2019年02月21日
地球環境
研究員
亀田 裕子
私は今、空の上にいる―。飛行機の窓から見える上空を見ながらそう実感した。昨年の夏休みに家族で旅行に出かけたときのことだ。目の前は青く、ところどころ白い雲が浮かんでいる。普段は地上から見上げている場所だと思うと、高揚感が一段と増す。同時にふと思う。これだけ大きな機体なら二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスもたくさん出すのだろうと...
実際、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、温室効果ガスの約2%は航空分野から排出されるという。旅客機の利用者はここ20年増加傾向であり、「脱炭素」への取り組みはこの業界でも大きな課題になっている。解決策の一つとして注目されるのが、バイオマス(生物)を利用して生産するバイオジェット燃料だ。その開発を手がける新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の新エネルギー部バイオマスグループ主査の萩原伸哉さんと同じく主査の荒巻聡さんに話をうかがった。
NEDOの萩原さん(左)と荒巻さん
萩原さんは「NEDOではボツリオコッカスという藻類から油を抽出し、ジェット燃料に加工する方法を研究しています」と説明する。気温が高く、日差しも強いタイに実験用の池を設置。培養方法のほか、どれぐらい油が取れるのか、製造コストをどうすれば減らせるのかなどを研究しているという。
その一方で、NEDOは木クズなどの「木質バイオマス」からガスを取り出し、それを液化した上で燃料を化学合成する研究にも取り組む。日本は森林資源が豊富な上、ガス化の技術については石炭などでの蓄積がある。それを活かすには、原料になりうる木クズをはじめ、稲わらやもみ殻も含めて、荒巻さんは「何を原料にするか、原料をどう確保するのかがカギになる」という。
(出所)NEDO「バイオジェット燃料の技術開発について」
藻類や木クズに目を付けたのは、それらが「食べられない」からだ。現在、自動車向けのバイオ燃料はトウモロコシやサトウキビ、大豆などから作るのが一般的。しかし生産量が増えると、食糧供給に悪影響を及ぼす恐れも指摘されている。つまり、非可食バイオマスにはこうしたリスクが低いというメリットがあるのだ。
NEDOは2030年のバイオジェット燃料実用化を目指すが、課題も山積している。「航空燃料の厳しい規格を満たすためには、従来型の燃料と同じ成分や性質にしなければならない」からだ。ただし、民間企業に使ってもらうには、原料や製造のコストを抑える必要がある。環境保護が目的だから、出来上がったエネルギーが生産に使ったエネルギーを上回ることも必須条件になる。
それほど難しいなら、海外で生産されたものを買えばいいのでは?と疑問を持つ人がいるかもしれない。しかし日本に技術がないと、生産国に足元を見られて高く売りつけられたり、供給量を制限されたりする懸念がある。荒巻さんによると、航空会社からも「日本の技術と事業者で生産してほしい」という声を聞くという。
現在、バイオジェット燃料の研究には多くの企業や研究所が取り組んでおり、最終的にどの手法が主流になるかは予測が難しい。「現時点ではそれぞれの主体が原料や手法の特徴を活かし、協力しながら国内の生産量を増やしていくことが重要だ」と荒巻さんは強調する。NEDOが複数の手法を研究しているのもこのためだ。
航空業界では国際民間航空機関(ICAO)が2020年以降、CO2排出量を増やさないとする目標を策定。国際航空運送協会(IATA)も2050年までに2005年比較で50%減らす目標を掲げた。現状からするとかなり高い目標だが、日本の対応は海外に比べて進んでいるとは言い難い。省エネ型の航空機の導入や運航方法の改善に加え、安価で環境負荷の少ないバイオジェット燃料の開発やサプライチェーン(供給体制)の確立も急務なのである。
(写真)筆者
亀田 裕子