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廃校利用で製材・バイオマス発電

=林業再生・雇用拡大の一石二鳥=

2020年10月07日

新型ウイルス

研究員
間藤 直哉

 新型コロナウイルスの感染拡大は、社会の隅々にまで影響を及ぼし始めた。筆者が主要研究テーマとする林業の活性化問題も然り。先日、高知県の林業関係者に電話で状況を聞くと、「木が売れないから、原木が山積みに...」と嘆いていた。

 これは高知県に限った話ではなく、全国で問題が深刻化している。林業危機を如実に示すのが、国産材の最大用途である建築材を使う「一戸建て分譲住宅」の着工件数落ち込みだ。国土交通省によると、2020年4〜6月期は前年同期比10.6%減を記録した。消費増税に直撃された2014年7〜9月期以来の減少幅である。

一戸建て分譲住宅の新設着工数前年比(四半期ベース)

写真(出所)国土交通省「建築着工統計調査」

 将来を見渡しても、住宅着工の先行きに明るい材料はあまりない。逆に、人口減少などに伴う、空き家増加など懸念材料が目立つ。総務省の調査では、空き家は2018年に846万戸と過去最高を記録し、2013年から26万戸も増加。また、野村総合研究所の予測では、2033年には約2150万戸まで増え、「3軒に1軒が空き家」の時代が到来するという。

 つまり、新型ウイルスが終息しても、長期にわたり住宅市場の縮小は避けられそうにない。このため林業事業者が建築材にだけ頼っていては、あまりにリスクが大きい。

製材所閉鎖・山林荒廃で危機感

 こうした厳しい経営環境を冷静に分析しながら、事業多角化に踏み切ると同時に、地域密着で生き残りを目指す林業事業者を見つけた。山林経営から製材・資材販売、バイオマス発電まで手懸ける林業の総合企業、トーセン(本社栃木県矢板市)である。

 同社が2012年に栃木県那珂川町で稼働させた製材工場が今、業界で注目を集めている。そこで那珂川工場長の岡康さんと、木質バイオマス発電を担う那珂川発電所所長の宮川俊哉さんに電話取材し、コロナ禍での現状を尋ねた。

20200918廃材利用2.jpgのサムネイル画像那珂川工場長の岡康さん(右)
那珂川発電所所長の宮川俊哉さん(左)
(提供)トーセン

 那珂川町は2005年、旧小川町と旧馬頭町が合併して発足。岡さんに那珂川工場建設に至るまでの経緯を聞いた。「この辺りは江戸時代から林業が盛んでした。しかし、安価な輸入材に押されて約30年前から衰退が始まり、旧馬頭町に9カ所あった製材所も廃業。町内に樹木が豊富にあっても、活用できない事態に陥ったのです」―

 放っておけば山林は荒廃し、価値が失われていく。危機感を抱いた那珂川町は林業再建に向け、事業者探しに奔走する。その結果、隣接する矢板市のトーセンに白羽の矢が立った。同社は那珂川町の林業再生策を検討した上で、製材工場として進出することを決断した。

 この工場の特徴は、森林資源を余すことなく使い切ること。まず、良い木はそのまま製材し、柱材や間柱(まばしら=大きな柱の間の小さな柱)に活用する。多少の難のある木は、悪いところを取り除いた上で、接着剤で組み合わせて集成材として使う。また、製材過程で生じる端材は、製紙用チップとして製紙会社に販売する。

 このほか、バーク(=木の皮)やおが粉、鉋屑(かんなくず)は、木質バイオマスボイラーの燃料として利用。それで生まれる熱源を製材乾燥や、マンゴーやコーヒーのハウス栽培、ウナギの養殖事業などに活用する。ハウス栽培と養殖は実証実験に成功し、那珂川町地域資源活用協同組合の組合員が事業を展開している。


写真那珂川工場の製材現場 
(写真)筆者

 2014年には、木質バイオマス発電事業もスタート。宮川さんは「発電所の規模は2メガワットという小規模なもの。ですが、工場の半径50キロ圏内で、地元木材を無理なく循環させるためには、最適な規模なのです」と話す。

 発電に使う木材は、細すぎたり、曲がったりして捨てられていた未利用材が主体だ。こうして、那珂川工場は地元の森林資源を余すことなく使い切る態勢を整えた。

写真木質バイオマス発電の那珂川発電所 
(提供)トーセン

コロナ禍でもDIY需要が下支え

 そんな矢先、世界中に襲い掛かってきた新型ウイルス。感染拡大の影響は当然、那珂川工場にも及んだ。岡さんは「2020年6月で見ると、売り上げは前年比10%程度落ちている。やはり、住宅着工数減少の影響だと考えています」という。

 もっとも、暗い話ばかりではない。ホームセンター向け、長さ2メートル程度の木材が前年比1.5倍程度も売り上げを伸ばしているのだ。岡さんは「新型ウイルスによるステイホームで、DIYをする人が増えたためでは」と分析する。

 確かに、2020年5月の大型連休、7月の4連休には遠出を控え、近くのホームセンターに行く人が増えたため、駐車場が一杯になったと報じられていた。実は、ホームセンターで取り扱う材木には輸入材が多い。このため、ホームセンター業界は国際物流の停滞でDIY需要の急増に対応できず、国産材の仕入れを増やしたとみられる。

 では、木質バイオマス発電事業はどうだろうか。宮川さんは「全く影響は出ていない」と言い切り、次のように話した。「固定価格買い取り制度(FIT)に下支えされた発電事業は、コロナ禍でも景気に左右されず、極めて安定しています。事業の多角化効果を改めて実感しました」―

木材⇔地域通貨 那珂川町を活性化

 那珂川工場のもう1つの特徴は、行政の地域活性化対策との連携である。山間部では工場用地に適した平地がなかなか見つからないが、那珂川町が廃校となった馬頭東中学校の校舎・校庭を提供したのだ。町としても、廃校を再利用できる上に、基幹産業である林業の再生と雇用拡大を期待できる。まさに一石二鳥だった。

20200918 廃材利用6.png旧馬頭東中学校の校舎と製材工場 
(写真)筆者

 実際、那珂川工場と発電所を合わせると、従業員は35人を数える。加えて、木質バイオマスボイラーやハウス栽培、養殖などの事業でも、人口1.5万人余の町には貴重な雇用が創出されている。


写真マンゴーのハウス栽培 
(写真)筆者

 ハウス栽培や養殖に使う熱源の材料には、ほかでは買い取ってもらえない、難のある木材も活用される。この木材供給には、地元住民122人が協力。木材と、那珂川町が発行する地域通貨を交換する「木の駅プロジェクト」として、全国でも名の知られた取り組みとなった。

 さらに那珂川町は、こうした実績が森林資源中心の自立した経済圏のモデルケースになり得ると考え、情報発信も積極的に行っている。

 岡さんは「この地域の森林資源を活用した50キロ経済圏のコンセプトを『エネルフォーレ50』と呼んでいます。会社の50周年記念に公募したネーミングで、エネルギーとフォレストを合わせた造語です」と説明する。

 地域の森林資源を活用することで、山林の持つ価値を取り戻し、新たな産業と雇用を生む循環型社会を目指す―。このネーミングには、熱い思いが込められている。

全国から視察・見学が続々と...

 那珂川工場では、こうした考え方を広めるため、視察・見学を積極的に受け入れている。全国の林業に携わる人や、近隣の小中高生らが訪れるそうだ。一方、林業関係者には循環型経済のモデルケースとして理解してもらい、それぞれの地域に合った事業を展開してくれるよう期待する。

 その際、特に強調しているのは、事業が継続可能な適正規模にすること。岡さんは「地域ごとに最適規模は異なります。大きいとスケールメリットは出ますが、森林資源が豊富でも木を切る人がいなかったという話も聞きます」と注意を促す。那珂川工場は適正規模を考えた上で、木材使用量を年間約6万立方メートルに抑えている。

 小中高生に対して、岡さんは「地域にとって林業が重要な産業であることを理解してほしい」と訴える。もちろん、将来林業に携わってもらい、山林の価値を維持してほしいという願いもある。若い人材を確保できれば、新たな価値の創造に期待が広がる。小さな町の豊かな木材が生み出すエネルギーは今、コロナ禍を吹き飛ばす夢を育み始めた。

間藤 直哉

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※この記事は、2020年9月30日発行のHeadLineに掲載されました。

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