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自粛生活、増えた支出と減った支出

=家計にのしかかる「設備投資」=

2020年05月28日

新型ウイルス

研究員
亀田 裕子

 2020年3月上旬のこと。「ママ、おなか空いたー」「ママ、お昼ご飯なにー?」―。小学校に通う子ども2人の声にハッとする。時計の針を見ると、正午を過ぎていた。いけない!昼食を用意しなくては。あわてて在宅勤務用パソコンを閉じ、冷蔵庫を開けながら、思わずため息が出た。「この生活がしばらく続くのか...」―

 2月27日、新型コロナウイルス感染拡大を防止するため、安倍晋三首相は「1~2週間が極めて重要な時期」として、政府が全国の小・中・高、特別支援学校に対し、休校の要請を出した。期間は3月2日から、3学期修了式を挟んで春休みまで。3週間以上も1日3食を用意する恐怖...

 ところが修了式を迎えても、日本国内の感染者数は増え続け、安倍首相は「(感染が)拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際」と強調。「依然として警戒を緩めることはできない」状況のため、そのまま春休みに突入した。

 その時、頭の中をよぎったのは、「3学期に終了するはずだった単元はどうなるのか」「4月の始業式まで、ほとんど勉強ができないのでは」といった不安だ。学校からはプリントが配布され、復習を促す連絡もきていたが、これまで週5日、1日5~6時間授業を受けていた子どもたちからすれば、決して十分な量ではない。

 4月7日、政府はついに筆者の住む東京など7都府県に緊急事態宣言を発令した。これを受け、休校は5月の大型連休明けまで延長、学童保育までもが閉鎖されてしまった。

 一方、ちょっと長い春休みを満喫していた子どもたちも、暇(ひま)を持て余し始める。だからと言って、外に遊びに行かせることはご法度。そして、覚悟はしていたが、ついに恐怖のセリフが飛び出す。「ママ、つまんない!」―。恐らく、日本中の家庭でこのセリフが繰り返され、背筋が凍ったのは筆者だけではないだろう。

 こうして新型ウイルスとの戦いが、わが家に自粛生活をもたらした。夫も在宅勤務を始め、子ども2人は休校。家族4人が自宅で終日過ごすようになった。すると、重くなったのは家計の負担である。

 そこで支出が増えた項目を書き出してみた。①生活関連=家族4人分の食費、水道・光熱費、ティッシュペーパーやトイレットペーパー、石鹸などの日用品②学習関連=消えた授業を穴埋めするためのドリル・参考書、図書館閉鎖に伴う読書用書籍③設備投資=仕事スペースを確保するためのデスク、学校・学習塾のオンライン授業用のパソコン④保健・医療費=マスクや消毒用アルコール。

 この4つに分類した上で、「なぜ増えたのか」「これからも継続して増えるか」を考えてみた。①生活関連と②学習関連は、日常生活において必要不可欠な支出であり、自粛生活が続く限り発生する。

 とりわけ、家族4人の1日3食を賄う食費や、感染予防で手洗いが頻繁になった水道費、空調やパソコンなどにかかる電気料金、調理によるガス料金の増加が家計に重くのしかかる。ティッシュペーパーもあっという間になくなる。生活を家庭内で完結させると、これだけ多くのものを消費するのかと驚きの連続だった。

 ③設備投資では、パソコンの追加調達が大きな出費。オンライン授業が本格化し、子どもが2人いると、パソコン1台では足りなくなったのだ。

 ④保健・医療関連費では、マスクと消毒用アルコールが極端な品不足に苦しんだ。たまたま高額で販売されているのを見つけると、「いつまた入手できるか分からない」という心理が働き、飛びついて購入してしまう。また、万一感染した場合の検査・医療費に備え、「もしもの時の医療費」を確保するようにした。

 このように「なくてはどうにもならない」支出に対し、「なくてもどうにかなる」支出は切り詰めるしかない。

 例えば、子どもたちが欲しがるゲーム・おもちゃは後回しになる。そこで筆者は「欲しいものがあるなら、それを自分で作ってみて」と提案した。2人とも工作好きなので、家にある材料を活用しながら、オリジナリティあふれるカルタや記憶ゲーム、双六(すごろく)の製作に熱中。毎晩、家族で遊んでは盛り上がっている。厳しい自粛生活の中でも、新たな楽しみを提供してくれた子どもたちに感謝である。

写真子どもが作ったオリジナル双六
(写真)筆者

 自粛生活中の消費を分析していくと、ほかにも気づいたことがあった。1つ目は、「必要最低限でよくなり、支出が減った」ものが少なくないことだ。例えば、洋服や靴。子どもの場合、通学しているとどうしても消耗が激しい。汚したり、穴を開けたりは日常茶飯事。予備で何枚、何足と用意していたが、今は洋服なら上下2枚ずつ、靴は1足で十分とさえ思える。大人もリモートワークによって、仕事用のスーツや冠婚葬祭用のフォーマルな服の必要性が著しく低下した。ふと気が付くと、化粧品代は限りなくゼロに...

 2つ目は、「製品を購入した時、その価値を最大限に享受したい」という強い思いである。前述したように、オンライン授業に対応すべく、パソコンの追加購入を余儀なくされた。在宅勤務が普及すると、家庭でもパソコンやプリンター、タブレットなどへの依存度が高まり、関連支出も増えていく。

 家庭にとって、こうした機器は負担の大きな設備投資であり、それに見合う製品価値が求められる。端的に言うと、できるだけ長く使いたいのだ。部品の交換や、ソフトのバージョンアップなどにより、寿命を延ばせる製品が望ましい。その上で再生材が使用され、リサイクルしやすい製品設計が施されていれば、地球環境保護の観点からも製品価値がアップする。

 5月25日、政府は緊急事態宣言を全面解除した。とはいえ、ビフォアコロナに戻るわけではない。「第2波」の可能性も指摘されており、当分の間、社会のさまざまな面で「新しい生活様式」という名の自粛が続くだろう。依然として家にいる時間が長いのであれば、電源をこまめにスイッチオフし、水の無駄遣いをしないよう、賢い消費者になるよう心がけたい。と書いていると、「ママ、おなか空いた」―。きょうもフライパンとパソコンの「二刀流」でがんばるぞ!

亀田 裕子

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