2019年07月10日
地球環境
研究員
芳賀 裕理
海の日(今年は2019年7月15日)が近づいてきた。「海」と聞いて真っ先に思い出すのは、3年前に観光で訪れたフィリピン・ボラカイ島。ターコイズブルー(緑味がかかった鮮やかな青色)の海と、4キロにわたる純白の砂浜を見ているだけで、「楽園」の気分を存分に味わえた。
実際、ボラカイ島は2012年に米国の旅行雑誌「トラベル&レジャー」で世界1位の観光地に選ばれた。それを知った観光客が世界各国から押し寄せ、現地報道によると、その数は2012年の47万人から翌2013年に136万人へと急増。さらに2017年には200万人規模となり、観光収入は560億ペソ(約1120億円)まで拡大した。
ところが、観光客やホテル・飲食店の急増に伴い、海は汚染されて砂浜も白さを失ってしまった。一部の施設が禁止区域に建てられたため、藻の大量発生なども招いたという。
ドゥテルテ大統領は貴重な観光資源の環境破壊に危機感を募らせ、「災害宣言」を発令。2018年4月26日にボラカイ島を閉鎖し、最大半年間、観光客の立ち入りを禁じたのである。現地報道によると、その環境対策の柱は①排水処理施設の整備②100軒以上とされる、違法に建築された宿泊施設の取り壊し③観光客の収容能力の調査と、再開後の観光客数の制限―などである。
しかし、生活の糧としている観光収入を失う地元住民は、島の閉鎖に反対の声を上げた。現地報道によると、島では3万6000人が職を失い経済損失は最大200億ペソ(約400億円)に達すると推定された。このため、閉鎖を島の一部にとどめてほしいという声も出ていたという。
そこで大統領府は労働雇用省や社会福祉開発省、地方自治体と協力し、島の閉鎖に伴う失業者を支援する方針を表明した。CNNによると、1万7000人以上の労働者を支援するため、290億ペソ(約580億円)の予算措置を講じたほか、5000人分の職も確保した。
島閉鎖の半年間、前述した環境対策が実行に移され、ボラカイ島ではターコイズブルーの海と純白の砂浜がよみがえった。AP通信によると、新たな規制として、①1日に受け入れる観光客数を最大6400人に制限②島に滞在できる観光客を最大1万9200人に制限③ビーチでのゴミ捨てや飲酒、喫煙、たき火、パーティーの禁止④規制を守る宣誓書への観光客の署名―などを導入した。
こうして2018年10月26日、観光客の受け入れが再開されたのである。再開式典で、プヤット観光長官は「この島を私たちの家と思って大切にしよう。きれいで手つかずのまま守ろう。ビーチでの飲酒や喫煙、ゴミ捨ては厳禁だ」と呼び掛けた。
観光客の増加によって環境が破壊され、閉鎖に追い込まれた観光地はボラカイ島だけではない。例えば、タイのピピ島やアイルランドのファズラオルグリューブ渓谷といった国際的な観光地が挙げられる。
ただし、自然環境が汚染された後、元の姿に戻すために地域を一時閉鎖しようとしても、それは容易なことではない。そこでは地元住民が観光を頼みに暮らしているからだ。環境と経済の両立は難しいが、それを実現しないと、美しい地球は守れない。まずはそれを一人ひとりが意識することから始めたい。これから観光地を訪れる際は景観を楽しむだけでなく、その地を「自分の家」と考え、住民の生活に思いを馳せるよう努めたい。
ボラカイ島のビーチ
(写真)筆者
芳賀 裕理