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ジャストフィットなシューズで走る

=ランニングの楽しさを体験=

2022年06月29日

健康・スポーツ

研究員
竹内 典子

 長引くコロナ禍で外出を控えたり、在宅勤務で通勤が減ったりしたことで、運動不足を実感している方も多いだろう。筆者もその1人である。

 そんな折、知人がジョギングを始めたと聞いた。ランニングイベントに参加し「風を感じて走るのは気持ちが良い」とうれしそうに話している。子どもの頃から長距離走は大の苦手だけど、走ってみようかな...と心が動いた。

 何か運動習慣を身につけたいと考えたときに、ジョギングやランニングは手軽に始められるスポーツではないだろうか。実際、コロナ禍で街を走る人を目にする機会が増えたように思う。

 笹川スポーツ財団が2020年に行った「スポーツライフに関する調査」によると、ジョギング・ランニングの推計実施人口(20歳以上で年1回以上実施)は1992年の調査開始以来、過去最多の1055万人(実施率10.2%)に上った。継続的に行っている人も多く、「週1回以上」が579万人(同5.6%)、「月2回以上」が724万人(同7.0%)といずれも過去最多を更新した。

ジョギング・ランニングの推計実施人口
図表(出所)笹川スポーツ財団「スポーツライフに関する調査報告書」を基に筆者

 走ると心に決めた以上、まずはインターネットでシューズ探しから始めることにした。そこで見つけたのがシューズの選び方や機能について熱く語る藤原岳久さんという方の動画サイトだった。

 藤原さんはランナーにシューズの履き方や選び方、使い方を伝授するシューズアドバイザーだ。ランニングシューズのメーカーで販売に20年以上携わった後、生まれ育った湘南で2014年に独立し、藤原商会(神奈川県平塚市)を設立。8年間で約3000人のランナーにシューズを選んできた。シューズ販売員向けの研修にも力を入れており、買う人と売る人の双方を支えている。

 藤原さんはフルマラソンで自己ベスト2時間34分28秒の記録を持ち、51歳の今も走り続けるランナーでもある。その経験と豊富な知識から「走れるシューズアドバイザー」の異名を取る。ランニング初心者の筆者もアドバイスを求めて、藤原商会を訪問した。

写真藤原商会の藤原さん
(写真)筆者

シューズ選びのポイントを知る

 お目当ては、藤原商会が定期的に開催している「お買物ツアー」。藤原さんが有料(1人8000円、2人1万2000円)でシューズ選びのコツを教えるイベントだ。藤原さんと一緒にショップへ買物に行くのではなく、1~2人を対象に1回3時間ほどかけて、足のサイズや走り方をチェック。その人のランニングの目的に合ったシューズを藤原さんが提案するもの。

 「シューズはランニングの道具です。道具をうまく使って、足を守り、けがをしないように走ってほしい。そのためにジャストフィットのシューズを提案したいのです」と口調に熱を帯びる藤原さん。以下、お買物ツアーの流れに沿って内容を紹介しよう。

1.自分の足や体の特徴を知る

 ジャストフィットのシューズを選ぶため、まずは素足になって、立った状態と座った状態の足の長さや幅、土踏まずの高さ、足の甲の周囲を測る。筆者は座ったときより立ったときの足の長さが6ミリ長かった。これは立ったときに自分の体を足裏全体が支え切れていないためだ。「運動不足で筋力が弱っていますね」と藤原さんから鋭い指摘が飛ぶ。

 続いて、片足立ちのまま膝を曲げたり、別の足を曲げて股関節をぐるぐる回したりと、指示されるがままに動く。体の固さや使い方が分かるそうだ。筆者は右側に体重が偏りがちで、左側の股関節がうまく使えていないことを知った。

2.目的に合ったシューズを検討する

 ランニング経験者でも、自分に合ったシューズを履いているとは限らない。藤原さんは、お客様のスポーツの経験やマラソン大会のタイム、ランニングの目標や日々の練習内容などを細かくヒアリングする。ランニングの目的によって選ぶシューズが変わるからだ。

 ランニングは常にジャンプを繰り返しているので、足にかかる負担は体重の約3倍になるそうだ。筆者のような初心者は、走る筋力が足りないことが多い。お勧めなのは、足への負担を軽減するため靴底が厚くクッション性の高いシューズだという。クッション性が高いと、着地したときの衝撃を和らげる効果が期待できるので、足への負担が減り、足の疲れやけがの予防につながる。

 一方で、靴底が柔らか過ぎると足首をひねりやすくなるため、シューズの安定性も重要になる。安定性が優れているものは、足首のひねりを防止して、着地で体がブレないようフォームを補助する性能を持つ。

3.シューズを履き比べて走ってみる

 藤原さんが選んだシューズを履いてトレッドミル(室内のランニング器具)で走ってみる。日々のジョギング用(デイリートレーナー)2足と、スピードを出すトレーニング用(テンポアップ)2足、裸足で走っているような靴底の薄いベアフットシューズ1足が用意された。

 シューズに足を入れたらトントンとかかとを靴に合わせる。そのまま足の甲がシューズと密着するようにひもを結び、靴ひもの穴が上から見て平行になるのが良いとのこと。その際、足の指は上下に動かせる余裕があると良い。

 また、シューズを脱ぐときは、面倒でも毎回ひもを緩めてから脱ぐこと、シューズのかかとは踏まないことなどを注意された。ひもを結んだ状態でシューズを脱ぐことができるのは、結び方が緩い証拠だそうだ。


写真靴ひもはしっかり結ぼう(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

 ランニングシューズを正しく履いて走ってみると、足が軽くどこまでも走れるような気持ちになった。デイリートレーナーの舟底タイプ(靴底がカーブを描きつま先が跳ね上がった)のシューズは、体を前に傾けると靴底のカーブによって重心移動が助けられて、楽に走れることに感動した。「フィットしたシューズは、何も履いていないかのように軽く走れますよ」―。藤原さんから笑みがこぼれた。

 普段履きのスニーカーで走ったときとの違いを動画で見せてもらうと、左足が着地するときの足首の角度が矯正されていることが分かる。角度が大きいと着地の衝撃が大きくなるので、足首の傾きは小さい方が良いそうだ。「シューズで走り方は変わります。正しく安全なフォームで走るための手助けをシューズにしてもらいましょう」と藤原さん。

写真普段履きのスニーカー(左)とお勧めされたシューズ
(提供)藤原商会

 藤原さんがお勧めしたシューズは、藤原商会で購入することができ、測った足のサイズ表や動画は後日メールで情報を提供してくれる。

 また、9999円を支払うと、藤原さんがその人にお勧めのシューズを探して送ってくれる「ミステリーゾーン9999」というサービスがある。利用者のほとんどが女性で、「どんなシューズが届くのか楽しみ!」と好評だという。興味を持った筆者も申し込んで帰路に就いた。

新しいランニングシューズで競技場デビュー

 後日、米国シェアナンバーワンのランニングシューズブランド「ブルックス」のロングセラーモデルのシューズが届いた。淡い水色で、柔らかく滑らかな走り心地とソフトな衝撃吸収性が特長だ。しかも、競技場で走るイベント「シューズを使いこなす講座」のお誘いをいただいたので、喜んで参加することにした。

 イベント当日、藤原商会に集合したのは筆者を含む男女9人。ただ、筆者以外はフルマラソン完走のベテランランナーばかり、中にはトライアスロン経験者も。

 そこから、ゆっくりしたペースで走りながら、約2キロ離れたレモンガススタジアム平塚(平塚競技場)まで向かう。横を並んで走っていた参加者に、ランニングを続ける理由を問うと「走ると気持ちがいいんです。練習すると、その分走るタイムが速くなるのもうれしいです」と笑顔で答えが返ってきた。

 息が上がりながらも、何とかみんなから遅れずに到着。競技場の外で輪になってストレッチを行った後、太ももを上げてリズムよくステップを踏む準備運動を何度か行う。その後、競技場内へ入るとサッカーフィールドの美しい芝生と、それをぐるりと取り巻く鮮やかな青の陸上トラックが目に飛び込んできた。1周400メートルのトラックは、全天候型ウレタン舗装で8レーンある。人生初の競技場にテンションが高まり、楽しく走れそうな予感がした。

 メニューは、タイムを計りながらトラック4周(=1600メートル)を2回。藤原さんが参加者の実力でチームを2つに分けて走るペースを指示。1周ごとにタイムが読み上げられる。気持ちよく走っているとタイムが速くなりがちなので、一定のペースで走る感覚をつかむ練習だという。最初の1600メートルは各自のシューズで、2回目は藤原さんが今回のトレーニングに適したお勧めシューズで走り、違いを実感する。

 筆者は400メートルを2周したところで、藤原さんから休憩するよう声がかかった。ホッとして見学していると、他の参加者は汗をかき苦しそうなのに、ゴールの瞬間柔らかな表情に変わるのが不思議だった。最後は、3チームに分かれて、400メートルリレーに挑戦した。中学生以来のリレーはとても楽しく全力疾走できた(もちろん、他の参加者に比べてとても遅かったが...)。競技場を抜ける風が汗をかいた頬に当たり、日ごろの憂さも吹き飛んでしまった―。

写真競技場を走り抜ける(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

写真トラック4周のタイムを計測
(写真)筆者

 参加者は、練習の合間に藤原さんにさまざまな質問を投げかける。練習方法のアドバイスや体のメンテナンス方法、フルマラソンの大会で使用する勝負シューズの相談...。一人ひとりに真摯に答える藤原さんの姿が印象的だった。

 聞けば藤原さんは、箱根駅伝出場を目指していた東海大学陸上部時代、けがに悩まされたという。卒業後に1年間滞在したニュージーランドで、シューズの履き分けなどのトレーニング方法に出会い、ランニングの意識が変わったそうだ。多くの人にけがをせずにランニングを続けてほしいと願っているからこそ、回答に熱が入るのだろう。

 筆者に対しても藤原さんからアドバイスがあった。「最初から無理をしない。がんばり過ぎず少しずつが大事です。筋肉を作るためにも、週2日は走ってみましょう」―。苦しくならない程度のスピードでも効果があるので、まずは2、3日おきに走ること。走る習慣が身につくと、体力や筋力がついて走る土台ができる。そこから先は、走る時間を長くしたり、スピードを上げたり、坂道を走ったりと個別にステップアップすると良いとのこと。

 「続けていれば、フルマラソンの参加も夢じゃないですよ」と励まされ、「千里の道も一歩から」という言葉が頭によぎった。そのためには、おしゃれなランニングウエアや格好いいサングラス、計測用の最先端ランニングウオッチも必要だ。モチベーションを保つためにも、装備は万全でなくてはならない。少し寄り道してからでもフルマラソン挑戦は遅くない...今は自分にそう言い聞かせている。

写真ランニングもデータを活用(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

竹内 典子

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※この記事は、2022年6月23日発行のHeadLineに掲載されました。

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