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循環型経済のカギ握るLCAとは?

=商品「一生」の環境負荷を評価=

2021年12月13日

地球環境

主任研究員
遊佐 昭紀

 レジ袋の次は、プラスチック製のスプーンやフォークの削減―。「使い捨て」文化からの脱却を目指す政策が、また一歩進む。「プラスチックに係る資源循環の促進等に関す法律(=プラスチック資源循環促進法)」が2022年4月に施行されるのだ。背景にあるのは、これまで一般的だった「何でもリサイクルすれば環境に良い」という考え方の変化。例えば、リサイクルの過程でも二酸化炭素(CO2)は排出される。「環境に優しい循環経済」を築くには、商品が生産されて廃棄されるまでその「一生」の間にどれだけ環境に負荷をかけるかを総合評価する「ライフサイクル・アセスメント(LCA)」が不可欠なのだ。

写真気軽にもらっていた使い捨てスプーン・フォーク
(出所)筆者

 この法律が施行されると、プラスチック製の使い捨てスプーンやフォーク、歯ブラシ、ハンガーなど12品目の提供が制限される。対象になるのは年5トン以上使う事業者。施行に先駆けて既に、コンビニや宿泊施設、クリーニング店などの一部は、有料化への移行や紙製代替品への変更などに乗り出している。

規制対象の特定12品目
図表(出所)各省庁公表資料を基に筆者

 とはいえ、これまでも日本はさまざまな法律を制定し、リユース(再利用)・リデュース(減量)・リサイクル(再生)の「3R」を推進してきた。なぜ新しい法律が必要になったのだろう。

 背景にあるのは、欧州連合(EU)を起点に始まった環境政策の大きな変化だ。従来、環境政策といえば、3Rを通じて一つひとつの製品について廃棄物を減らすことに主眼が置かれてきた。これに対し近年は、EU域内のあらゆる資源を繰り返し使いながら、温暖化ガスも抑制する新しい経済構造「循環経済(サーキュラー・エコノミー)」への転換が大きな潮流になりつつある。

 資源を採掘し、モノを作り出し、それを利用して最終的に廃棄する。この一連の経済活動には、廃棄物と温暖化ガスの排出が付きまとう。そこでサーキュラー・エコノミーでは、製品を修理しながら長期間使用し、仕方なく廃棄する場合でも新たな資源と捉え、再生・再利用でCO2の削減を目指す。

 実は前述のプラスチック資源循環促進法もこうした考え方をとり入れている。使い捨てを削減するだけでなく、プラスチック製品の設計・製造段階から廃棄に至るライフサイクルの各段階で資源循環を促し、環境への悪影響を低減することを視野に入れているのだ。

 ただ、ここで素朴な疑問が湧いてくる。そもそも大規模に資源を循環させると、本当に環境負荷は減るのだろうか。実は、単純に「地球に優しい」とは言えないのである。

 買い物袋の例で考えてみよう。例えば100回の買い物で①使い捨てレジ袋を100枚使うケース②繰り返し使えるプラスチック製エコバッグを2つ、50回ずつ使うケース―では、どちらが「エコ」だろうか。実は、材料調達から製造、処分まで考慮したライフサイクル全体で見ると、廃棄物量とCO2の排出量は使い捨てレジ袋のほうが少ない。

 ただし、エコバッグを1つにして使用回数を100回に増やせば、環境負荷は逆転する。裏返せば、「何となく地球に優しそう」というだけで3Rを進めると、かえって環境への負荷を増やしてしまうことになりかねない。買い物袋一つとってもこれだけ複雑だから、資源循環を社会全体で促すには、こうしたLCAをたくさんの製品に広げて行く必要がある。

買い物袋のLCA
図表(出所)LCAを考える=「ライフサイクルアセスメント」考え方と分析事例
(一般社団法人プラスチック循環利用協会)を参考に筆者

 LCAの評価方法は世界標準化が進んでおり、国際標準化機構も「ISO14040シリーズ」として手順などを規格化している。評価結果についても、多くの企業が報告書として公開し、製品の研究開発や改善などに活用している。

LCAの概要 
図表(出所)各種情報を参考に筆者

 ただ、LCAを広げて行くには課題も多い。評価に利用する情報の収集もその1つだ。複雑な製品ならば、原材料や部品を多数のサプライヤーから調達することになる。現在のサプライチェーンはグローバルに広がるため、全体を網羅して調べるのは極めて困難だ。評価にどんなデータを利用するかといった条件も、技術革新や制度変更などによってどんどん更新されていく。

 日本企業がサーキュラー・エコノミーの潮流に乗り遅れないためには、こうした課題に産官学が協力して取り組む必要がある。使い勝手のよいデータベースの構築や、制度変更などに関する情報共有については一部で検討が始まっているが、まだ不十分だ。環境政策の転換点を迎え、日本企業の本気度が問われている。


【インタビュー】

「LIME」生みの親に聞くLCA最新動向
=伊坪徳宏・東京都市大学環境学部教授=

 ライフサイクル・アセスメント(LCA)とはどんな評価方法なのか。脱炭素とはどのように関係するのか。LCAの研究に長年携わり、国内の代表的な評価方法である被害算定型環境影響評価手法「LIME」の開発にも参加した東京都市大学環境学部の伊坪徳宏教授にインタビューを行った。

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 伊坪徳宏氏(いつぼ・のりひろ)
 東京都市大学環境学部教授、総合研究所環境影響評価手法研究センター長
 1998年、東京大学工学系研究科材料学専攻修了卒業、博士(工学)。社団法人産業環境管理協会、独立行政法人産業技術総合研究所ライフサイクルアセスメント研究センターを経て、2005年に東京都市大学(旧 武蔵工業大学)環境情報学部准教授、2013年から現職。経済産業省LCA国家プロジェクトでライフサイクル影響評価手法の開発に従事、環境影響評価手法と産業界への応用研究に幅広く貢献。

 

 ―LCAに携わるようになったきかっけは。

 大学院の修士課程にいた1992年頃です。当時は複合材料の研究に取り組んでいました。開発した材料を環境に配慮したものにしたいと考え、環境負荷をLCAで分析したのがきっかけです。

 博士課程になってからはLCAの研究にシフトしました。当時はLCAをテーマに博士論文を書くという人もいなかったので、(製品を作るのに投入する資源やエネルギー、廃棄物の量などを一覧にした)インベントリのデータベースを作るところから始めました。影響評価手法を開発し、活用まで行うのが当時の目標で、最終的に博士論文を書きました。

 その後、1998年に経済産業省がLCAの国家プロジェクトをスタートしました。博士論文を提出したこともあり、プロジェクトに参加し、本格的に影響評価の手法開発に関わることになったのです。

 ―プロジェクトでは、どんな評価方法を開発したのですか。

 LCAは昔も今も、欧州がリードしています。しかし向こうのアプローチで評価手法を作ると、それ自体が欧州のデータを前提に作られているので、日本では使いにくくなってしまいます。そこで、欧州の手法を参考にしながらも、日本の製品に活用できる独自の影響評価の手法を作ることになりました。例えば、気候変動や大気汚染、資源消費、土地利用による生態系への影響などについて、日本という地域に特有の環境条件を考慮してモデルを作るのです。2003年に第1期のプロジェクトが終了し、完成したのが「LIME」です。

 LIMEを公開すると、多くの企業が使い始めました。その一方で、課題も浮かび上がってきました。1つは影響領域(=対象範囲)をもっと広げたほうがよいのではないかということです。例えば、室内の騒音や空気など局所的な部分も評価対象に含めたいという声が上がりました。また、この手法の「確からしさ」も示してほしいという要求も出てきました。それに対応する形で改良したのが「LIME2」です。これは、2010年にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトの中で公開しました。

 それ以降、サプライチェーンのグローバル化に対応するため、改良を重ねています。例えばアジアに適用できる評価手法が必要だということになり、その検討を始めました。次にアジアだけではなく、世界全体を対象にすべきだということになり、2013年から「LIME3」の開発がスタートしました。海外での存在感を高める狙いもあり、2018年には環境系科学誌「インターナショナル・ジャーナル・ライフサイクルアセスメント」の特集号でLIME3を発表しました。

 ―LIMEの次の展開は。

 文部科学省から支援を受け、評価手法の更新を行っています。例えば、開発がいったん終了すると、その時点でデータ更新がストップしてしまうので、半自動的に更新されるよう改善しています。システム自体は基本的に同じでも、計算に使う係数などは環境の変化などに応じて変えていくほうがよいので、それを自動化するわけです。

 ―温暖化対策にも活用できますか。

 企業がサスティナビリティレポート(持続可能性報告書)を出す際に、第三者認証を受ける例が増えてきました。それ自体は良い方向だと思いますが、現在はGHGプロトコル(温室効果ガス排出量の算定・報告の世界共通基準)に書かれている程度の検証にとどまると思います。しかし、GHGプロトコルはあくまで全体のガイドライン。業界特有の事情や社会の変化には対応しきれない部分が出てきます。使い方も報告書を作成する側に任されている。LIMEを使えば、もっと精緻で客観的な評価をすることができます。

 今後、カーボンプライシング(=炭素に税金などで「価格」を付け、排出者の行動を変容させる政策手法)が広がれば、温暖化ガスの削減量の計算には、今より公正な手法が求められると思います。こうした分野でのルールづくりのベースにもなると期待しています。

遊佐 昭紀

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