自治体DX、産みの苦しみ超え推進

 人口減少社会において今後、自治体職員も減少が予測される。デジタル化による業務の標準化、効率化は避けては通れず、自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)を通じた各種業務のデジタル化が進んでいる。中でも国民年金や児童手当など全国共通20業務(注1)のシステム標準化は2025年度末を目標に進められてきた。しかし、同年度末までに移行が完了しない事例も一定程度出ている。DX化の加速に向けた課題や解決策について、デジタル庁の冨安泰一郎デジタル審議官に聞いた。(共著 研究企画室長 帯川 崇)

◆自治体に超高速ネットワーク

デジタル庁の冨安泰一郎デジタル審議官

―― 5年以内に世界最先端のIT国家になることを目指した国家戦略「e-Japan戦略」(注2)が2001年に公表された。20年12月公表の自治体DX推進計画との違いは何か。

 時代背景や技術基盤が違う。e-Japan戦略ではまず紙を電子に置き換えてIT化を進めることがゴールとなり、各府省や自治体が個別に独自のシステムを構築した。当時としては仕方なかったと思う。e-Japan戦略最大の貢献は超高速ネットワークインフラの構築だった。このインフラの上に今の自治体DXが成り立っている。

 2020年頃になると、整備の主眼はIT化からDXへと進展し、制度の在り方そのものを変革したり、データの連係によるサービスの向上が求められたりするようになった。「標準化」によって、どこの自治体においても同じ構造のシステムを使い、共通サービスを安全かつ迅速に提供できる環境を目指している。

e-Japan戦略 自治体DX推進計画
5年以内に世界最先端のIT国家となることを目標にインフラや制度整備を推進 一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~

e-Japan戦略と自治体DX推進計画の目指す姿(総務省HPを基に作成)

◆現場に寄り添いながら対応

―― 全国共通20業務のシステム標準化が当初計画より遅れている。どのように捉えているか。

 標準化への移行は自治体の職員の皆さん、さらには、IT事業者にもご負担をかけていると思う。地域のIT事業者も人材不足でご苦労されているのは承知しているが、今年3月末までに多くのシステムが標準化に対応したと見込んでいる。ただ、20の標準業務はそれぞれ複数システムで構成されており業務の対象団体は1788を数える。このため標準化が必要なシステム総数は3万4592に達する。昨年12月末時点で、この内25.9%の標準化は今年4月以降に対応する「特定移行支援システム」(注3)となっており、移行は今後おおむね5年以内に進める予定だ。

 今後人口減少が加速し、大幅に生産年齢人口が減少していく中で、住民への公共サービスを維持するためにはデジタル化、標準化は避けて通れない。災害が多いわが国においては、クラウドベースの標準に準拠したシステムへの移行で大規模災害発生時の業務継続性も大幅に向上する。

―― システムの標準化に伴って従来業務ができなくなるケースがある。本格的な利用が始まり、これまでにもあったカスタマイズ要望が一段と多くなった自治体もある。どのように考えているか。

 標準システムに対して、自治体独自のカスタマイズ要望があるとのご指摘については、カスタマイズをやり過ぎるとコストがかかる。また、業務システム更新時にIT事業者が変更になった場合でも、従来サービスを円滑に継続提供できるようにするのが標準化の目的となっている。現場の意見に寄り添いながら、標準化の理解を得ていく。

◆ AI実装し住民サービス向上

―― 標準化システムは運用コストが削減されると説明していた。しかし、実際は大幅なコスト増になっており、各自治体から補填(ほてん)策を望む声が上がっている。

 運用費が標準化移行前よりも増加している自治体が多くあることは承知している。物価高や人件費上昇、度重なる標準仕様の変更、セキュリテイ対策強化など要因は多岐にわたる。この運用費の増加に対しては、IT事業者や関係者との討議、見積もり精査の支援を通じて適正化を進めている。一時的に増加している経費については補助金を創設し、国と地方で協力して抑制・適正化を図っていく。

―― 今後の自治体DXにどのような構想を描いているか。

 今回の20業務のシステム標準化でデータも標準化され、データ連係をしやすい土台ができた。インターネット経由でソフトウエアを提供する「SaaS」(サービス型ソフトウエア)(注4)を導入しやすくなるし、AI(人工知能)を使ってクラウド上のデータを活用し、新たな住民サービスを提供できるようになるはず。まずは早急に政府内でAIの実装を進め、その経験を民間や自治体に伝え、さらなる自治体業務の効率化と住民サービスの向上を現場で図っていただきたい。

デジタル庁の冨安泰一郎デジタル審議官

―― IT事業者、国民への要望は?

 IT事業者にはシステム構成や運用面でクラウドのメリットを十分に生かし、最適化していただきたい。またコストの適正化、下げる努力を一緒に継続して取り組んでいきたい。自治体の職員は窓口で丁寧に対応いただいていますが、2040年には今よりも生産年齢人口が大幅に減少する。その時でもサービスを維持・向上するためには、今から自治体はDXを大いに進めていく必要があります。住民の皆さまもその点をご理解いただきたい。

 住民が日常的に使う自治体窓口でのDXも進めているし、政府が提供するマイナポータルを通じて各種自治体手続きのオンライン申請・届け出などもできるので、ぜひ実感いただきたい。

◆ 誰一人として取り残さない

―― 今後の展開に関する考えは

 システムやサービスは、個別に自ら「作る」から共通に使えるものを「使う」という流れに変わってきている。データを連係し、新しい行政ニーズを発見してサービスを提供したり、生成AIの導入も進めて住民サービスの向上に取り組んだりしていくことになる。

 今後の展開で大切にしている点は、デジタルに不慣れな人に対する対応。デジタルに慣れた人には徹底的に使っていただき、不慣れな人に行政の限られたリソースを充てる。誰一人として取り残さない、そして人に優しいデジタル社会を築いて行きたい。このデジタル化を必ずやり切るという思いで取り組んでいる。

〔略歴〕
冨安 泰一郎(とみやす・たいいちろう)氏 
1990年東京大学法学部卒、大蔵省(現財務省)入省。主計局主計官、財務総合政策研究所総務研究部長などを経て2021年デジタル庁戦略・組織グループ統括官。25年から同庁デジタル審議官

注1 地方自治体の全国共通20業務=①住民基本台帳②印鑑登録③戸籍④戸籍の附票⑤選挙人名簿管理⑥個人住民税⑦法人住民税⑧固定資産税⑨軽自動車税⑩就学⑪国民年金⑫国民健康保険⑬後期高齢者医療、⑭介護保険⑮障害者福祉⑯生活保護⑰健康管理⑱児童手当⑲児童扶養手当⑳子ども・子育て支援(出所)デジタル庁HP


注2 e-Japan戦略=2001年1月に公表され、5年以内に世界最先端のIT国家になることを目指した戦略。この中で①超高速ネットワークインフラの整備②電子商取引③電子政府の実現④人材育成の強化-の四つが重点政策分野として位置づけられた。特に「電子政府の実現」では「2003年までに行政(国・地方公共団体)内部の電子化、官民接点のオンライン化、行政情報のインターネット公開・利用促進、地方公共団体の取り組み支援等を推進し、電子情報を紙情報と同等に扱う行政を実現し、幅広い国民・事業者のIT化を促す」としていた(出所)総務省e-Japan戦略要旨を基に作成

注3 2026年度以降の移行とならざるを得ないシステムを「特定移行支援システム」としている。

注4 SaaSはSoftware as a Serviceの略。各事業者が提供するソフトウエアをインターネットを通じて利用できるサービス形態

《おさらい》

・人口減少により自治体職員の減少が見込まれる中、業務の標準化と効率化を目的とした自治体DXは不可避。

・国民年金や児童手当など20業務のシステム標準化が進められているが、導入に遅れが生じているシステムも一定程度出てきている。背景にIT事業者の人材不足がある。

・標準化により従来業務がやりにくくなったとの声、カスタマイズ要望が現場から上がっている。現場の意見に寄り添いながら標準化に理解を得ていく。

・当初想定より運用コストが増加しているのは課題。国は補助金でコスト低減を支援する。

・今後は標準化システムを基盤にデータの活用を進め、AIも導入して、業務効率化と住民サービス向上の両立を目指す。

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大塚 哲雄