2019年06月27日
地球環境
主任研究員
古賀 雅之
「水道使用量が上がっていますね。どこかで水が出っ放しになっていませんか」―。水道メーターの検針員から思いがけない問い合わせを受けた。確かに、確認すると使用量がいつもより1割以上も増えている。
「犯人」はすぐに見つかった。27歳の長女である。お風呂や洗顔、手洗いに掛ける時間が以前にも増して長くなっていたのだ。
この騒動がきっかけとなり、わが家の「環境保全活動」がスタートした。まず検討したのが、買って10年以上が経過した家電の更新。省エネ性能は年々向上しているので、導入すれば使用電力量が減ると考えたからだ。妻と話し合った結果、自動製氷機が壊れていた冷蔵庫を買い替えることになった。
近所の家電量販店でカタログを見て回ると、省エネ技術の進化は筆者の想像を超えていた。例えば、あるメーカーの製品は消費電力が10年前の半分程度になっている。
それにも増して目を引いたのが、パンフレットや店頭のポップに踊る「この製品を1年間使用した場合の目安電気料金7803円!」といった謳い文句だ。家計の助けになることを数字で示されると、高額な商品でも買おうかという気になる。省エネと電気代の節約は同じ話の表裏なのだが、金額で見せられたほうが強い印象を受けるのだ。とくに家計のやりくりを担当している妻は心を動かされたようだった。
省エネや節電を謳うパンフレット
(写真)筆者
一方、騒動の発端となった長女の節水はなかなか進まなかった。注意した時には聞いてくれるのだが、行動が長続きしないのである。
そんなある日、テレビを食い入るように観る長女がいた。画面には、途上国で幼い女の子が1日何時間もかけて家族のために水を汲んで運ぶシーンが映っている。その日から彼女の行動に変化が現れた。水を大切に使うようになったのだ。
長女にとって水道料金を払うのは自分ではないし、節水がどのように環境保護につながるかも直接は見えない。所詮は「他人事」なのである。しかし、自分より幼い子どもが水を手に入れるために苦労している姿を見れば、自然と感情移入するし、水の大切さを理屈抜きで理解する。裏返せば、環境保全のようにだれもが認める目標を立てたとしても、心が大きく動かされない限り、人の行動は簡単には変わらないのだ。
新しい冷蔵庫は期待通り電気代の節約につながった。そのことを嬉々として語る妻の顔には「次は洗濯機」と書いてある。何に最も心を動かされるかは人によって違う。環境保全を進めるには、当事者それぞれの心の琴線に触れるメッセージを用意することが必要だろう。
古賀 雅之