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座標軸を動かさないために

第5回 前照灯

2022年06月24日

前照灯

所長
早﨑 保浩

【編集部から】リコーグループは2022年6月を「リコーグローバルSDGsアクション月間」と定めました。
当研究所もSDGs関連のコラムを公開致しますので、御愛読のほどお願い申し上げます。

 この3年間、世界は2度の大きな悲劇に見舞われた。新型コロナウイルス感染症とロシアによるウクライナ侵攻である。コロナ禍により世界で600万人超が亡くなり、後遺症に苦しむ人も少なくない。経済面でも世界の実質経済成長率は一昨年にマイナス3.1%の落ち込みを記録した。ウクライナでは今も尊い命が失われ続けている。戦闘収束の見通しは立たず、西側諸国の制裁は続く。何より国際法が踏みにじられた影響は計り知れない。

 コロナ禍の最初の波が襲った2020年春頃、気候変動対応は遅延せざるを得ないとの見方が広がった。人々の関心は直面する病気との戦いにシフトし、各国の財政出動もコロナ対応に向かう。気候変動のような長期的課題に取り組む余裕はないというわけだ。しかし、気候変動対応はむしろ進んだ。感染症と地球環境破壊の関係が意識され始めたことに加え、景気回復を目的にグリーン投資を加速する政策が取られたためだ。第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が1年延期されたことも、各国の合意形成を進める上で不幸中の幸いだったかもしれない。

 ウクライナ侵攻により、ロシア産エネルギーへの依存の高さが、経済安全保障面のリスクとして顕在化した。西側諸国は、現実的な対応として石炭火力の部分的復活を余儀なくされた。また、燃料価格高騰で苦しむ層への補助も実施されているが、それがエネルギー節約の妨げになる面も否めない。しかし欧州各国は、脱炭素化を今まで以上に加速する動きで一致する。動きの中に原子力も含まれる点に異論は残るが、中長期的に脱炭素化と脱ロシア化が進むことは間違いない。

 こうして、気候変動対応のモメンタムは2度の危機を乗り越えつつある。脱炭素化に逆行する政策や行動が短期的には正しく見えても、中長期的な目標である「産業革命前からの気温上昇を2度以下(できれば1.5度以下)に抑える」との座標軸が揺るがない点が、この背景にあると思う。

 しかし、目標や座標軸の維持は容易ではない。そのためにはコストがかかり、技術革新や人々の行動様式の変化も必要になる。どうすればそうした揺らぎを乗り越えることができるか。

 筆者が金融界で働いていた頃、グリーン投資の妥当性が話題になった。気候変動に伴う物理リスクや移行リスクが高い企業・プロジェクトから資金を引き揚げる決断は比較的容易だ。しかし、グリーン投資がそうでない投資同様の収益性を確保できるか、悩みは尽きなかった。いかに正しく明確であったとしても、経済合理性が伴わない目標の維持は難しい。

 この点で、リコーグループは「社会課題解決による持続的な企業価値の向上」を掲げる。気候変動問題などの解決への貢献が企業価値向上にもつながるとすれば、地球環境にとっても企業にとってもウィンウィンの好循環となるはずだ。こうした好循環作りをどのように進めていけばよいか―。研究を進める重要性を感じている。

図表

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早﨑 保浩

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※この記事は、2022年6月23日発行のHeadLineに掲載されました。

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