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迫る太陽光パネル大量廃棄

 不法投棄、環境破壊の懸念も

2023年08月04日

地球環境

研究員
山本 晃嗣

 地球温暖化を抑止する対策の一つとして世界的に太陽光発電が急速に拡大。日本でも再生可能エネルギーを一定価格で買い取る制度の後押しもあって、全発電量の9.9%を占めるまでになっている。しかし、太陽光パネルが短期間に集中的に設置されたため、年間廃棄量が30年代には現在の100倍以上に増える事態が懸念されている。リユースに取り組む企業の中には低価格の中古パネルの活用・販売を通じた新たな発電環境の構築を目指す動きがあるが、中古パネル利用の普及は見通せていない。有害物質含むパネルの不法投棄も見逃せないだけに、抜本的対策の早期整備が不可欠だ。

10年間で10倍以上に

 日本の太陽光発電量は、天然ガス火力、石炭火力などに次いで4位、全発電電力量に占める割合は9.9%に増加した。環境意識の高まりもあって、二酸化炭素を出さない太陽光パネルを個人の住宅に設置する層も増えているが、最大の要因は再生可能エネルギーによって発電した電力を国が一定価格で一定期間買い取る「固定価格買取制度(FIT制度)」だ。

図表

日本の電源構成(2022年速報)(出所)環境エネルギー政策研究所

 FIT制度が2012年に開始された当初は買い取り価格が高く設定されたこともあって、大手企業も含めて多くの事業者が参入。太陽光発電による発電量は右肩上がりで増え続け、22年までの10年間で10倍以上になっている。

図表

日本の太陽光発電による発電量(出所)IEA「Monthly Electricity Statistics」を基に作成

 地球環境に優しく、急拡大している太陽光発電に課題はないのか。大きな課題の一つとして太陽光パネルの処理問題がある。

今の再利用率を維持できるか

 一般に太陽光パネルの寿命は20~30年とされる。FIT制度によって導入が急激に増えたため、2040年前後に大量の使用済みパネルが出てくる。その量は現在の100倍以上、年80万トンに達すると試算されている。現在は処理量が少ないこともあって多くのパネルがリサイクル、リユースされているが、40年時点で今の再利用率を維持できるかどうか。

図表太陽電池モジュール排出見込量(寿命20、25、30年)(出所)環境省「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン」

 その時に懸念されるのは①太陽光パネルをはじめとした発電設備の不法投棄②有害物質による環境汚染③太陽光パネルの最終処分場のキャパシティ―。太陽光パネルにはカドミウムや鉛といった有害物質が含まれているため適切な処理、廃棄が必要になる。しかし、適切な処理や廃棄には費用がかさむため不法投棄などの懸念がある。さらに、今後20年前後で急激に廃棄が増加するため処分量の圧縮や処分場の拡大が課題となっている。

環境省がガイドライン

 今後も太陽光発電の維持・拡大は不可欠なだけに、使用済みパネルが大量発生する時代への備えは待ったなし。リユース・リサイクルの推進に向けて環境省は2018年に「太陽光発電設備のリサイクル等の推進に向けたガイドライン」をまとめている。

 このガイドラインは、太陽光発電をはじめとした使用済み再生可能エネルギー設備のリユース、リサイクルを含めた適正処理の推進に向けたロードマップ、関係者の役割などをまとめ、利用が終了した段階から必要となる工程を明記している。

 具体的には①リユースする場合、業者は性能確認を行い、安全性や品質の確認を実施。廃棄せざるを得ない場合の手順も明記する②リサイクルする場合は再利用できるものと、できないものの分別など中間処理を行う③リユースやリサイクルが難しい場合に埋め立て処分する―などとしている。

中古を検品して提供

 こうした動きを先取りする形で、少なくない業者が太陽光パネルのリユース・リサイクル事業を手掛けている。今回、2003年に再生可能エネルギーの普及を目的に設立されたネクストエナジー・アンド・リソース(長野県駒ヶ根市)にこれまでの足取りや今後の課題について聞いた。

 同社は当初、農業用水を活用した発電などを模索したが、最終的に太陽光発電への注力を決定。産業用や住宅用の太陽光発電設備の提供、メンテナンスなどを行っている。当時、太陽光パネルは1枚数十万円の費用が必要だった中で、中古を検品してインターネット経由で提供するリユース事業を2005年から始めている。

 これまでに買い取ったパネル約14万枚、その大半をリユース品として販売。ネクストエナジーは「在庫を持つとコストがかかり、低価格で販売できない。これを避けるため、買い手がみつかってから使用済みパネルを確保している」(経営企画室)。

ハンディーな検査機器を開発

 買い取り判断の効率化にも取り組んでいる。かつては中古パネルについて、大型の検査設備で一枚一枚、リユース可能かどうか確かめていた。この方法では検品効率が悪く、輸送・検査に関する費用がかかるため、分析・解析機器の製造会社と共同で太陽光パネル検品器機を開発。買い取り先の現場で簡単にリユースの可否を判断できるようになった。

写真「リユースチェッカーRUC-100」【株式会社アイテス提供】

 従来の器機は大量のパネル検査が一度にできる大型タイプで1000万円を超える価格だったが、新器機はハンディータイプで100万円程度。持ち運びができるためリユース事業の一段の拡大に力を発揮すると期待している。

新たな市場の構築

 一方、海外と異なり日本では、中古品でも使用期間など製品保証を求める顧客が多いが、保証をつけて販売すると新品との価格差が小さくなる。このため、リユース品が敬遠されて販売が伸びない面は否めない。こうした中、同社はあえて保証をつけずに低価格で販売している。これは新たなビジネスモデルの創出を期待しての判断だ。

 現在は約20年間の発電を前提にして購入した太陽光パネルの費用を回収するのが普通。これに対して中古パネルを活用した場合、短期間での回収が可能になり、新規参入のハードルが下がる。同社は中古パネルの活用を通じた太陽光発電の市場拡大を後押ししたい考えだ。

 また太陽光パネルのリユースをめぐる状況については「中古品があまり認知されていない。大量のパネルが寿命を迎える時、中古品すべてが適切にリユース、リサイクルされるかどうか...」(同)。こうした懸念もあって、低価格のリユース品を使った発電など将来を見据えた新たな市場の構築、リユースやリサイクルの義務化など抜本的な対策も求められていると言える。

写真太陽光パネル【2022年12月、青森県八戸市】

山本 晃嗣

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