2019年06月17日
地球環境
主任研究員
遊佐 昭紀
日本では初めてとなる20カ国・地域首脳会議(G20)サミットが2019年6月28、29の両日に大阪市内で開催される。これに先立ち、6月15、16両日に長野県軽井沢町でG20エネルギー・環境関係閣僚会合が開かれ、共同声明が採択された。この中で、『各国が自主的に海への流出抑制に取り組む「G20海洋プラスチックごみ対策実施枠組み」を策定する』と明記された。国際的にも注目されている海洋プラスチックごみ対策は、企業活動やわれわれの日常生活に直結する深刻な問題だ。
海洋プラスチックごみは、そもそも人類が消費したプラスチック製品の一部である。1950~2015年までに、全世界で消費されたプラスチックは83億トンといわれる(米SCIENCE ADVANCES社「Production, use, and fate of all plastics ever made」)。うち、一度しか使われない「使い捨てプラスチック(=廃プラ)46億トンが、世界中で埋め立て処理されてきた。ただし不適切な処理も目立ち、廃プラが海に流れ込み、「海洋プラスチックごみ」と化して地球を汚染しているのだ。
海岸に漂着する海洋プラスチックごみ(神奈川県・鵠沼海岸)
海洋プラスチックごみ問題は、沿岸に漂着するだけでなく、生態系に甚大な影響及ぼす。中でも、①スクラブ状の化粧品や歯磨き粉に含まれるマイクロビーズ②廃プラが海に流れ込み、波や寒暖差、紫外線によって細片化する微細なプラスチック―などのマイクロプラスチックが厄介なのである。自然界に与える悪影響が憂慮されており、今回のG20環境相会合でも、「海洋プラごみは緊急の行動が求められる問題」と共同声明で指摘された。
実際、欧米では数年前から廃プラ対策の検討が本格化しており、欧州連合(EU)のサーキュラーエコノミー(循環経済)パッケージはその代表例である。これは資源循環と経済発展の両立を目指すという意欲的な政策だ。一方、米国やカナダなども政府調達の製品評価システム(EPEAT)を厳しくし、企業が再生プラスチックの使用比率を高めるよう政策誘導する。日本も2019年5月にプラスチック資源循環戦略を公表し、海洋プラスチックを含む廃プラの削減に向けて動き出した。
こうした政策には二つの潮流がある。一つは、使い捨てプラスチック自体を無くし、紙などの天然素材に代替するという「脱プラスチック」。もう一つが、植物由来の素材を使った「生分解性プラスチック」や、一度使ったプラスチックを活用する「再生プラスチック」の利用促進である。
こうした動きを受けて、産業界としても廃プラ対策への取り組みが喫緊の課題となった。さまざまな検討が行われているが、特に製造業にとっては簡単に対応できるものではない。例えば、脱プラスチックを実施するにしても、コストや性能で従来プラスチック製品に匹敵する代替品の開発は容易でない。生分解性プラスチックや再生プラスチックも同様である。
さらに2019年5月に有害廃棄物の国境を越えた移動を規制するバーゼル条約が改定され、2021年1月以降は廃プラ輸出が相手国の同意無しにできなくなる。既に中国は2017年から品目ごとに順次、廃プラの輸入禁止の措置をとり始めた。またマレーシアは2019年5月、違法に持ち込まれた廃プラを輸出国へ送り返す措置をとると発表した。このように中国やアジア諸国に頼ってきた先進国企業の廃プラ処理は一段と難しくなってきた。
だからと言って、廃プラ問題を先送りすることは許されない。将来世代の「負の遺産」を背負わせることになるからだ。現代の廃プラ問題は言わば、日本が高度経済成長期に苦悩した大規模な公害問題と同じである。それが今まさに地球規模で起こっていると考えるべきではないか。
海洋プラスチックごみは、氷山の一角でしかない。世界的に深刻化するマイクロプラスチック問題は、現時点で人体への影響がどの程度あるのかか分かっていない。しかし、仮に人体への悪影響が断定されるとしても、その時点では、時既に遅し。甚大な被害が地球規模で発生しているかもしれない。それを見据えて、現代の政官学民は自ら社会的責任を果たすべきではないか。
それを自覚して、自主的に行動を始めた企業も現れ始めた。例えば、世界的に有名なコーヒーチェーンでは、ストローを全面禁止。その上で、ストロー不要のリサイクル蓋(ふた)に置き換えた。また、世界有数の大手飲料メーカーでは、ペットボトルに植物由来の素材を活用する。
このように先進的なグローバル企業は既に海洋プラスチックごみ撲滅に向け、動き出している。これはSDGs(持続可能な開発目標)達成の一環であり、美しい地球を維持できなければ企業も存続できないという意識がうかがえる。
社会的責任を果たすのは、何も企業だけではない。われわれ一人ひとりにも当然、責任がある。日本がG20サミットの議長を務める今回を契機に、日本でもエコバックやマイボトルが一層普及してほしいと願う。こうした個人の小さな心掛けが積み上がり、巨大な企業を突き動かすという「循環経済」の実現に向け、これからも研究活動を進めていきたい。
「美しい地球」を維持するには...(イメージ写真=静岡県・今井浜海岸)
(写真)筆者
PENTAX Q-S1
遊佐 昭紀