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「都市鉱山」で途上国の政策に貢献を

=「循環経済」には国際協調が不可欠だ=

2020年02月03日

地球環境

主任研究員
遊佐 昭紀

 情報技術の進化に伴って、意外に厄介なことがある。それはPCや周辺機器の廃棄だ。OSのサポート終了や高性能の機種への置き換えによって不要になった際に、皆さんはどうしていますか。筆者は使わなくなったこうした電子機器類を取りあえずクローゼットに保管してきた。しかしついに、スペースがなくなってしまったのだ。そこで、2019年の暮れ、ため込んできた不用なPCやスキャナーなどを思い切って捨てることにした。はやりの「断捨離」である。

写真廃棄したPCや周辺機器の一部

 だが断捨離をするにしても、どのように廃棄するのか分からず、まずはインターネットで調べてみた。すると意外にも簡単に廃棄できることが分かった。筆者が住む地域の場合、比較的小型なノートPCやスマートフォンなどは、自治体が公共施設や商業施設などに設置している回収BOXに入れるだけなのだ。また、少し大きめのデスクトップPCなどは、国が認定している引き取り業者にウェブ上で申請し、そこに宅配便で送付すればよいという。「断捨離」して広くなったクローゼットを見て、「これなら、もっと早く捨てればよかった」―。と思ったほど簡単であった。

 なぜこれほど簡単に、厄介な電子機器類の断捨離ができるのか。実は日本では、不用な電子機器類を「正しく」処理する法制度が整備されているからである。例えば、「循環基本法」※1では、廃棄物の処理優先順位を法定。①発生抑制②再使用③再生利用の順に優先順位を定め資源循環を促している。また個別製品の特性に応じた規制の一つである「小型家電リサイクル法」※2では、携帯電話端末やPC、電子レンジなどの小型家電を、市町村が小売業者などの協力を受けて回収を行い、国の認定する再資源化事業業者に引き渡すことが定められているのだ。こうした法制度の下で、日本では2016年の電子電気機器廃棄物(E-Waste)の回収総量は210万トンに上る。※3

 回収されるE-Wasteには、金や銅、鉄、コバルトなどのさまざまな金属が含まれている。そこで鉱山資源の少ない日本では、再資源化促進に行政も力を入れているのだ。政府の検討委員会※4によると、小型家電リサイクル法が施行された当初の2013年度、認定事業業者による金属再資源化量は約7500トンだった。それが2018年度には約4万6000トンまで拡大している。このようにE-Wasteから再資源化した金属は鉱山資源と見立てられ、「都市鉱山」と呼ばれる。2020年の東京五輪・パラリンピックのメダルにも都市鉱山を使うことが報道されている。

 海外でも日本と同様な法制度の整備が進んでいる。例えば欧州では、欧州連合(EU)の電気・電子機器廃棄物(WEEE)指令※5によって、E-Wasteの廃棄回収がルール化されている。消費者は行政が設置する回収拠点に廃棄物を運び分別廃棄を行い、製造者は行政が回収した廃棄物を引き取りリサイクルする。さらに製造者には、その引き取り量と再資源化した回収資源量の報告が義務化されている。こうした取り組みにより、2016年のE-Wasteの回収総量は1230万トン※3に上る。さらにEUは、2018年から一部特殊用途を除くすべての電気・電子機器を6つに分類し、収集・リサイクル・回収目標を定めて規制を強化している。このように先進国を中心に、資源循環を促進する法制度が整備されてきている。

 しかしながら、行政が主導する廃棄処分の規制の網の目をくぐり、先進国などのE-Wasteが途上国などに中古製品として持ち込まれる事例も後を絶たない。例えば、国連大学が2018年4月に公表したナイジェリアに関するE-Wasteの輸出実態についての調査報告によると、2015、2016両年に他国からナイジェリアに送られた中古の電気・電子製品は推定約6万トンあった。そのうちで少なくとも1万5400トンは、機能しない「廃棄物」であったといい、これらは、バーゼル条約とEUのWEEE指令でともに禁止されているものだ。これらは、ナイジェリア国内市場向けの中古車と一緒にまたは輸送用コンテナにより、家財や私物として持ち込まれたものだ。しかも、持ち込まれた中古の電気・電子製品のうち77%は欧州から輸入されたものだという。

 この国境を越えて持ち込まれたE-Wasteでは、非公式な業者が適切な労働者保護策を講じないまま、金や銅などを廃棄物の中から採取しようとするケースが懸念されている。それだけでなく、これら廃棄物に含まれる有害物質が不適切に扱われ、そのまま焼却や埋め立てられる恐れもあり、環境汚染にもつながりかねない。このように、他国から持ち込まれた廃棄物は本来関係のない国と国民に害悪をもたらすのだ。

 市場のグローバル化に伴い、製品だけでなく廃棄物までもが国境を越えている実態を受け、限りある資源を自らの経済圏内で循環させる仕組みを構築する政策が国際的に注目を浴びている。それがサーキュラー・エコノミー(循環経済)だ。新たな資源を投入し製品を生産・販売し、消費者が不要となったものは廃棄するという一方向の線形型の経済モデルから、「新たな資源はなるべく投入しない」、「製品を上手に長期使用してもらう」、「使用後は極力再資源化し循環させる」という循環型の経済モデルを実現させることが狙いだ。前述した都市鉱山のような新たなビジネスを創出させ、域内で新たな雇用を生み出すことで、経済成長と環境問題を同時解決することも期待される。

図表循環経済のイメージ
(出所)リコー経済社会研究所

 循環経済は欧州を中心に浸透がしつつあり、中国でもこの考え方を取り入れ始めている。さらに日本でも、循環経済への移行を確実にするため、経済産業省が循環経済ビジョンを2019年度中に策定予定だ。また国際標準化機構(ISO)では、循環経済に関する国際標準化を目指す、ISO/TC323の検討が始まっている。国際的にこのような考え方が根付けば、国境を越えた廃棄物は徐々に減っていくことが期待できる。ただしそのためには、各国が経済合理性を優先し自国の便益ばかり気にするのではなく、国際協調による、より良いルールを構築していくことが求められる。

 だがルールができたとしても、消費者や企業がそのルールを厳守しなければ、何の意味もない。わたしたち消費者は、これまで以上に製品を上手になるべく長期間使い、廃棄時にはルールに順守した適切な分別をさらに心掛けることが必要だ。またグローバル企業は世界中に張り巡らしたサプライチェーンを今一度見直し、他国の環境保護にも一層配慮する必要がある。さらに先進国のリサイクルのノウハウは、途上国の環境政策に貢献することは間違いない。このような積み重ねが地球環境問題の前進につながることを祈りたい。

(写真)筆者 PENTAX Q-S1


※1.循環基本法:正式名称は、循環型社会形成推進基本法(平成十二年法律第百十号)
※2.小型家電リサイクル法:正式名称は、使用済小型家電電子機器等の再資源化の促進に関する法律(平成二十四年法律第五十七号)
※3.国連大学The Global E-waste Monitor 2017
※4.小型家電リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する報告書(案)
※5.WEEE指令:正式名称は、「Waste Electrical and Electronic Equipment Directive」。2003年2月に公布・施行され、その後、2012年に改訂されている。
※6.バーゼル条約:正式名称は、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約。一定の有害廃棄物の国境を超える移動などの規制についての国際的な枠組み及び手続きを規定したもの。

遊佐 昭紀

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