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「紙」で見ると間違に気づく?

 「画面」のメリットと使い分け

2020年09月14日

新型ウイルス

研究員
河内 康高

 「あれっ!こんなところを間違えてるよ」―。パソコン画面上で何回も確認して間違いがなかったのに、紙に印刷すると原稿のミスが...。こんな経験をした人も多いはず。だが、その理由がよく分からない。もちろん、できる限り間違いを減らし、仕事はスムーズに進めたい。紙と画面の違い、その使い分けを考察してみた。

「反射光」と「透過光」

 画面よりも紙のほうが、間違いに気がつきやすい。これは私が今まで何度となく経験してきた。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、リモートワークを始めてからは、自宅などにプリンターが無かったり、あってもその能力不足で印刷に手間取ったり。だから、紙でのチェックを怠りがちになり、ミスが生じて後で大きなしっぺ返しを食らう。

 情報処理学会の研究報告(注)が、紙と液晶ディスプレーにおける「反射光」と「透過光」の性質の違いなどに着目し、実験を行った。反射光はいったん紙に反射してから目に入る光、透過光は液晶ディスプレーやテレビの画面から直接、目に入る光を指す。

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反射光と透過光

液晶ディスプレーは

 実験では紙と液晶ディスプレーのそれぞれにおいて、「誤り」を50個挿入した二つの問題文「A」「B」を用意。実験参加者(男女計24人)は問題文を読んだ後に、誤り部分を発見した数と、誤解答の数をそれぞれ集計し、「誤り発見数」が多く「誤解答数」が少ないほど作業効率が高いとした。

 紙と液晶ディスプレーで「誤り発見数」を比較すると、問題文Aは紙の方が4.3個多く、「有意差(紙の方がより多く誤りを発見)が認められた」。Bはその差が2.6個だった。また、「誤回答数」を比較すると「有意差は認められなかったが、紙より液晶ディスプレーで誤回答数が多くなる傾向が示された」。

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紙と液晶ディスプレーの誤り発見数、誤解答数(出所)「表示媒体の違いが誤りを探す読みに与える影響」(松山麻珠、池内淳、2015年)

精度・再現率に高い傾向

 さらに、この実験結果を基に紙と液晶ディスプレーそれぞれの精度(誤り発見数÷全回答数)と再現率(誤り発見数÷全誤り数)を算出したところ、紙の方が液晶ディスプレーよりも精度・再現率共に高い傾向が示され、作業の正確性が高いことが分かった。

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精度、再現率(出所)「表示媒体の違いが誤りを探す読みに与える影響」(松山麻珠、池内淳、2015年)

 また同報告書は、校正作業における紙と液晶ディスプレーの違いは①操作性②一覧性③解像度④慣れ―などが考えられるとした。その上で、光の違いに着目し、「反射光ディスプレー(電子ペーパーなど)」と「透過光ディスプレー(タブレット端末など)」に関して、60個の誤りを挿入した二つの問題文「C」「D」で「誤り発見数」と「誤回答数」を比べる、先と同様の実験を男女計20人を対象に行った。その結果は、いずれも明確な違いは見られなかった。

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反射光ディスプレーと透過光ディスプレーの誤り発見数、誤解答数(出所)「表示媒体の違いが誤りを探す読みに与える影響」(松山麻珠、池内淳、2015年)

日々の仕事からも実感

 それでも、紙と液晶ディスプレーに関する、一つ目の実験で示された違いは、筆者の経験と符合する。例えば校正作業をする場合、原稿を紙に印刷して確認すると、一文字一文字に集中してチェックできる。これに対して、画面上での原稿チェックは、全体的にざっくり見ているような気がする。もちろん、注意して確認するのだが、細かい部分に集中できないと感じるのは私だけだろうか。

 この経験則がどのような性質の違いからくるものなのかは、現時点では定かでない。しかし、何らかの要因で紙が間違いを発見するのに一役買っている面がありそうだ。

「4番打者」だけで勝てるか

 では、校正作業などは紙で行うほうがよいのか。無論、そうではない。画面には多大なメリットがあり、デジタルの利便性において紙は相手にならない。画面を制御するコンピューターは大量の文書を保管できるし、変更履歴や更新日などの自動記録も可能。紙では途方もない労力を要する作業が画面上なら秒単位で完了する。

 資料を共有する際にも画面は力を発揮する。紙の場合、必要部数をコピーした上で配布する必要があるが、画面ならば容易に共有できる。リモートワーク、ウェブ会議システムなどを通じて「新しい働き方」が定着しつつある。デジタルトランスフォーメーション(DX)が本格化する中、画面は野球でいうなら「4番打者」。その座を紙に譲ることはないだろう。

 だが、集中力を要求される仕事で紙は、画面にない特徴を発揮し、「バントの得意なベテラン選手」のような活躍をするケースも多い。野球はホームランを期待される4番打者だけでは勝てない。DXが定着する中での紙も同じで、そのメリットを意識した使い分けを心掛けたいものだ。


(注)「表示媒体の違いが誤りを探す読みに与える影響」(松山麻珠、池内淳、2015年)
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201502216362817954

【編注】「『紙』に印刷すると間違いに気づく理由=『画面』にはない脳の働きとは?」を差し替えました。一部引用元の情報の確認や引用方法が不十分であったためです。

河内 康高

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