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全世帯にグリーン電力を供給

 災害時も停電しない街へ―三重県いなべ市

2024年06月28日

地球環境

編集長
舟橋 良治

 全ての世帯が再生可能エネルギーで作った電力を利用できるようにして、災害時にも停電しにくい街をつくる。三重県いなべ市は二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロを目指して「チャレンジ・カーボンニュートラルいなべ」を宣言し、再エネ導入を積極的に推進。地域経済の活性化や豊かな自然との調和も念頭に脱炭素、電力の「地産地消」に取り組んでおり、全国のモデルケースになると期待されている。

再エネを市内にとどめる

 電力の地産地消の実現に向けた事業は、いなべ市が2割出資して2023年に設立した地域電力会社「自然電力いなべ」(高橋雅樹代表取締役)が取り組んでいる。今後、市役所の屋根に設置した太陽光パネルから得た電力を公共施設での自家消費用として供給する。

 また市内には「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」(FIT)に基づいて設置された複数の太陽光発電施設があり、発電能力は計10万キロワットに上る。これらの施設の電力について高橋代表取締役は「今は市外に出ていっている。(将来使えるよう)買いに行く。今からでも特定卸供給を使って(市内に)供給できればと考えている」としている。

 太陽光発電事業者から自然電力いなべが電力を買い入れ、市内の公共施設や住民世帯に供給したい考えだ。

20240624_01.jpg屋根に太陽光パネルが設置されているいなべ市役所【5月13日】

小規模水力も有望

 10万キロワットを全て受け入れることができ、蓄電など安定供給に必要なシステムが整備されれば、市内1万6000世帯の電力を十分に賄える見通し。加えて学校など公共施設に設置予定の発電能力計1万キロワットの太陽光パネルの電力も利用する。

 公共施設のほか、住宅への太陽光パネル設置を同市が支援する。さらに、小川や水路に小型タービンなどを入れて電力を得る小規模水力発電の導入も検討されている。

 いなべ市内には水田用の水路が多数あり、同市都市整備課の片岡幸宣課長補佐は「水門の開け閉めは手作業で行われ、農家は高齢者が多い」という。そこで、小規模水力発電や太陽光パネル、蓄電池を活用して水門の開閉を電動化し、普段は電力を市内に自然電力いなべを通じて供給する仕組み作りが検討されている。片岡課長補佐は「今は検討段階」というが、高橋代表取締役は「小規模水力は有望」と期待している。

全国のモデル事業

 自然電力いなべは脱炭素社会の実現に向けた政府補助などを受けていない。高橋代表取締役は「民間企業と市が出資して再エネを作り、市内で使う。(どこの地域でも)脱炭素はここ(この仕組み)からスタートできる」と語る。地域が自立して脱炭素社会の実現に取り組む全国的なモデル事業になると強調する。

 市内には自動車・部品関連企業などが多数立地している。自然電力いなべは、企業の脱炭素化が不可欠になると見ており、将来的には工場・事業所が再エネ電力の利用を選択肢の一つとすることも視野に入れている。

20240624_02.jpg高橋雅樹代表取締役【5月13日、いなべ市】

大規模蓄電池で需給調整

 電力は需要と供給を同じレベルに調整しないと停電が起きてしまう。これを避けるためには、①発電量を調整するか電力消費量を加減する②蓄電池に余った電力をため、足りない時には放電して供給する―といった仕組みが不可欠だ。

 こうした課題を解決するため、いなべ市は出力200キロ~300キロワットの大型蓄電池2~3基を導入するほか、公共施設や協力を得られた住宅などの太陽光発電施設に小型蓄電池を併設していく。また実際の需給調整には、電力需給をリアルタイムで把握し、大型蓄電池に充放電の指令を出すなどするエネルギー・マネジメント・システム(EMS)が不可欠になる。

VPP実証実験も

 今回のEMSは、日本ガイシとリコーの共同出資会社「NR-Power Lab」(名古屋市)が支援して導入する。同社は複数の発電施設を統合・制御するバーチャル・パワー・プラント(VPP)システムの構築に取り組み、再エネの有効活用を目指している。電力デジタルサービスの研究開発なども進め、自然電力いなべを含む各地の地域電力会社とVPPの実証実験に乗り出している。

 太陽光や風力といった再エネは、発電量が自然条件や天候に左右される。太陽光発電の場合、晴天時に発電量が需要を上回り、送配電を担う企業から電力の受け入れを拒否される事態が各地で起きている。

 電気が無駄に捨てられている現状を改めるために期待されているのがVPP。いなべ市では、今後設置する蓄電池を介して電力を有効活用する体制を整える。

 VPPは大量の電気をためることで、地域内で電力需給を管理するだけでなく地域間で電力を柔軟に融通しあい、再エネ電力を無駄なく使えるメリットがある。うまく使えば、大規模な発電施設の新設に匹敵する電力供給力を生むことも可能だ。欧州などで大きな成果を上げており、カーボンニュートラル実現に向けて実用化が期待されている。

 いなべ市の事業は、こうした社会の実現に向けた備えとも位置付けられている。

グリーン水素ステーション

 いなべ市は自動車産業に関連した企業・工場が多いという地域特性も踏まえて、グリーン水素ステーションの建設にも取り組んできた。このほど、市役所の近接地に太陽光パネルで発電した電力を使って水素を製造し、燃料電池車2~3台分に水素を充填(じゅうてん)できる施設が完成した。

20240624_03.jpgグリーン水素ステーション【5月13日、いなべ市】

 「水素車(燃料電池車)に乗りたくても、ステーションがない」―。こうした理由で、燃料電池車の普及が広まらない現状を踏まえた施策だ。完成した水素ステーションが呼び水となって水素エネルギーの活用とモビリティ分野の脱炭素化が加速すると期待している。

地球環境保護に貢献

 いなべ市が目指す電力の地産地消は、脱炭素に加え、災害時の電力確保も狙いとしている。避難所となる公共施設に太陽光パネルと蓄電池があれば、大規模災害時に外部からの電力供給が絶たれても、停電にはならない。これを市内各地に広げ、災害に強い地域造りを目指している。

 また、太陽光パネルを持っていない市民でも、再エネの電力を使うことで地球環境保護に貢献できる意味は小さくない。さらに、発電と電力消費という経済活動を市内で完結させることで街の活性化にもつながるという。

 いなべ市都市整備課の片岡課長補佐は「環境問題に市民が携わり、環境に配慮した街を住みやすく感じてもらえる」ことを期待している。また、「自然電力を介して災害に強い街、持続可能なまちづくりを目指す上で、手助けの一つに地産地消がある」と、取り組みの意義を強調した。

20240624_04.jpg片岡幸宣課長補佐【5月13日、いなべ市】

【編集部から】リコーグループは2024年6月を「リコーグローバルSDGsアクション月間」と定めました。
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舟橋 良治

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※この記事は、2024年6⽉25⽇発⾏のHeadLineに掲載されました。

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