2018年10月02日
地球環境
研究員
今井 温子
「将来、世界で水不足になり、水紛争が起こるかもしれません」―。こんな言葉にドキッとして、それまで資料に落としていた視線が、講師の顔にクギ付けになった。
先日、参加した海外の市場動向を読み解くための研修会。講師が新聞記事や経済指標を使って説明していたが、急に話題が変わって水の話になった。「うそでしょ?だって、小学校の頃、地球の7割は海だと習ったのに...」―。そう思いながら聴き続けると、どうやら生活や農業、工業で利用する淡水が不足するということらしい。
(写真)筆者
国連教育科学文化機関(UNESCO)によると、そもそも地球上で水資源として利用できるのは、地球上の水のわずか0.01%程度。現在水不足の地域に住んでいる人は36億に上るとみられ、アフリカや中東を含むアジアが大半である。2050年になると世界の人口は100億人近くに達すると予測されており、水不足となる地域の人口は48億~57億人に膨らみ、世界の人口の半分に達する可能性があるという。国連の推計では、2010~2050年の一人当たり水資源量はアジアで20%近く減少、アフリカに至っては50%以上も減少するとみられ、ただでさえ厳しい水事情が深刻さを増すことになる。
2010年基準とした地域別一人当たり水資源賦存量
(出所)The United Nations world water Development report 2014
将来の水不足を引き起こす最大の要因は、人口増加に伴う農業用水や生活用水の需要の増大である。加えて、新興国では経済発展のため工業化が進み、工業用水の需要も増える。ちなみに国連食糧農業機関(FAO)の2007年データによると、利用分野別では農業用水が占める割合が69%と圧倒的に高く、次いで工業用水(19%)、生活用水(12%)となっている。
このためまずは、農業用水の効率化をいかに図るかが、将来的な水不足解消に向けたカギを握る。世界ではスプリンクラー灌漑(かんがい)や給水の微調整が可能な点滴灌漑など新しい灌漑技術の導入が進められており、こうした節水技術をいかに普及させるかが重要となる。一方、工業用水は急速な工業化が進んだ日本の経験が活かせそうだ。例えば、著しい進化を遂げてきた再利用技術。現在では再利用率は75%以上に達しており、20~30%にとどまっている中東などへの支援の余地はかなり大きい。
では生活用水はどうか。この分野では、日本はトップランナーといわれている。日常生活を見回しても、洗濯機やトイレの洗浄、シャワーヘッドなどの節水機能が格段に進化を遂げていると感じる。生活様式をそのまま輸出することはできないとしても、日本の経験と知恵を集結させれば大いに貢献できるだろう。
さらに、節水意識の高さも日本の特長だ。筆者の家庭でも食洗器を利用し、シャワーや歯磨きの際には水をこまめに止めている。最近では、ガス給湯器のリモコンに毎日の湯使用量の目標を設定できることに気づき、家族の意識が一段と高まった。大きな削減ではないが、それでも水道料金が月間100円以上も下がる計算だ。
これがうれしいのは単に財布のためではない。ささやかながらでも環境保全に自分たちが貢献できていると感じることだ。そして何よりも将来世界を駆け巡る子供たちや孫たちのために、何とか「水」を残したいと思う。紛争なんてとんでもない。
今井 温子