2024年06月26日
前照灯
所長
早﨑 保浩
リコーグローバルSDGsアクション月間の6月。今回のテーマであるDEI(多様・公正・包摂)を念頭に、当研究所のコラムをさかのぼってみた。
小川裕幾研究員は多様な人の包摂をテーマに、2本のインタビュー記事を執筆している。「日本企業の働き方をベトナムに広めたい」では、留学経験もなく来日し、親孝行を夢にリコージャパンで働くベトナム出身者を紹介した。「働く人の未来を照らす『介助犬』」では、介助犬ユーザーから、「補助犬の理解が増えれば、もっと多くの人が自分らしく、いきいきと働けるようになる」との思いを引き出した。
多様な人の包摂には、技術が果たす役割も大切だ。帯川崇研究員は、「現場で働く人の『腰』を守りたい」の中で、身に着けることで筋力を補うパワーアシストスーツを取り上げ、高齢化が進む中で人々が活躍を続ける支えとなる可能性を指摘した。岩下祐子研究所員は、「思いを正しく伝えるには」の中で、誰もが働きやすい職場づくりを目指してリコーが開発した、聴覚障がい者を支援するアプリケーションソフト「Pekoe(ペコ)」を紹介した。
一昨年に他界した故中野哲也研究主幹の書評「人間がメタバースで死ぬ日」。この書評公表後2週間で亡くなった彼は、病床の中でも働き続けた。そして、メタバースが発展し、病床でも現実社会と変わらぬ体験をできる日が来ることを夢見ていた。
このように、技術が多様な人に公正に機会を与え、人々を包摂していくことが期待される。その一方で、技術に対する不安も尽きない。竹内淳主席研究員・木下紗江研究員共著の「生成AIなんか怖くない?!」は、生成AI(人工知能)により雇用が奪われることへの不安にも触れた。その上で、「最も重要なのは、われわれ人間が『AIを活用して何を成し遂げるか』ということではないか」「生成AIを怖がっている場合ではない」と結論付けた。
一歩進んで、人とテクノロジーの共存の重要性を指摘する考え方も出始めている。リコーを含む10社が参画する「はたらく人の創造性コンソーシアム」の中で、リクルートワークス研究所の村田弘美グローバルセンター長は、正社員、契約社員、派遣社員、他社の従業員の副業などさまざまな人的資本と並んで、ロボットやAIも仲間と位置付け、トータルにタレントを活用する考え方を示している。
筆者は手塚治虫の鉄腕アトム世代。原作をベースにした「PLUTO(浦沢直樹作)」にも感銘を受けた。高度に発達した人工知能を持つロボットが人間と共生し、人間との関わりに苦悩する姿が描かれている。DEIがテクノロジーをも包摂していく未来は遠くないかもしれない。
早﨑 保浩