2023年12月27日
地球環境
編集長
舟橋 良治
「化石燃料時代の終わりの始まり」―。アラブ首長国連邦(UAE)で開かれた第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)は、およそ10年で化石燃料からの脱却を加速するとともに再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍に拡大することなどで合意した。COP28の一環で現地開催されたセミナーに日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)共同代表の立場でパネリストとして参加したリコーの山下良則会長に脱炭素に向けた日本の役割や貢献のあり方、合意の成果などについて聞いた。
脱炭素は実行の段階だ。「1.5度上昇しないといいな...」などと言っている段階ではない。日本ではよく水素やアンモニアの技術に対する投資の話をしているが、結果が出るのは2040~45年。カーボンニュートラルが目標ではなく、気温上昇を1.5度以下に抑えるのが目標。50年にカーボンゼロで気温2度上昇は許されない。
米国が導入した「(気候変動対策に大規模投資する)インフレ抑制法」に関する話を聞いた。これをきっかけに経済成長しており、大統領選挙の結果がどうあれ米国の脱炭素の取り組みが後退することはないと考えているようだった。
欧州はCBAM(炭素国境調整メカニズム=製品を生産する際に排出された温室効果ガスの量に応じて輸入時に課税する気候変動対策)が進んでいる。WTO(世界貿易機関)からすると微妙なのかもしれないがCBAMは着実に前進している。
COPは政府間交渉だからコメントする立場にないが、脱炭素は後戻りしないということ。日本の立場で言うと、エネルギー自給率が低い中で化石燃料はコストが上がるし、リスクも高い。安全保障上も問題がある。再エネにどんどんシフトしなくてはいけない。
ドバイで開いたジャパン・パビリオンのセミナーで「1.5度ロードマップ」(日本の排出削減目標の野心度引き上げと豊かな社会を両立するためのアクションプラン)の公表に参加した。その際に参加者から「日本の技術に対する期待は大きい」という指摘があった。ある日本企業はイギリスで環境に関連したビジネスを行っているが、日本では行っていない。環境技術を事業化する土壌があるのに、日本ではそういうところに投資ビジネスがない。政府も脱炭素の目標も上げざるを得ない。今後の政策に期待したい。
民間は需要家として大胆なアクションを起こさなくてはいけない。気候変動に大きく貢献する自覚が企業トップに必要。経営者のコミットメントは特に投資となると大きい。ボトムアップに加えてトップのコミットメントも大切だ。
CO2排出量の実勢予測と必要な削減推移(出所)The Energy Institute を基に作成
脱石炭の時期を明確にするのは必要。石炭火力発電のCO2排出量を削減する技術開発は皆が行っている。世界から期待されていない雰囲気はあるが、一気に全部再エネにはならない。累積排出量は減らさなくてはいけないのだから、脱石炭と石炭火力のCO2排出量を減らす技術の開発が両輪になったほうがいいと思う。
2017年4月に日本で初のRE100(事業運営に必要な電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目指すイニシアティブ)を宣言し、再エネを導入したりエネルギー効率を上げたりしてきた。グループ全体の再エネ率が2.4%から30.2%にアップした。カーボンニュートラルに向けて必要技術のサーベイも行っている。
「見える化」が進み、今は日本の課題は沼津と福井(の工場)がメイン。欧州はほとんどの販売拠点が再エネ電力になった。国内外のすべてのA3複合機の組立工場は再エネ電力100%になっている。カーボンフットプリント(商品・サービスの温室効果ガス量の追跡・換算)の削減も進めており、今後も脱炭素化が進んでいくと思う。
およそ10年で化石燃料からの脱却を加速する
温室効果ガスを2019年比で30年までに43%、35年までに60%削減する
再生可能エネルギーの設備容量を2030年までに3倍に拡大する
排出対策を取っていない石炭火力を段階的に削減する
途上国の「被害と損失」を支援するため設立する基金への自発的な拠出を要請する
舟橋 良治