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行き場を失う野菜、フードレスキューで救え!

=情けは人のためならず=

2020年05月07日

新型ウイルス

HeadLine 副編集長
竹内 典子

 「長ネギを買ってフードレスキューしませんか」―。2020年3月のある日、知り合いからこんなメッセージがSNSで届いた。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、千葉県内の農家が栽培する長ネギが売れなくなり、大変困っているという。在宅勤務で自炊が増えていたから、早速購入を決めた。数日後、届いた箱を開けてみると...。形は不ぞろいだが、土がついて新鮮そうな長ネギが50本以上も入っていた。その中には、生産者の「柴海農園」が有機栽培へのこだわりを綴ったメッセージと、長ネギを使った料理のレシピも同封されていた。

写真自宅に到着した長ネギ

 昨今、生産者の「顔」が見えるような仕掛けは少なくない。だが、今回のメッセージやレシピのように、農家の人柄までにじみ出るような取り組みは珍しい。そこで御礼も兼ね、柴海農園の柴海祐也(しばかい・ゆうや)さんに電話で話を聴いた。

 「一時はすべて処分するしかないと覚悟しました」―。柴海さんは苦しい胸の内を明かした。2019年秋は台風被害などで長ネギの生育が遅れ、鍋物需要が盛り上がる年末には間に合わなかった。それでも今年2月までどうにか畑で育てたところ、突然、新型ウイルスの感染拡大で販売先からキャンセルが入り始めた。急きょ、別ルートで販売を打診したが、「生育が十分ではないため、出荷規格を満たさない」と断られてしまう。

 あきらめかけた時、柴海さんの頭の中に浮かんだのが、住宅情報サイトを展開するLIFULL(ライフル、本社東京)の原田奈実さん。同社は新規事業として、規格外・納期遅れの野菜・果物を使ってスムージーを作り、顧客企業に毎月定額で販売している。原田さんはその事業責任者で、柴海さんから野菜を仕入れていた。相談を受けた原田さんは柴海さんの畑に出向き、1.3トンもの長ネギがあることを知る。

 「時間をかけ大切に育てた長ネギを捨ててしまうなんて...。でも味や香りがスムージーの材料には適さないしなあ」―。思案の末、原田さんは長ネギをそのまま売ろうと決断した。しかし、消費者に直接販売した経験がなかったため、まずは社内で宣伝した。

 すると、購入した社員から「SDGs(持続可能な開発目標)の活動に熱心な知人がいます。その知人のSNSを通して宣伝してはどうですか」と提案を受けた。そこで受注などの事務作業を原田さんがボランティアで請け負い、冒頭で紹介した「長ネギを買ってフードレスキューしませんか」というメッセージをSNSで発信した。その結果、10日ほどで250人以上から注文が入ったのだ。「無事完売した時は心から安心しました。これからも農家さんのために何ができるか考えていきます」と意欲満々。早速、農家を支援する野菜販売サイトを立ち上げた。

 緊急事態宣言の対象区域が全国に拡大する中、学校給食や百貨店・レストランに出荷されるはずだった野菜が行き場を失う。大量に発生する廃棄ロスをどう減らすかは今、喫緊の課題なのだ。

 そこで筆者がインターネットで調べてみたところ、農家を応援する取り組みが各地で動き始めていた。例えば滋賀県長浜市では市教育委員会が中心となり、袋詰めにした学校給食用の食材を保護者らに配布。その協力金を食材の生産者に還元する。ドライブスルー方式で実施したところ、準備した1000袋以上の食材が売り切れ。受け取れなかった人には引換券を配り、後日配布するほどの好評を博している。

 一方、母子家庭では臨時休校によって食費がかさむ。このためJA新潟市は農家から、形が不ぞろいだったり虫食いがあったりする規格外野菜を大量に集め、フードバンク活動団体に寄付した。この団体は事前申し込みのあった母子家庭約60世帯に配布したそうだ。

 販路を失った農作物や肉類、魚介類を消費者に直接販売するアプリもある。その中で、ポケットマルシェ(本社東京)が運営するアプリは、農家や漁業者が困っている理由のほか、食材の調理方法などを掲載。生産者が消費者に思いを伝え、消費者は食後の感想を返信する。心と心が触れ合う「場」も生まれている。

 このほか、新型ウイルスと最前線で戦う医療従事者に対し、サラダを届けて応援する取り組みも見つけた。インターネットを介して不特定多数から少額資金を調達する、いわゆるクラウドファンディングを活用するものだ(サラダ1食分=750円=から)。サラダ専門店を展開するクリスプ(本社東京)は当初、店頭で医療従事者に無償配布していたが、新型ウイルスの影響で店舗は休業。それでも配送で応援を続ける。ウェブサイトでサラダを希望する病院(東京都と神奈川県に限定)を募り、4月23日時点で7600食以上のサラダを提供したという。

 今、だれもが先が見えず、不安を拭えない。その一方で、静かに広がるさまざまな応援の輪を知り、ちょっとうれしくなった。筆者はおいしい長ネギを手に入れ、いただいたレシピでいつもとは一味違う料理を作ることができた。また、近所の友人に長ネギをお裾分けして喜んでもらえた上に、お返しに手作りマスクをいただいた。人に対する厚意が、めぐりめぐって自分に返ってくる。情けは人のためならず―

写真長ネギの調理方法は実にさまざま

(写真)筆者

竹内 典子

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