2019年08月22日
地球環境
研究員
野﨑 佳宏
「親から子へ、子からまたその子へ血は流れ、永遠に続いていく。それが本当の永遠の命だと、俺は信じる」―
これは、映画「さよなら銀河鉄道999」(1981年公開)の終盤、宇宙海賊キャプテンハーロックが語る言葉だ。「銀河鉄道999」は松本零士の代表作。主人公の青年が「永遠の命」に憧れ、機械の体をもらえる星を目指すSFファンタジーである。
このセリフを数十年ぶりに思い出したのは、ある環境団体が主催する講演会でのこと。大学教授ら専門家が次々に登壇する中、普通の女子大学生がスピーチに立ち、「わたしたちの未来は、気候危機によって根こそぎ奪われるかもしれない」と訴えたのだ。
彼女の言葉は切実だった。次の時代を担う18歳未満の子どもたちには選挙権がない。今の環境政策に対する発言はできない一方、気候変動の影響はその世代を直撃する。政治に影響力を持つ大人は、次の世代のために気候変動について真剣に考えなければならない...
実際、温暖化防止対策は待ったなしの局面を迎えている。科学的な研究が進むにつれ、「産業革命前からの気温上昇を2℃に抑える」という国際的な目標の達成が難しいと分かってきたからだ。既に約1℃の気温上昇が確認されており、今のペースで温暖化が進めば今世紀末までに4℃上昇するとの試算もある。そうなれば、たくさんの人が大型台風の頻発や熱中症により、生存の危機に直面するだろう。わたしたちの怠慢のツケを、まだ生まれてもいない子どもや孫の世代が払わされるのだ。
実は前述の会合は、地球温暖化を加速させている企業への投融資を控える「ダイベストメント」を促す目的で開かれたものだった。ダイベストメントとはインベストメント(投資)の反対語で、資金の引き上げという意味だ。環境破壊に加担する企業を、いわば金融面から「兵糧攻め」にしようというものである。
従来、企業絡みの環境保護活動といえば、地球に優しい商品を使ったり、環境に配慮する企業を支援したりする「応援型」が主流だった。しかし気候危機への切迫感が高まるにつれ、不買運動やダイベストメントといった「攻撃型」も力を増しつつある。今後、環境保護に取り組まない企業はその標的にされ、生き残れなくなるかもしれないのだ。
では企業サイドにはどのような取り組みが求められるのか。例えば、日本政府は2019年6月、気候変動に対応するための長期戦略を閣議決定した。温室効果ガスの大幅削減につながる脱炭素技術の実用化や社会実装を通じて、「環境と成長の好循環」の実現を目指すとしている。この中で期待されるカーボンリサイクル技術は大気中のCO2を分離回収し、人工光合成などに有効利用しようとするもの。気候変動を解決に導く技術への期待がかつてなく高まっている今、産業界全体が一致団結してこうした技術開発を加速させ、成功に導かなくてはならない。
一方、帝国データバンクの調査(2019年)によると、2019年中に創業100年以上となる老舗企業は全国で3万3000社を超える。業歴1000年以上も7社あるという。しかし、それらが時代を超えて生き残れたのは、自分がまだ見ぬ未来のお客様や従業員のことを考え、「企業が存続してほしい」という意思を次世代に引き継いできたからだろう。持続可能な開発目標(SDGs)に注目が集まっているが、たかだか数年の取り組みで解決できることなどない。地球市民の一員である企業にも、世代を超えた「意思のリレー」が求められているのではないか。
ハーロックが語った「永遠の命」とは?(イメージ写真=松江市の夕景)
(写真)中野哲也 PENTAX K-50
野﨑 佳宏