2024年10月09日
前照灯
所長
早﨑 保浩
生成AI(人工知能)が経済や雇用に与える影響について、さまざまな研究が行われている。例えば、IMF(国際通貨基金)が昨年12月に公表した「AIのマクロ経済学」では、生産性の伸び、所得格差の拡大、最大手企業への産業集中度の三つの論点に即して、AIに関する楽観論・悲観論が整理されている。当研究所でも、竹内淳主席研究員・木下紗江研究員が同12月に「生成AIなんか怖くない?!」を執筆して以降、議論を続けている。
多くの研究では、職業を構成するタスク(作業)ごとにAIの影響を測ることが出発点となる。AIが大きな影響を与え自動化されるタスクの比率が高い職業ほど、将来的に無くなってしまう可能性が大きい。
こうした分析手法に基づき内閣府が7月に作成・公表した「世界経済の潮流2024年Ⅰ」は、AIにより自動化されたサービスに対する受け手の抵抗が小さい職業は、将来的に雇用が減少し(代替)、抵抗が大きい職業は、生産性と質が高まる(補完)可能性を指摘する。また、雇用への影響の点では、代替される職業の就業者が多いか少ないかもポイントだ。さらに、AIを活用した新たな職業が生み出されていくかどうかも興味深い。
一方、今年1月に公表された「THOUSANDS OF AI AUTHORS ON THE FUTURE OF AI」は、AIの将来に関しAI研究者を対象にアンケート調査したユニークな内容だ。その中で、AIにより完全に自動化される職業の割合が、2037年までに10%に、遅くとも2116年までに50%に達するとの見方が示されている。
AIに仕事を奪われると何が起きるのだろうか? いくつかの見方があると思う。まず、「AIに仕事を奪われないよう、AIにない創造性を発揮すべき」「AIを活用した新たな仕事を生み出すべき」といった人間の力を信じる思考だ。要は、AIは少なくともマクロ的に雇用を奪わない。そうでありたいと思う一方、63歳の自分なら逃げ切れるかもしれないと考えたりもする。
次に、少なくなった仕事を皆で分け合う考え方。今のように1日8時間、同じ仕事を行うのではなく、1時間ごとに仕事の内容を変えつつ、例えば1日6時間働く。リモートワークや副業の拡張版と考えれば、想像できないでもない。
最後に、「少ない働き手でGDP(国内総生産)が維持できるなら幸せ」との超ポジティブ思考。所得再分配メカニズムが教科書通りに機能すれば、働かない人も生活できる。人々は時間を好きなことにつぎ込み、結果的にエンターテインメント産業が発達していく可能性もある。
実際に起きるのは、上記が並行的に進む状況や、上記をはるかに超える未知なる状況だろう。ただ、AIの急速な進展をみるにつけ、10年後、20年後の生き方を今から考えておく必要性を感じずにいられない。
早﨑 保浩