合った、業務負荷軽減と人がより価値を発揮できる環境づくり

リコー上野:まずは、おふたりの担当業務および明石工場の特徴について教えていただけますか?

竹田様:私は、この明石工場で操業に伴う環境の保全を担当しています。明石工場は新幹線が停まるような街にありながら、すぐそばには瀬戸内海、そして六甲山系が広がるような、自然に近い一方で周辺には住宅街が広がっており、地域住民とも近い工場です。
だからこそ操業にあたっては常に環境への配慮が欠かせませんし、地域と密着した工場であることが、明石工場の特徴になります。

吉岡様:私は2016年にKLCの前身である川重サービスに入社し、以来ずっと同じ部署で排水処理設備や工場へ供給する工業用水設備など、水インフラの維持管理を担当しています。

兵庫県より購入した工業用水を受け入れるのですが、もともとは川の水ですので、ろ過や給水を行い、工場全体へ工業用水として送り出す。そして使い終わった排水を処理する、そうした水の管理を24時間365日体制で行っています。

川崎重工業株式会社 総務本部 明石事業所 環境エネルギー課 竹田 仁 様

リコー上野:今回のプロジェクトのきっかけには、「FMビジョン2030」があると伺いました。あらためて、どういったビジョンなのか教えてください。

竹田様:当社グループでは、2030年に向けた将来像として「グループビジョン2030」を掲げています。
(参考:
グループビジョン2030 川崎重工業株式会社
総務本部では、その実現に向けて工場・建屋・インフラなどのファシリティを経営資源として捉え、その価値最大化を目指す「FMビジョン2030」を策定しました。

その活動の一つとして進めているのが、鷲の視点でファシリティを統括管理することを目指した「Eagleプロジェクト」です。今回の取り組みは、そのEagleプロジェクトのテーマの一つとして、リコーとの共創によりスタートしたものです。

また、FMビジョン2030の実現に欠かせないのが「人」です。現場で働く人がより価値の高い業務へ挑戦できる環境を整えていくことも重要なテーマだと考えています。

吉岡様:KLCでも「KLCビジョン2030」を掲げており、水インフラに加え、より幅広いファシリティサービスを担う企業を目指しています。今回の取り組みも、それぞれのビジョン実現に向けた具体的な活動の一つと位置付けています。

リコー上野:そうしたビジョンを実現していく上で、設備保守の現場ではどのような課題を抱えていたのでしょうか。

竹田様:やはり一番のテーマは、人がより価値の高い業務に時間を使える環境をつくることでした。今回の共創プロジェクト以前は、敷地内に分散配置されている数十の排水設備に対し、1日4回の巡回点検を実施していました。
明石工場は51万平方メートルと非常に広大な敷地であるため、巡回点検には多くの工数がかかっていました。そのため、点検業務の効率化を進めながら、人が設備改善や運用高度化といった創造的な業務に取り組める環境を整えていく必要がありました。

一つひとつを目視で点検する中、「本当にこれは人がやらないといけないのか」という思いが常にありましたし、そうした業務を少しでも減らしていきたいと思っていました。しかし、具体的にどう進めればいいのかが見えていなかったのが実状でした。

そんなときにきっかけをくれたのが、リコーでした。もともと私たちの部門以外でもDXを推進していこうという流れがあり、そこで「FMビジョン2030」実現のための「Eagleプロジェクト」の一環としてリコーとの共創が始まり、それを出発点に、今回の点検の遠隔監視の取り組みがスタートしました。

現場へ行かずとも、水質状況をリアルタイムに可視化。
異常時に先手を打って対処できるようになった

リコー上野:今回は単なるシステム導入ではなく、まずは課題の抽出や言語化といったところから一緒に進めていきましたね。そして点検の遠隔監視を実現していく上で、はじめはカメラを設置して遠隔監視を行う方法や、センサーによって各メーターのデータを収集する方法など、複数のアプローチを提案させていただきました。

最終的にそれら両方を実装し、みなさまのご意見を伺いつつ、PoC(概念実証)を進めていきましたが、遠隔監視を実現していく上で不安視していたことは当時どういったことがありましたか?

株式会社リコー 経営企画本部 デジタルビジネスイノベーション事業部 共創ビジネスセンター
ソリューション事業室 上野 真由子

竹田様:正直、当初はセンサーで収集したデータを信じていいのか不安でした。これまでは目視で各メーターの数値を確認するというフローであったため、遠隔監視でも「自分の目で確かめたい」という思いがありました。
事務所のパソコンでデータを見ていても、もし実際のメーターは違う数値になっていて、問題が起きていたらどうしよう、といった不安があったのです。そこで、カメラで実際のメーターの数値を見られたほうがいいと当初は思っていました。

しかし、PoCを重ねていく中で、センサーでも正しいデータが飛んでくるというのを確認でき、これであればセンサーでも大丈夫だと思えるようになっていきました。

リコー上野:水質管理はとりわけシビアな領域であるからこそ、実際のメーターの数値を正しくセンサーで正確に取得できるかどうかは、非常に重要なポイントでしたね。

竹田様:そうなんです。排水の場合は、異常な水質が敷地外へ流出してしまうと地域への悪影響が大きくなってしまいます。環境事故は社会的に大きな影響を与えてしまうからこそ、目視ではない、センサーでの遠隔監視に当初は大きな不安を感じていました。

しかし、PoCを通じてセンサーによる監視が信頼できるとわかりましたし、以前は1日4回だけしかメーターの数値を把握できていなかったのが、20分ごとにデータが飛んでくるようになり、監視体制をより強化できることがメリットであると感じました。

リコー石倉:私はセンサーから上がってくるデータを表示するダッシュボードを担当しましたが、みなさまから様々なご意見をいただけていなかったら、使い勝手の悪いダッシュボードになっていたと感じています。

実際にはじめは、これまでの業務フローに沿って、現場のメーターと同じように数字をわかりやすく見せようという視点で、ダッシュボードを構築していました。
しかし、お話を伺っていくと、グラフで見えたほうがいい、基準値を見える化したいといったご意見をいただき、少しずつ改善を重ねていきました。そうしたご意見をいただけたからこそ、現場の業務をより良くするダッシュボードになったと思っています。

株式会社リコー 経営企画本部 デジタルビジネスイノベーション事業部 共創ビジネスセンター
ソリューション事業室 ソリューション推進グループ 石倉 浩二

竹田様:我々の要望を汲み取って、ダッシュボードを改善し続けてくださったことに感謝しています。以前はメーターの数値が基準値よりも上か下かと都度判断する形でした。しかし、今回ダッシュボードで数値の傾向をグラフ形式で読み取れるようになり、水質が安定しているかどうかを可視化できるようになったのはとても大きな変化でした。

また、今までは水質が悪化して初めて警報が鳴る仕組みでしたが、現在は警報が出るような危険なラインまで行かなくても、そこに近づいているという変動そのものをリアルタイムなデータの推移から読み取ることができます。その結果、何か異常があった場合に先手を打って対処するということが可能になりました。

オファリングモデルを活用したファシリティマネジメントの高度化

今回の取り組みは、リコーが展開する製造業向け設備保守・ファシリティマネジメント高度化の取り組みにおける実践事例のひとつ。設備保守の現場が抱える業務負荷の軽減とファシリティマネジメント業務の高度化を目指して、川崎重工業様、カワサキライフコーポレーション様、リコーの三者で進められた共創プロジェクトである。

リコーが展開するオファリングモデル「ユーティリティFMの高度化」をベースに、川崎重工業様の現場課題や要件に合わせてソリューションを最適化。PoC(概念実証)や機能検証を重ね、FM業務の高度化を実現した。

本オファリングモデルで提供する仕組みやソリューションは、設備保守やFM業務に共通する課題の解決に活用でき、別の拠点や他の製造業へ展開が可能なものである。

現場主導で開発されたkintoneアプリは20個以上。
タスクワークからクリエイティブワークへと変化していった

リコー上野:あらためて今回の取り組みを通じて、現場ではBefore/Afterでどのような変化があったのか教えてください。

竹田様:1日4回だった巡回点検がいまでは1日1回のみとなり、工数が大幅に削減できたというのがやはり大きな変化です。
また、以前は何かあったときのために常に人がいる必要があったのですが、何も起きなければ、ただ人がいるだけの非生産的な状態になっていました。しかし、現在は大幅に工数を削減できたからこそ、他の部署の業務にもリソースを充てられる体制を構築できるようになり、工場全体で生産性の高い状態へと変化することができました。

吉岡様:これまでは決められた時間に決められた場所へ行く、といった点検業務が多くありました。
しかし、遠隔監視できるようになってリソースに余裕ができたことで、業務改善に繋がるアクションを起こせるようになったり、新しい資格を取得する余裕が生まれたりと、主体性を持って働けるようになりました。仕事に対するやりがいは、以前に比べて確実に増えたと実感しています。

株式会社カワサキライフコーポレーション 吉岡 慎吾 様 

リコー上野:吉岡様は、空いた時間を活用してご自身でノーコードツール(RICOH kintone plus)を用いて様々な業務アプリを開発されていると伺いました。そのきっかけを教えていただけますか。

吉岡様:ダッシュボードができる前までは、現場では紙にメモを取り、それを事務所に戻って報告するという仕事の進め方が当たり前でした。職場には共用パソコンはありましたが、私は個人パソコンを持っておらず、パソコンを使った業務はほとんどありませんでした。
そんな中、このプロジェクトをきっかけに個人パソコンが支給され、データやダッシュボードに触れる機会が増えました。もともとITに詳しかったわけではなく、趣味でパソコンを使うこともありませんでしたが、「せっかくなら自分たちの仕事をもっとやりやすくできないか」と思い、業務アプリ作りに挑戦してみたのがきっかけです。

リコー石倉:どのようなアプリから作り始めたのですか。

吉岡様:はじめに作ったのは、まだセンサーでデータが取れていない点検項目を管理するための日常点検アプリでした。実際に作ってみると、現場の困りごとを自分たちで解決できることが面白く、次々と改善アイデアが浮かぶようになりました。気づけば20以上もの業務アプリを作っていました。
これまで紙や個別のExcelファイルに分散していた情報を業務アプリで一元管理できるようになり、いま現場メンバーもタブレット端末から入力しています。以前は紙に書いた内容を後から転記し、報告資料を作ることに多くの時間を使っていましたが、今では集まったデータを活用して改善を考える時間が増えました。

リコー石倉:アプリを作るようになって、ご自身の仕事の捉え方に変化はありましたか。

吉岡様:この取り組みを通じて一番変わったのは、「指示された点検を行う立場」から「自分で改善を考えて仕組みを作る立場」になったことだと思います。実際にメンバーに使ってもらい、喜んでもらえることが大きなやりがいになっていますし、この取り組みを評価いただき、社内の事業部長賞をいただけたことも大きな励みになりました。

吉岡様が作られた業務アプリの一覧

竹田様:吉岡さんのおかげで、これまで紙やExcelで管理していたものが次々と業務アプリになっていきました。とある報告書も、以前までは私が最終的にまとめて仕上げる必要があったのですが、それもアプリで完結するようになり、とても助かっています。

吉岡様:業務アプリを作る人はみなそうだと思うのですが、誰かに使ってもらって「便利になった」「助かった」と言ってもらえることが、一番のモチベーション。だからこそ、使う人を意識して、どこに何を入力すればいいのかなど、誰が見てもわかるように心がけました。

リコー上野:あらためて、リコーとの共創を振り返っての感想をお聞かせください。

竹田様:そもそも私たちは何もわからない状態からスタートしていましたが、リコーがパートナーとしてプロジェクトに伴走してくださり、課題をしっかりと言語化し、一緒に前へ進めていただけました。

何ヶ月も毎週顔を合わせるという経験はこれまでなかったため、リコーの皆さんとも絆が深まりましたし、こちらの何気ない一言をしっかりと拾って、次の会議ではきちんと提案として返してくださる。そうしたプラスアルファの行動にとても感謝しています。

そして今回の共創プロジェクトを通じてタスクワークが減り、クリエイティブワークが増えていったことが大きな価値。吉岡さんのように、今後もいろいろなことに主体的に挑戦していける人財が増えていってほしいと思いますし、そうした多様性のある人財が増えていくことで、組織はより良く成長していけると考えています。

社内表彰された際の表彰状も見せていただきました

リコー上野:最後に、今後の展望をお聞かせください。

竹田様:今回の取り組みはゴールではなく、「FMビジョン2030」実現に向けた第一歩だと考えています。現在もセンシングできていない設備や計測ポイントが残っているため、まずは対象を拡大しながら、より多くの設備データを蓄積していきたいと考えています。
これまでは人の経験や知見に支えられてきた設備管理の側面もありましたが、今後は蓄積されたデータを活用しながら、AI活用も視野に入れたデータドリブンなライフサイクルマネジメント(LCM)やライフサイクルコスト(LCC)の最適化につなげていきたいと考えています。
工場操業を支えるインフラを預かる部門として、限られた経営資源を有効活用しながら、より合理的な意思決定ができる環境を整えていくことが重要だと考えています。

吉岡様:私はIT担当者でも、DXの専門家でもありません。しかし、日々の業務や設備の実態を一番よく理解しているのは、そこで働く私たちです。
どれだけデータや技術が進化しても、最後に判断するのは人だと思っています。だからこそ、データだけに頼るのではなく、設備の特性や、これまで培ってきた経験や知見と結び付けて活用することが欠かせません。

今回、リコーの皆さんに伴走いただき、一緒に課題を整理しながら試行錯誤を重ねたことで、設備の状態をデータで把握できるようになっただけでなく、私たち自身がデジタルの力を使って業務を改善できるようになりました。IT担当者でなくても、課題を一番よく知る当事者だからこそ見つけられる解決策があり、それを自分たちで形にできることを実感しています。

この取り組みによる大きな変化は、単に点検の負荷が減ったことだけではありません。「自分たちの仕事は、自分たちでもっと良くできる」という意識が生まれ、これまで決められた業務を担っていた私たちが、自ら改善を考え、挑戦するようになったことです。
これからも、これまで培ってきた知見と蓄積されるデータを組み合わせ、人にしかできない判断や新たな価値の創造につなげ、より良いファシリティマネジメントを実現していきたいと思います。

リコー上野:今回の取り組みは、排水設備巡回点検のデジタル化だけでなく、将来的なファシリティマネジメント業務の高度化にもつながるものですね。また、こうしたお客様との共創は、リコーが目指す「ワークプレイスのインテグレーター」の考え方を実践する取り組みでもあると感じています。
引き続き共創パートナーとして、一緒に価値を創造していければと思っています。本日はありがとうございました。

お客様情報

川崎重工業株式会社 様
詳しい情報は、こちらをご覧ください。
https://www.khi.co.jp/

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