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石炭火力で「アンモニア」

 脱炭素「エネルギー転換」への道

2024年08月05日

地球環境

主席研究員
小林 辰男

 燃やしても二酸化炭素(CO2)が発生しないアンモニアを石炭に混ぜて発電―。地球温暖化の"元凶"の一つと批判される石炭火力発電所を活用して脱炭素社会の実現を目指す日本独自のユニークな戦略だ。東京電力と中部電力の火力発電部門が統合、新たなエネルギー供給モデル構築を目指して設立された「JERA」が中核となり、推し進めている。アンモニアを2割まで混ぜても技術的には問題がないことを実証。最終的に2050年までにアンモニアだけを使い、CO2を出さない火力発電への「転換」を狙う。

 しかしスムーズな転換へ道筋をつけるには、技術課題に加え、大量の「CO2フリー(生産時にCO2を発生していない)・アンモニア」をリーズナブルなコストで調達することなど、難しいハードルも残っている。

技術的な実証は成功

 名古屋駅から高速を車で飛ばして1時間。碧南火力発電所(愛知県碧南市)でJERAは4月から6月下旬まで石炭にアンモニアを20%混ぜる発電の実証試験を実施した。4号機(100万キロワット=kW)のバーナーを改修、燃料タンクや気化器も新設した。しかし、他の設備はそのまま使用でき、石炭専焼に比べCO2排出量を20%減らした。

 坂充貴JERA碧南火力発電所長は「20%までなら設備の大規模改修なしで燃やせる」と強調、実証試験の結果に自信を示す。窒素酸化物(NOX)の排出量も同発電所のボイラー・メーカーであり、実証試験のパートナーでもあるIHIの燃焼技術により増加しなかった。

商用化に向け設備の拡大工事へ

 実証試験を踏まえて、現在2000立法メートルのアンモニア貯蔵タンクの容量を100倍以上に拡大するなど2027~28年度の商用化に向けた工事を進めている。20%レベルでの商用化で実績を積み、30年代前半には50%までアンモニアを混ぜて発電することを次の目標に据えている。これにより石炭火力のCO2排出量を半減させた上で、50年に100%アンモニア発電を実現するという道筋を描いている。

商用化に向けた計画を話す坂所長(左)とアンモニア貯蔵タンク(右)【7月8日、碧南火力発電所(愛知県碧南市)】

 坂所長は「20%で商用化することで50%の(技術面・商用面)課題がわかる、50%ができればアンモニア専焼への課題もみえる」と話す。今回の試験を経て商用化へ挑戦するのは、化石燃料を活用しつつ、脱炭素を実現するための第一歩というわけだ。

達成危うい日本の削減目標

 人類の生存基盤を脅かす地球温暖化を食い止めるには、2050年脱炭素社会実現が不可欠。23年12月の第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では、その実現に向けては35年までに温室効果ガス(主にCO2)を世界で19年比60%削減が必要であることが示された。削減手段として再生可能エネルギーを世界全体で現在の3倍に引き上げることも重要とした。

 日本は「2030年度までに13年度比46%削減」を国家目標としているが、25年のCOP30までには35年度までの新たな削減目標を示す。COP28で示された19年比60%削減は、13年比にすると66%の削減に相当し、この水準の削減が国際的に求められるだろう。

大きい比重を占める石炭火力

 新たなエネルギー基本計画と地球温暖化対策計画の検討が始まっているが、66%削減目標が現実味を帯びる。迫られるのは、最大限の省エネ実現と化石燃料依存の低減だ。石炭はそのカギを握る。

温室効果ガスの排出量の推移と予測(出所)「日本の温室効果ガスインベントリ報告書(2024年4月)」を基に作成

 日本の2022年度の温室効果ガス排出量11億3500万トン(CO2換算)のうち、石炭火力発電からの排出量は2億5900万トン、22.8%に相当する。仮に石炭火力の排出を20%削減できれば、日本全体の排出量を5%近く減らせる。

 環境団体が主張するように、短期的に石炭火力を全廃できれば理想的だが、天候の影響を受ける再生可能エネルギーの弱点をカバーし、エネルギーの安定供給、経済安全保障などを総合的に考えると、短期的な全廃は現実的には難しい選択肢だ。

CO2フリー・アンモニア、量を確保できるか

 第6次エネルギー基本計画では、アンモニアや水素を使った発電は2030年度に電源の1%となっており、限定的。しかし現在検討が始まっている第7次エネ基ではJERAの商用運転開始を想定、この比率が大きく拡大する見通しだ。

 ただ技術面をクリアしても、100万kWの発電所でアンモニアを20%混ぜるには年間50万トン必要になる。エネルギー白書2021では、大手電力会社のすべての石炭火力で20%混ぜると2000万トン必要としている。全世界のアンモニアの貿易量に相当するという。

 現在、国内で肥料用などに使われるアンモニアは約100万トン。いかに桁外れの量が必要なのか、理解できる。アンモニア発電が現実味を帯びると、石炭火力に依存する新興国と争奪戦になる可能性もある。

アンモニアの世界の年間貿易量(出所)エネルギー白書2021

脱炭素にはコスト低減も必要

 コスト低減も必要になる。同白書では20%混ぜた場合の発電コストは12.9円/キロワット時(kWh)、アンモニア100%(脱炭素)の場合は23.5円としている。この試算では現在と同様に化石燃料からアンモニアを製造する際に発生するCO2を地中に埋めるCCS(炭素の回収・貯留)を前提としている。産油国・産ガス国でアンモニアを製造、CCSを実施し、事実上CO2フリーにするが、現状では液化天然ガス(LNG)火力、石炭火力、太陽光などで脱炭素の対策を施した場合に比べて割高になっている。

電源

石炭火力

LNG火力

原子力

石油火力

陸上風力

洋上風力

太陽光

(事業用)

太陽光

(住宅)

発電コスト (円/kWh)

( )内は政策経費なしの値

12.5

(12.5)

10.7

(10.7)

11.5~

(10.2~)

26.7

(26.5)

19.8

(14.6)

30.0

(21.1)

12.9

(12.0)

17.7

(17.1)

設備利用率

稼働年数

70%

40年

70%

40年

70%

40年

30%

40年

25.4%

25年

30%

25年

17.2%

25年

13.8%

25年

発電コストの比較(原発事故やCO2対策など政策経費を前提に試算)
(出所)総合資源エネルギー調査会・発電コスト検証ワーキンググループ(2021年9月)

 JERAではアンモニアの量産効果である程度、コストが抑えられると期待している。ただCO2削減対策の費用を賄うため、ある程度割高になるとみており、対策を施さない場合との価格差を補う仕組みが必要とみている。

 この仕組みに関しては、個別の発電方法への補助金などを使った支援よりも、CO2の排出量に応じて価格を付けて課税したり、排出権を売買したりする「カーボンプライシング」の導入が適切ではないかと筆者は考えている。

 CO2削減のコストを「見える化」すれば、再エネ、アンモニア、水素、新たな画期的な省エネなどのいずれを使ってCO2削減を実践するのか、利用者自らが最も効率的な仕組み、方法を選択できる。特定の削減手段へ補助金などで肩入れすることは、経済社会全体として企業努力、開発努力、創意工夫を損なう恐れが大きい。

新興国の脱炭素、技術支援の核にも

 東南アジア諸国やインド、中国は、石炭火力への依存を簡単に減らせそうにない。経済が発展段階にある新興国が、先進国に比べて高い水準の経済成長を維持しようとするとエネルギー消費は増加せざるを得ない。また、再エネのフル活用には高度な送電技術が必要になるため、当面は比較的安価で地政学的なリスクも大きくはない石炭を手放せないだろう。

 近年建設した石炭火力を「今すぐ廃棄せよ」と新興国に迫っても、納得は得にくい。アンモニアは製造法も輸送法も、すでに確立されている。発電燃料用としての量やコストにメドがつけば、既存設備の大半をそのまま有効活用できる。日本が新興国の脱炭素を推進する技術支援の核になる可能性はある。JERAの挑戦がその第一歩になると期待したい。

小林 辰男

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