2020年09月09日
新型ウイルス
リコーインダストリー㈱IP生産事業部IP生産統括センター生産戦略室生産戦略G
元リコー経済社会研究所 研究員 清水 康隆
2020年3月初め、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、所属するアマチュア吹奏楽団が4月に予定していた年1~2回の定期演奏会の中止を決定した。政府が発したイベント中止要請を重く受け止め、楽団員全員一致で「残念だけど仕方ない」と苦渋の決断を下したのだ。とはいえ、これまで週末をトランペットやコルネットの練習に費やしてきた筆者が、現実を受け止めるまでには時間がかかった。
4月に入ると、政府が緊急事態宣言を発令したため、楽団は練習再開の見通しさえ立たなくなった。5月の解除後も、演奏会に限らず各種イベントや伝統ある祭、甲子園の高校野球さえ中止に追い込まれる。筆者は「感染拡大さえ収まれば、みんなで合奏は再開できる」という望みを支えに、自宅で独り練習を続けた。
ところが、連日テレビで報じられる感染者数が、ゼロになる目途は一向に立たない。世の中はwithコロナを前提とするニューノーマル(新常態)の模索が、社会の前提となる。演奏活動も例外ではないが、その実現は容易でない。
なぜなら、①周りの旋律を聴きながら音を合わせる必要があり、演奏者間の距離が近い。②演奏楽器によっては飛沫が問題。筆者が演奏するトランペットなどの管楽器は息で音を出すため、その可能性が高いといわれる。③屋内演奏する場は当然、密閉空間になるため、いわゆる「3密」の回避が難しい―。といった事情があるからだ。
厳しい状況だが、国内外の楽団は演奏活動を続けられるよう、必死にニューノーマルを模索する。演奏会はまず無観客で始め、次に感染対策を徹底した上で少数の観客を入れて...。といった具合だ。
例えば、ドイツのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は5月、無観客で公演を再開。演奏は会場で行い、その後ネット配信する形式だ。その際の奏者間の距離は弦楽器1.5メートル、管楽器5メートル。beforeコロナでは1メートル以内が常識だったが...。その後、ベルリン・フィルなどは飛沫の実証実験を行い、弦楽器は1.5メートルを維持する一方、管楽器は2メートルに緩和するという指針を決めた。
このほか、オーストリアのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団は6月、約3か月ぶりに観客の前で公演した。独自に飛沫実証実験を行い、奏者間の距離を従来と同じ80センチと定め、奏者を配置する。ただし、事前に全員のPCR検査を義務付けた。また、通常は楽屋で行う着替えをなくし、奏者は正装で会場入り。一方、観客数を通常の20分の1に抑え、座席間も十分な距離をとったという。
このように各楽団が試行錯誤しながら「解」を模索するが、最適解は見つからない。国内でも感染対策を徹底したり、フェイスシールド着用したまま演奏したり...。透明アクリル板を奏者間に置く楽団もある。そして少しずつだが、演奏活動は再開しつつある。音楽と安全を両立させながら、何とかして演奏を再開したいという熱い思いに国境はない。
6月末、筆者の楽団も練習を再開した。ネットで世界的な楽団の取り組みを学びながら、感染対策を徹底する。練習前の体調確認、検温、練習時のこまめな換気、演奏時以外のマスク着用、練習後の設備消毒...。最低限のチェックポイントだけでも、こんなにあるのだ。もちろん演奏会を再開する際には、奏者だけでなく観客の感染予防対策に最大限の注意を払う必要がある。
withコロナ時代だからこそ、音楽を演奏し、聴く人に感動を届けたい。20年前の高校時代から始めたトランペットの奏者の端くれは今、改めて演奏の有り難さが分かった。新型ウイルスを正しく恐れながら、演奏活動に求められるニューノーマルを考え、実践していきたいと思う。
演奏会の日を待つ愛用トランペット
(写真):筆者
元リコー経済社会研究所 研究員 清水 康隆