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地球温暖化説は信用できない?

=巨大台風に見舞われる日本列島=

2019年10月17日

地球環境

主任研究員
遊佐 昭紀

 台風19号により被災した皆様に心からお見舞い申し上げます。

 夏から秋にかけて毎年、日本列島は台風に見舞われ、時として甚大な被害を被る。2019年10月には過去最強クラスの台風19号に襲われた。静岡県や関東甲信地方、東北地方を中心に広い範囲で記録的な大雨となり、50万軒を超える停電が発生した。今回はとりわけ河川の氾濫が堤防の決壊をもたらし、多数の方が犠牲になられた。

 台風が発生すると、気象庁が進路や規模などの予報を公表する。わたしたちはそれを見て被害を最小限に抑えるための行動をとる。今回の台風19号では、同庁が特別警報を発表し、最大級の警戒を呼び掛けた。それを受けて予測進路にかかる主要な鉄道路線が事前に計画運休を決定。筆者も前日に庭の植木鉢やテーブルなどを室内に片づけて強風に備えた。それでもフェンスが支柱ごと折れ、カーポートの屋根が一部吹き飛んだ。

 こうした予報の的中率は年々高まっている。気象庁によると、台風の進路予報も1990年代前半の3日予報(当日を含めて3日間の予報)より、現在の5日予報の方がよく当たるという。精度が向上した最大の理由はデジタル技術の進歩だ。コンピューターの計算速度が上がったほか、観測機器の改良により予報に使うビッグデータが量と質の両面で改善したのである。

台風進路の予報誤差

20191023b.png(出所)気象庁「3年移動平均」



 こうした技術は短期の気象予報だけでなく、長期の気候変動の予想にも活かされている。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年10月に公表した「1.5℃特別報告書」や、2019年9月に公表した「海洋・雪氷特別報告書」にも、最先端技術を用いた予想が盛り込まれた。

 その1.5℃特別報告書によると、現時点で既に産業革命前に比べ約1℃の温暖化が起きている。さらに今のペースで温暖化が進めば、上昇幅が1.5℃に達するのは2030年から2052年の間だという。さらに海洋・雪氷特別報告書によると、温室効果ガス排出が最も多いシナリオの場合、20世紀末ごろと比べて今世紀末に海面は最大1.1メートル上昇し、最終的には2億8000万人が現在居住している地域が水没するほどの海面上昇が起こるのは避けられない状況にあるという。

 ただ、こうした予想が示す二酸化炭素(CO2)と地球温暖化の関係については、地球温暖化説を信用できないという懐疑論も少なくない。温暖化防止に向けた行動目標を盛り込んだパリ協定からの離脱を決めたトランプ米大統領もその一人。温暖化は人間活動のせいだとは限らないと考えているようだ。

 しかし、異常気象の原因は自然界で発生する「ゆらぎ」であり、地球温暖化によって現在その発生頻度が高まっているのは間違いない。ゆらぎが発生する理由としては、例えば偏西風や季節風の吹くエリアや、赤道付近の海面水温などの変化が挙げられる。ゆらぎが一定の限度を超えて多数発生した場合などでは、異常なまでの高温や豪雨、強風がもたらされるリスクが高まる。

 異常気象をもたらすゆらぎは、大量のデータ分析によってその発生確率を計算できる。それが分かると、今後100年間で地球の平均気温がどれだけ上昇するかといった気候変動も予測できるのだ。

 わたしたちが実際の生きている時間軸とスケールは異なるが、気候変動の予測も同じだ。懐疑論者が指摘するように、報告書の予測が絶対に当たるとはいえない。しかしリスクが高まっていることは科学的な事実だ。だからこそ異常気象のリスクを少しでも減らすためにも上述のような報告書の指摘を真摯に受け止め、温暖化ガスの削減に向けて話し合いのテーブルに着いてほしい。

 IPCCの1.5℃特別報告書によると、気温上昇を産業業革命前に比べ1.5℃以下に抑えるためには、地球全体のCO2排出量を2030年までに2010年比で約45%減らし、2050年には実質ゼロにする必要があるという。わたしたちに残された時間はあまりないのだ。

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遊佐 昭紀

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