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Fin-TechならぬSports-Tech!?

=ITがスポーツ産業も変える=

2019年01月23日

最先端技術

研究員
西脇 祐介

 2018年のスポーツ界を振り返ると、サッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会の印象が強い。日本代表が勝ち進んでいったこともあり、国民の関心は一気に高まった。ベスト8をかけた試合は未明の時間帯にもかかわらず、ゴールシーンで家の外からものすごい歓声が聞こえ、盛り上がりを肌身で実感した。

 こうした関心の高まりには、テレビ画像のほか、データやその分析も一役買ったと思う。例えばNHKが提供したスマートフォン用アプリでは、複数の角度からの試合映像に加え、リアルタイムでシュート数や走行距離などの試合データが配信された。ツイッター上では、そのデータを駆使してまるで自分が監督になって編み出したような戦術が飛び交った。

 金融とITが融合したFin-Tech(フィンテック)に代表されるように、様々な分野でITを駆使した「○○テック」が流行語になっている。スポーツも例外ではなく、世界各国でSports-Techビジネスに熱い視線が注がれている。日本政府もSports-Techビジネスを「日本再興戦略2016」の柱の一つに位置付け、市場規模を2015年の5.5兆円から2025年には15兆円まで拡大すると意気込む。

 それでは、ITをどう活用するのか。NTTデータ経営研究所では「観る」「支える」「する」「創る」―といった4つの領域に分ける。例えば、W杯のデータ分析などの「観る」や、個人・チームのパフォーマンス向上などの「支える」といった領域では、プロスポーツへの応用が考えられる。一方で、一般の人がスポーツを楽しむための「する」や、インターネット上で競うeスポーツなど従来の定義を超えた「創る」という観点からも、ITのスポーツ産業への応用可能性は広がる。

 当然、産業界も市場参入の機会をうかがい、リコーも様々な試みを始めている。「観る」を例に挙げれば、試合会場の観客向けにスマホを活用。ゴールのタイミングで一斉にスマホの画面を光らせたり、色を変えたりして、観客席に一体感を創り出すといった技術を確立した。

 「支える」に関しては、リコー独自の屋内位置情報技術を応用。災害時に屋内スピーカーから警報を発信するほか、観客のスマホに最適な避難経路を案内できるようにした。この案内は複数の言語での表示が可能であり、国際大会での活用を視野に入れる。

 2018年11月6日に武蔵野の森総合スポーツプラザ(東京都調布市)で実施した実証実験では、障がいのある方を含めて約200人が参加。会場内の音楽やアナウンスに合わせてスマホが鮮やかに点滅を続ける中、盛り上がりは最高潮に達した。避難誘導についても、参加者からは「このような情報を提供してもらうと安心する」「絶対に必要だ」といった肯定的な感想が寄せられた。

20190124_01.jpg災害時、スマホに避難経路を案内(イメージ)
(写真)筆者 RICOH GRⅡ

 このほか、リコーはラグビートップリーグに所属するリコーブラックラムズを通じ、さらに踏み込んだ実践的な活用も始めている。独自の画像認識技術を活かした「RICOH Clickable Paper」をベースに、ブラックラムズ専用アプリを開発。このアプリをスマホにダウンロードすれば、観客は会場内でスタンプラリーやスロット抽選会に参加できる。規定数のスタンプを集めるか、あるいはスロットで当選すれば、レプリカTシャツやキャップといったブラックラムズのグッズがもらえる。

20190124_02.jpgブラックラムズ専用アプリ(イメージ)
(提供)リコー・デジタルビジネス事業本部

 チームや選手のパフォーマンス向上へのITの活用にも積極的だ。練習や試合での走行距離や経路、トップスピードなどの情報を、体に装着した特殊な機器からGPSを通じて入手。試合でのポジショニングや判断の修正に活かしている。

20190124_03.jpg選手の背中に付けられたGPS端末
(写真)筆者 PENTAX K-50

 練習中は上空から撮影したドローンの映像を逐一確認できるため、「選手間での意思統一が図れ、作戦への理解が深まった」 (コーチングスタッフ・アナリストの加藤修平氏)という。このほか、GPSのデータを基に日次や週次で一定の基準値を設け、選手がオーバーワークにならないよう努める。このラグビー版「働き方改革」が功を奏し、接触プレー以外でのケガの発生率が減少しているという。

20190124_04.jpg練習時のドローン撮影
(写真)筆者 PENTAX K-50

 チームが強くなればファンが増え、アプリ利用者の増加にもつながる。トップリーグ2017~2018シーズンは過去最高成績の6位、 2018~2019シーズンも決勝トーナメント進出と、2季連続で好成績を挙げた。

 また、ITを活用した取り組みを始めた2015年以降、後援会員は10%以上増加し、アプリの利用者も毎年1000人以上増えている。2016~2017シーズンにはリーグが設けたベストファンサービス賞も受賞するなど、Sports-Techの効果は着実に現れている。

 ブラックラムズ専用アプリを展開しているリコー・デジタルビジネス事業本部の浅川靖久氏は「スタンプラリーなどで得られたデータを基にサービスの向上を検討したい」として、Sports-Techがもたらす新たな価値を追求している。

 この先、Sports-Techはどのように進化していくのか。あくまで観戦者の立場からすると、フィールド内の選手の目線で映像が提供されればもっと楽しくなるだろう。まるで自分がプレーしているかのような臨場感を味わえるからだ。

 日本では2019年にラグビーW杯、2020年に東京五輪・パラリンピックとスポーツのビッグイベントが相次ぐ。その際には、Sports-Techによって新たなスポーツの魅力を発見し、世代を超えて感動を分かち合えるようにしたい。

西脇 祐介

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※この記事は、2019年1月1日発行のHeadLineに掲載されました。

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