あの島は今も残っているか ~温暖化で国土の95%が水没も~<コラム>

 太平洋に浮かぶミクロネシア連邦ポンペイ島の沖に浮かぶ小さな無人島で30年ほど前に1泊したことがある。高さ1メートルほどの小屋で寝たのだが、星空や波の音は今も記憶に鮮明に残っている。波打ち際から""を眺めると、ヤシの木の間からエメラルド色の海が見えたから、海抜は50 センチほどだっただろう。

フランス領ポリネシア・ボラボラ島の環礁にある無人島(本文とは関係ありません)

国家消滅の危機

 あの無人島は今も残っているのだろうか。日本でも気温40度が当たり前になるほどの地球温暖化により海面も上昇している。無人島ならば、観光資源の一つが消える程度だが、島しょ国の中には国家自体が消滅する事態が現実味を帯びている。

 太平洋に浮かぶ島国ツバル(人口1万1000人、26平方キロメートル)は2100年までに国土の95%が満潮時に水没するとの予測がある。これを踏まえて2023年、オーストラリアが毎年280人の移住を受け入れるファレピリ連合条約をツバルと締結。今年の移住枠には国民の8割超の8750人が応募した。倍率は31倍に上り、危機感はほとんどの国民に浸透している。

 キリバス共和国(人口131000人、730平方キロメートル)など平均海抜が2メートル程度で水没の懸念を帯びる国は他にもある。しかし、移住受け入れに積極的な国が多いとは言えない。

国際司法裁が勧告、賠償責任に言及

 危機感を共有する太平洋の島しょ国バヌアツ共和国(32万人、1万2000平方キロメートル)の主導で国連総会は2023年、気候変動に関して国際司法裁判所(ICJ)に見解を求める決議を採択した。決議を受けてICJは今年7月、人為的な温室効果ガス排出による環境への影響について「緊急かつ存亡に関わる脅威」だとして、すべての国に対策を講じる法的義務があるとの勧告的意見を出した。

 意見に法的拘束力はないが、この義務に違反した場合は法的責任を負い、不法行為の中止や再発防止の保証、状況によっては全面的な補償を求められる可能性があると判断した。経済発展や便利さの追求が見知らぬ人々に犠牲を強いることへの責任に踏み込んだと言える。

2億人に国内移住の恐れ

 地球温暖化は島しょ国に影響を与えるだけではない。世界銀行は2021年、世界6地域で50年までに21600万人が国内移住を余儀なくされる恐れがあるとの報告書を出している。

 内訳はサブサハラ・アフリカ8600万人、東アジア・太平洋4900万人、南アジア4000万人など。移住の要因として水不足の深刻化、農作物の生産性低下、海面上昇による国土の水没などを挙げている。その上で、温室効果ガス排出量の削減に加え、気候変動による国内移住を「適応戦略」として位置付けることも提言した。バングラデシュでは2050年までに国土の17%が水没し、2000万人が住居を失う懸念があるとされている。

人ごとではない海面上昇

 国内移住は、日本にとっても人ごとでないかもしれない。東京・江東区や墨田区などには海抜ゼロメートル、中にはマイナス4メートル地帯に商業地や住宅地が密集している。東京スカイツリーも低地帯にあり、東京銀座の海抜は4メートル程度しかない。

 日本の低地やゼロメートル地帯の多くは強固な堤防で守られており、海面上昇に伴う移住が直ちに必要になる可能性は低いものの、豪雨や巨大台風などによる災害の頻発・大規模化が指摘されて久しい。温暖化の影響は、日本各地で気温40度超えが「ニューノーマル」になっただけではない。災害の頻発・大規模化や農業への悪影響、さらには海面上昇に関して、ツバルなど島しょ国に住む人々と同じ高さの目線で「自分事」と考える時期に来ているのではと思う。

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舟橋 良治