2021年09月30日
前照灯
所長
早﨑 保浩
日本人選手が大活躍した東京五輪・パラリンピック。正式種目に採用されたスケートボードでは、10代メダリスト誕生が話題を呼んだ。ボードに乗ることもかなわぬ筆者には縁遠い競技だが、その採点方法に興味を持った(参考=読売新聞オンライン)。
この種目は、街の中を滑るようなコースで技を競う「ストリート」と、複雑な形のコースで技を競う「パーク」に分かれる。前者では、45秒の持ち時間をフルに使って自由演技を行う「ラン」を2回、一発の大技の完成度を競う「ベストトリック」を5回、合わせて7回滑る。このうち高得点だった4回の合計で順位が決まる。もしランを2回とも失敗しても、ベストトリックで挽回できる仕組みだ。減点主義と対極のポジティブさが、この競技が若者を惹きつける1つの理由かもしれないと感じた。
オリンピックと言えば、7月19日や8月11日が祝日と表示されたままのカレンダーをお持ちの方も多いと思う。五輪開催に伴い祝日が変更され、結果的に不正確な表記となった。これまでは国民の祝日に関する法律が改正される都度、「印刷が間に合わない」という悲鳴が業者から上がっていた。しかし、業者の方には申し訳ないが、不正確なカレンダーでも何とかしのげたことも事実だ。
減点主義や無謬性が日本社会の特性と言われる。誤り無きを目指すことが日本人の特徴の1つであり、そのおかげで「メイド・イン・ジャパン」が国際的な信頼を勝ち得たのは確かだと思う。だが最近、この特徴が創造性やスピードを求める時代に合わなくなったとの声も聞かれる。多少の誤りには目をつぶり、スピード感を持って物事を進めることが重要だとの指摘である。こうした仕事の進め方を指す「アジャイル」という言葉もビジネス界で定着した。
その一方で、「間違いは無くすべき」との意見も根強い。新型コロナウイルス感染症対策の給付金・支援金の不正受給が後を絶たない。ケアレスミスは未だしも、「不正は許さない」というのが素直な国民感情であろう。しかし、これを防ぐために厳しい事前チェックを行うと、支給までに時間がかかり、飲食店などが苦境に陥る。
こうした相反する要請に応えることは難しいが、2つの方向性を思いつく。1つは、間違い探しの時間短縮。例えば金融界では、マネーロンダリング(資金洗浄)の疑いがある取引を、人工知能(AI)を用いて探り出す仕組みが実用化されつつある。
もう1つは、間違いや不正を起こさせない誘因付け。提唱者のノーベル賞受賞で数年前に話題になったナッジ理論では、強制ではなく人々に小さなきっかけを与えて行動を変えることを考える。例えば、「わたしは不正をしていない」と誓約・署名する欄を申告書の末尾でなく冒頭に置くと、不正防止効果が高いと言われる。
10代メダリストのポジティブさに倣い、発想を拡げていければと思う。
早﨑 保浩