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「主犯」CO2を「資源」に活用するCCUS

=技術革新で気候変動に立ち向かう(下)=

2020年03月27日

地球環境

研究員
亀田 裕子

 「CO2回収・貯留(CCS)で温暖化を抑制=技術革新で気候変動に立ち向かう(上)=」では、「CO2回収・貯留」(CCS=Carbon dioxide Capture and Storage)について論じた。本稿では、回収したCO2をさらに有効活用(Utilization)する「CO2回収・利用・貯留」(CCUS=Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)という最先端の取り組みに焦点を合わせたい。

 (上)で触れたように、CCSの課題の1つとして経済合理性が挙げられる。例えば、CO2の貯留場所の確保が困難なため、運営コストが膨れ上がってしまうのだ。このため、CCSに「U 」を加えたCCUS は、回収したCO2を燃料などの資源として有効活用する技術である。それによって経済合理性を高めようというわけだ。

 その有効活用の手段としては、①「EOR(石油増進回収)」といわれる原油回収に利用する方法②CO2を「直接利用」する方法③CO2を資源として再利用する「カーボンリサイクル」―の3種類がある。

 このうち、①のEORは、地下の油層にCO2を圧入して石油の性状を変化させた上で、原油の汲み上げ(=回収)に利用する方法である。米国やカナダ、メキシコなど北米大陸を中心に開発が進んでおり、EORによって原油回収率は大幅に改善する。ただ、この方法はCO2を発生させる原油使用を促進してしまうという側面がある。

 ②の直接利用はCO2を金属溶接に使用したり、ドライアイス製造に使ったりする技術である。ただし最終的にCO2が大気へ排出されるため、その排出抑制効果はなしとされる。③のカーボンリサイクルは、効率的に回収したCO2を「資源」ととらえ、化学品や燃料に再利用することにより、新しい循環が生まれる技術として注目を集める。

 この中で、日本が力を入れているのが、➂カーボンリサイクルの技術開発。その中でも、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が取り組んでいるのが、CO2と水素(H2)からメタンを合成する技術である。今回、環境部クリーンコールグループの西海直彦さんに取材し、解説していただいた(諸般の事情でメールでやり取り)。

 天然ガスの生産工程などでは、大量のCO2が排出される。それと、水の電気分解によって生成した水素を合成すれば、天然ガスとほぼ同じ成分のメタンを製造できる。これを「メタネーション」と呼ぶ。

写真メタネーション試験設備(越路原プラント敷地内、新潟県長岡市)
(提供)NEDO

図表プラント概念図
(出所)NEDO

 西海さんは「メタンは天然ガスとほぼ同じ成分なため、既存の都市ガスのインフラを活用できる。こうしたメリットがあるため、有望だと判断した」という。現在、上記写真の試験設備は1時間当たり8N㎥(ノルマル立米)の製造能力がある(注=N㎥とは1気圧の標準状態を表す単位、主に排出ガス量などに用いられる)。

 仮にこの試験設備で24時間連続運転を行えば、製造量は192N㎥となり、180世帯が1日に使うエネルギー需要を賄えるという。現段階では天然ガス生産時に排出されるCO2を使うが、西海さんは「石炭火力発電所などさまざまな排出源において、CO2を直接メタネーションに活用することも可能」と指摘する。

図表将来のCO2有効利用システムの全体フロー
(出所)NEDO

 こうしたメタネーションによるカーボンリサイクルが実用化できれば、日本にとってメリットは大きい。日本の電源構成では、天然ガスや石炭を燃料とする火力発電からの供給が大半を占め、それに伴い大量のCO2が排出されているからだ。このCO2を活用してメタンという燃料にできれば、エネルギー確保とCO2削減の一石二鳥が実現する。「夢の技術」といえるだろう。

 合成したメタンで大量輸入している天然ガスを代替できれば、日本のCO2排出量の約2割を削減できる計算になるという(NEDO 試算)。まさに「夢の技術」である。NEDOも設備を大規模化し、合成メタンの商用化を視野に入れているという。

図表日本の電源構成比
(出所)環境省「2018年度(平成30年度)の温室効果ガス排出量(速報値)」

図表日本全体に占める火力発電からのCO2排出量
(出所)NEDO

 無論、難しい問題もある。メタン合成に必要な水素の生成、あるいは設備を稼働する際、化石燃料由来の電源を使うとその過程でCO2が排出されてしまうのだ。前述した一石二鳥を実現するためには、この2つの過程で使う電源を再生可能エネルギー(再エネ)由来のものに置き換えるという技術革新が不可欠の条件になる。また、現在の再エネの発電コストでは採算がとれない。メタネーション商用化のためには、再エネの抱える難題を一つひとつ解決していく必要がある。

 近年、地球温暖化の「主犯」とされてきたCO2。将来はその立場が一変し、地球を救う大切な資源として扱われるようになるかも。その日が来ることを願ってやまない。


<参考>

NEDO「CO2を有効利用するメタン合成試験設備を完成、本格稼働に向けて試運転開始
―カーボンリサイクル技術の一つであるメタネーション技術の確立を目指す― 」
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101217.html 

NEDO「NEDO環境分野の取り組み 2019」
https://www.nedo.go.jp/content/100896380.pdf

NEDO「focus NEDO 2019 No.73」
https://www.nedo.go.jp/content/100893277.pdf 

環境省「2018年度(平成30年度)の温室効果ガス排出量(速報値)
https://www.env.go.jp/press/112856.pdf

亀田 裕子

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