Bye

 本日で当研究所所長を退任する。

 2021年6月の就任以降、さまざまな出来事があった。日本の総理大臣は、菅総理、岸田総理、石破総理、高市総理と交代し、米国大統領はバイデン大統領からトランプ大統領に代わった。就任当時、日本や世界を覆っていたコロナ禍の闇はいつの間にか消えた。他方で、ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナのイスラム組織ハマスのテロ行為に端を発したイスラエルのガザ攻撃、最近の米国によるイラン攻撃など、世界を揺るがす事態が続いた。当研究所では、22年5月に編集長だった中野哲也さん逝去という激震が走った。

 この間、4人のインタビュー記事や二つのレポートを間に挟みながら、定期的に原稿を執筆した。これといった一貫性のない、とりとめのない内容だが、振り返ると三つのテーマを取り上げる機会が多かったと思う。

 まずは、不確実性の高まり。一時もてはやされたVUCA(先行き不透明な状態)という言葉をほとんど聞かなくなるほど、不確実さが当たり前の時代となった。昨年4月1日に公開したコラム「不確実性にどう向き合うか」では、情報の非対称性の問題の難しさと大事さを指摘した。この中で、「月並みな言い方になるが、①インテリジェンスを駆使してさまざまな可能性を想定しておく②最悪のケースも含め対応策をあらかじめ用意しておく③いざという時に対応策実行の要否を即座に決定できる備えをしておく―くらいしか、不確実性への対応が思い浮かばない」と書いた。残念ながら、今も良い知恵は浮かばない。

 よく取り上げた二つめのテーマは、人工知能(AI)の進展。これに触れる機会は何度かあったが、例えば2024年10月に公開したコラム「AIは仕事を奪うか」では、「AIに仕事を奪われると何が起きるのだろうか」と問題提起した。そして、①「AIに仕事を奪われないよう、AIにない創造性を発揮すべき」「AIを活用した新たな仕事を生み出すべき」といった人間の力を信じる思考②「少なくなった仕事を皆で分け合う」考え方③「少ない働き手でGDP(国内総生産)が維持できるなら幸せ」との超ポジティブ思考-の三つの考え方を提示した。

 この原稿の執筆以降もAIは進化し続けている。AIと人との関係については、AIが人の知能を凌駕(りょうが)する考えと、AIにも限界があり人とAIは共生できるとの考えが、競い合う状況と思う。

 最後は、社会の分断。私自身、英国留学時代に「日本人は自分一人だけ」という経験をしたので、多様性の考えにひかれやすい。しかし、昨年9月のコラム「『右」か『左』か」で書いたように、世界では大衆の不満を受け止め、そのはけ口になる政治的な考え方の影響力が増している。その中で、右は「外」を攻撃し、左は「上」を攻撃する傾向があるのではないかと指摘した。また、先般の衆院選の結果を予期したかのように、「『中』にとって八方ふさがりの状況」とも記した。人が置かれた状況は一人ひとり異なる。さまざまな考え方が分かれていくこと自体は自然なことだ。ただ、そうした中でも人類に共通した価値観を持てないものかと思ったりもする。

 明日から、新所長の竹内淳君にバトンが引き継がれる。第4代リコー経済社会研究所所長として活躍を期待したい。

 そして、これまで拙稿をお読みいただいた皆さまに、深い感謝をお伝えしたい。

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早﨑 保浩