2021年12月22日
健康・スポーツ
研究員
河内 康高
野球、サッカー、テニス...。筆者の趣味であるスポーツ観戦のリストに最近、新たな競技が加わった。それはラグビー。2019年秋のラグビーワールドカップ(W杯)日本大会での日本代表の快進撃にすっかり魅了されたからだ。
コロナ禍で試合数が制限され、ラグビー観戦の機会が大幅に減って残念に思っていたところ、明るいニュースが飛び込んできた。ラグビーの国内新リーグ「NTTジャパンラグビー・リーグワン」(以下リーグワン)が2022年1月7日、開幕するのだ。2003~20年まで18シーズン続いた国内ラグビーの最高峰「ジャパンラグビー・トップリーグ」(以下トップリーブ)が生まれ変わる。
リーグワンになって一体、何が変わるのだろうか。1つ目の変更点は、リーグ運営を統合し2部制から3部制にしたこと。昨シーズン(2021年2~5月)まではトップリーグと、2部リーグに相当する「トップチャレンジリーグ」が併存。前者は日本ラグビーフットボール協会が、後者は関東・関西・九州の各ラグビーフットボール協会が運営母体だった。
昨シーズンまではトップリーグが16チーム、トップチャレンジリーグは9チーム。今回、DIVISION(ディビジョン)1~3(以下D1~3)の3部制となり、運営も一本化された。最上位グループのD1が12チーム、D2とD3がそれぞれ6チームの計24チームが参加。ディビジョン内で実力が拮抗するから、大差の試合が減るとみられ、今まで以上にエキサイティングな戦いが期待できそうだ。
さらにD1では、12チームを6チームずつ2組に分ける「カンファレンス制」を採用。同じカンファレンス内で総当たり2回戦を実施する (1チーム当たり10試合)。また、別カンファレンスのチームとも交流戦が1試合ずつ行われる(1チーム当たり6試合)。
合計で1チーム当たり16試合行い、その勝ち点合計(勝ち=4点、引き分け=2点、負け=0点、3トライ差以上の勝ち=ボーナス1点、7点差以内の負け=ボーナス1点)でレギュラーシーズンの順位を決定。その後、上位4チームがトーナメント方式のプレーオフへ進出し、優勝から4位までが決まる。
また、入替戦も実施される。D1下位チーム(10~12位)はD2上位チーム(1~3位)と、D2下位チーム(4~6位)はD3上位チーム(1~3位)と、それぞれ残留・昇格を懸けて争う。
3部制で構成されるリーグワン
(出所)NTTジャパンラグビー・リーグワンを基に筆者
2つ目の変更点が「ホスト&ビジター制」の導入である。リーグワンでは、チームが参入する要件として①本拠地となるホストエリアの決定②ホストスタジアムの確保③チーム名に「地域」を付与―などが条件に盛り込まれた。ホストエリアは、練習場の所在地などを含めて複数指定することも認められる。
その狙いは、将来の「プロリーグ化」にある。チームの「地域密着」を通じてラグビーの普及を促すことに加え、従来「企業スポーツ」の側面が強かったラグビーを独立事業として収益が上がる体質を目指す。
これまでトップリーグの試合興行権は、運営母体の日本ラグビーフットボール協会が持ち、試合から上がる収益は協会に集められていた。このため、各チームはチケット販売などで収益化を図るという意識が希薄になりがちだった。
リーグワンでは、レギュラーシーズン16試合の興行権がホストチームに与えられる。このため、チケットや広告の収入を得られるようになる。半面、チケット販売やスポンサー集めをチーム自ら行う必要があり、会場警備や感染対策などの運営経費も発生する。このため、収益を意識したチーム運営を求められる。
ラグビーチームの運営費用は、年間10億円以上ともいわれ、その大半を各チームの親会社が負担してきた。リーグワン発足後も、当面は金銭面でのサポートは続くとみられる。だが、もし親会社が業績不振に陥ったら運営予算の縮小はおろか、最悪の場合には存続すら危うくなるかもしれない。それを避けるためには、「自ら稼げるチーム」に変貌を遂げる必要がある。
それを実現するためのキーワードが「地域密着」だ。どのプロスポーツでも、実際に試合に足を運んでくれたりグッズを買ってくれたりするのは「地元ファン」がほとんどだという。それによって確固たる収益基盤を築ければ、親会社の業績に左右されないチーム運営も可能になる。
リーグワンには、「リコーブラックラムズ」も「リコーブラックラムズ東京」に名称を変更し、日々の練習を行うグラウンドがある東京都世田谷区をホストエリアとして参入する。
それに合わせ、チームロゴとエンブレムも一新。人々を巻き込んでいく「渦」の模様と、常に相手に立ち向かっていく姿勢を表す「雄羊(ラム)の角」をイメージしデザインした。
新チームロゴ(左)と新エンブレム(右)
(提供)リコーブラックラムズ東京
リコーブラックラムズ東京は強豪が集うD1に所属、2021年7月にオーストラリア出身のピーター・ヒューワット氏を新ヘッドコーチ(HC)に迎えた。
ピーター・ヒューワットHC
(提供)リコーブラックラムズ東京
ヒューワットHCにリーグワンへの抱負を尋ねたところ、「『優勝』という目標はかなり未来にあります」という意外な答えが返ってきた。実はこの言葉には、高い目標も地道に一歩一歩進めていけば必ず達成できるという信念が込められている。日々の練習で課題を改善しながら、リーグワン初戦を制し、プレーオフに進出...。これらすべての段階が「目標」であり、一つひとつの着実な達成こそが最終的に「優勝」をもたらすというのだ。
また、キープレーヤーを尋ねると、同HCは「すべての選手がそうなり得ます。選手全員が互いに互いを『Drive(ドライブ=動かす)』する必要があります」と言い切った。「総力戦」で立ち向かうというわけだ。
選手が互いに「Drive」しながら高め合うことで、好循環が生み出される。そこで重要となるのは、新キャプテンに指名されたHO(フッカー)武井日向選手の役割だ。明治大学卒2年目の若手ながら、チームを率いる大役を任された。
昨シーズンは新人ながら全8試合に出場。パワーと走力を兼ね備えたフィールドプレーで相手チームを翻弄、シーズン合計で6トライを決める大活躍を見せた。武井キャプテンは「自分が一貫性のある行動をとり、常に全員がチームファーストの姿勢で取り組むようにしていきます」と意気込む。狙うのはもちろんリーグワン初代王者だ。
新キャプテンの武井日向選手
(提供)リコーブラックラムズ東京
リコーブラックラムズ東京の躍進のカギを握るのは、HCや選手だけではない。先述の「ホスト&ビジター制」導入に伴い、ホストエリアとなった世田谷区の応援・支援にも期待が高まる。武井キャプテンも「ブラックラムズファミリー(である世田谷区)の皆さまの声援が僕たちの力になるのです」と訴える。
地域密着は決してスローガンにとどまらない。リコーは2020年6月、世田谷区と地域連携協定を締結。①ラグビーを通じた地域でのスポーツ活動②ラグビーを通じた青少年健全育成の取り組み③ラグビーの普及―に関して支援・協力を打ち出しているのだ。
既に、選手が区内の小中学校を訪問し、ラグビーを直接指導する「ゲストティーチャー活動」を展開。パス体験ができるイベントを実施している。一方、世田谷区はふるさと納税返礼品にブラックラムズのグッズを提供するなど、両者は絆(きずな)を深め始めた。
世田谷区スポーツ推進部スポーツ推進課の石橋耕輔氏に取材すると、リコーブラックラムズ東京の地域貢献活動について「(区民の間で)ラグビーの認知度・人気が高まっていることを実感しています」と手応えを語ってくれた。
例えば、2021年度のゲストティーチャー活動では、世田谷区内にある小中学校90校のうち約半数の46校が訪問を希望(2021年11月4日時点)。ある学校の校長先生からは「実際にラグビー選手を見た子どもたちの目が輝いていた」と好評だったという。
世田谷区スポーツ推進部スポーツ推進課 石橋耕輔氏
(提供)石橋耕輔氏
また、2020年11月に行われたラグビー体験会では、100人の募集に対して500人を超える応募があった。さらには、ふるさと納税の返礼品であるブラックラムズグッズに関し、「区民はもらえないのか」という問い合わせが数多く寄せられ、関心の高さがうかがえたという(注=ふるさと納税では居住している自治体から返礼品をもらえない)。
石橋氏は今後の連携の展開について、「プロレベルのスポーツを間近で見る機会を多く創りたいです」と意欲を燃やす。例えば、普段見ることができない練習風景や練習試合を見に行けるような企画ができないか検討中。「(実現すれば)絶対に人が集まりますよ」―。
実は、石橋氏自身が高校・大学のラグビー経験者。「都内で行われるリコーブラックラムズ東京の試合は全部見に行きたいです」と言うほど力が入る。「ラグビーのトップチームがある自治体は限られるので、世田谷区は幸運です。これからもリコーブラックラムズ東京と連携して、区を盛り上げていきたいです」と満面の笑みで語ってくれた。
こうした区民の熱い期待も背負いながら、リーグワンに臨むリコーブラックラムズ東京。初戦は2022年1月9日、ヨドコウ桜スタジアム(大阪市)で行われる。対戦相手は昨シーズン苦杯をなめたNTTドコモレッドハリケーンズ大阪(昨季最終成績はリコーブラックラムズ東京と同じ5位タイ)。雪辱を果たし、スタートダッシュを切れれば...。関係者の熱い期待は高まる一方だ。
チームマスコットキャラクター「ラムまる」
(提供)リコーブラックラムズ東京
今シーズン、リコーブラックラムズ東京のヘッドコーチ(HC)に就任したピーター・ヒューワット氏にインタビューを行った(2021年10月13日)。
(写真)筆者
ピーター・ヒューワット氏 リコーブラックラムズ東京ヘッドコーチ。 豪ナッジー大卒。豪ニューサウスウェールズ・ワラターズ、英ロンドンアイリッシュRFCを経て、2010年にサントリーサンゴリアスに加入。2013年、同チームのコーチ。2017年、豪ブランビーズのコーチ。2019年、豪学生代表とU18代表チームのヘッドコーチを兼任。2020年、リコーブラックラムズのコーチ。2021年7月から現職。 |
―ラグビーを始めたきっかけは何ですか。
ラグビーを始めたのは遅く、15歳からです。ある全寮制の学校に進学したところ、ラグビーに熱狂的な人が多かった。そこでわたしもラグビーに「恋」をしたのです。当時、オーストラリア代表だったデイヴィッド・イアン・キャンピージ選手に憧れ、彼のプレーを見ながら育ちました。
―スポーツが得意な子どもだったのですか。
15歳までは主にクリケットをやっていました。実は両親はクリケットをさせるため全寮制の学校に入れたつもりでした。高校卒業までクリケットとラグビーの二刀流でしたが、21歳以下オーストラリア代表に選ばれてからはラグビー一筋です。
―現役時代に心がけていたことは。
憧れのキャンピージ選手は「自分を信じる」ことができる選手でした。自分もそうなりたいと思い、プレーを続けました。どんなこともポジティブに捉え、自分自身をフィールド上で表現することを楽しむようにしていたのです。
20代前半にセブンズ(=7人制ラグビー)のオーストラリア代表でプレーしました。スーパー12(現スーパーラグビー)にデビューしたのは26歳ですが、「26歳では遅い」と言われることもありました。確かにデビューまで時間がかかりましたが、一方で「ネバーギブアップ(=絶対にあきらめない)」という精神が芽生えました。
―日本に来たきっかけは。
初来日は2006年。プライムミニスターズ15というオーストラリア代表に選ばれ、日本代表と試合をしました。本当に楽しい経験でした。その後、英国で3年プレーした後、当時のサントリーサンゴリアスのゼネラルマネージャーから誘われ、日本でプレーすることになりました。2006年の経験を思い出して「日本に行きたい」と思ったのです。
―チームを率いる上で心がけていることは。
選手同士が競争することを大事にしています。チームメイトや相手チーム選手とすべてにおいて競争していくことが大切です。
それを毎日の練習で行っていけば、試合でも結果が出ると思います。そして、先ほども言った「ネバーギブアップ」という精神も重要です。選手たちには「努力をし続けること」「厳しい時が来ても絶対にあきらめないこと」を指導しています。
―応援してくれるファンに向けて一言。
「ブラックラムズファミリー」という表現をわたしたちはよく使います。ファンの皆さまもファミリーの一員です。ファンの方々がわれわれのプレーの支えになります。試合会場でお会いできることを楽しみにしています。
練習試合(VS東芝ブレイブルーパス東京、2021年10月30日)
(提供)リコーブラックラムズ東京
河内 康高