2023年09月27日
前照灯
所長
早﨑 保浩
秋分の日を過ぎ、さすがに朝晩の暑さは和らいできた。夏休みも遠い過去のように感じる。この夏を楽しめた人は、去年よりも格段に増えたと思う。昨夏、誰もが新型コロナウイルス感染症を気にしていた。熱中症リスクにもかかわらず、マスクを常時着用する人も多かった。お祭り、花火大会、コンサート、スポーツなどのイベントも中止を余儀なくされ、開催されたにしても、人数や行動制限を伴った。
今年は違った。報道では「4年ぶりの開催」の言葉が幾度となく使われた。街や観光地はにぎわい、気兼ねなく移動し飲食やイベントを楽しむことが日常となった。「マスクを外せない」と言われていた日本人も、マスク無しが普通となり、誰もそれをとがめなくなった。
では、コロナ禍は収束したのか?筆者の周りでは最近罹患(りかん)した人も少なくない。もはや正確な統計はないが、感染者数増加も耳にする。以前のスタンダードを当てはめていたら、この夏も行動制限が課されていたかもしれない。しかし、行動制限は行われず、それに対する反発もあまり聞かない。季節性インフルエンザなどと同じ5類感染症への移行を機に国民のノルム(社会通念)が変わり、厳密な科学的根拠に拘泥することなく、自由に行動するようになったということだろうか。
他方で、この夏もさまざまな災害が日本や世界を襲った。豪雨で命を奪われた方、被害にあわれた方、そして、せっかくの4年ぶりの旅行日程が狂ってしまった方も多い。ハワイなどから悲惨な山火事のニュースも届いた。6~8月の世界の平均気温は観測史上最高と言われ、今夏の異常気象と地球温暖化の流れを結び付ける論調も聞かれる。
気象専門家の話を聞くと、今夏の高温と台風の振る舞いの間には、因果関係があるように思える。では、今夏の高温と地球温暖化の流れの間の因果関係はどうか。気候変動に関する政府間パネル(ICPP)の報告書を読むと、地球温暖化が極端な気象・気候が生じる確率やその規模に影響を与えていることは間違いなさそうだ。しかし、報告書が「特定の極端現象の正確な原因を特定することは困難」とするように、「この夏」の暑さの原因を地球温暖化に求めることは、科学的根拠を欠くと言わざるを得ない。
それでは、どこまで厳密に科学的根拠を求めるべきなのだろうか。温室効果ガス排出量と地球温暖化の関係、地球温暖化と極端な気象・気候の関係について科学的な検証を行い、その結果に基づいて行動するのが正統派の立場だろう。
しかし、人々がそのノルムを変えるには、科学的な説明よりも身近で実感に合う説明の方が、納得感が高いようにも思える。「地球温暖化が今夏の異常気象を生んだ」という議論は誤りだろう。しかし、地球温暖化問題の深刻さを考えた時、今夏の異常気象を思い出し、一人一人が小さなところからでも行動を起こすことも、悪くないように思う。多くの人が4年ぶりに夏を楽しんだように。
早﨑 保浩