「右」か「左」か<コラム>

 大学生の時に受講した政治学の試験問題が今も記憶に残っている。「右と左の対立をキーワードに、二つの事例を用いて日本の政治の特徴を説明せよ」との内容だった。一つしか良い事例が思い浮かばず、合格点ギリギリの評価だった。

 今、世界的にポピュリズムの台頭が指摘されている。その一方で、今年6月のニューヨーク市長民主党予備選挙では、極左と言われる候補者の躍進が注目を集めた。昨年のフランス議会総選挙でも、最終的には左翼系の政党が最大勢力となった。右も左も伸びていると言えるかもしれない。

最大の共通点は

 右と左、どこが同じでどこが違うのか?最大の共通点は、大衆の不満を受け止め、そのはけ口になっていることだろう。米国では富裕層と中間以下の層の経済格差が拡大傾向にあるが、格差拡大に不満を持つ人々を引きつけているのは、トランプ大統領であり、左派の代表格とも言えるサンダース上院議員だ。

 また、政治の不安定化という点でも共通する面がある。統計学の正規分布では、中央に厚く裾に行くほど薄い分布となる。仮に政治の分野にもこの分布が当てはまるとすれば、厚い中道勢力が多数を占め、左右は小さな勢力となる。是非はさて置き政治は安定し、政策の先行きも読みやすい。左右の台頭は、こうしたバランスを崩す効果を持ち得る。

攻撃・敵視する相手

 左右の違いは何か?国によって状況が異なり一般論で語ることは難しいが、右は「外」を攻撃し、左は「上」を攻撃する傾向があると思う。右派は、輸入品や外国人を敵視し、左派は富裕層や大企業を敵視する。前者の考えに従えば、関税引き上げや移民制限が正しい政策となり、後者によれば大企業や富裕層への増税が正しい政策となる。

 左右でなく「中」は、格差拡大の問題にどう対応してきたのか?経済成長を通じたパイの拡大を目指してきたのだろう。パイが拡大し分配がうまくいけば、格差は縮小する―少なくとも格差拡大を防ぐことができる。しかし、例えば日本ではバブル経済崩壊後、長年にわたり低成長が続き、パイが拡大してきたとは言いがたい。また、先進国の中で最もパイの拡大に成功した米国でも、分断が深まっている。米国の成長率をもってしても、格差拡大を食い止めるだけのパイの拡大に届かなかったということだろうか。

AIがゲームチェンジャーになり得る

 こうした「中」にとって八方ふさがりの状況の中でゲームチェンジャーになり得るのが、人工知能(AI)だ。生成AIサービス「チャットGPT」が公開された2022年11月以降、生成AIの進展にまつわるニュースを見ない日はない。虚偽の情報を生むハルシネーションや電力不足などさまざまな問題も指摘されるし、生産性向上効果に対する見方にも識者により幅があるが、現に私たちの日々の仕事を変えつつある。

 また、ロボティクスとAIを組み合わせたフィジカルAIにも注目が集まっている。その効果の発現には生成AI以上に時間を要するかもしれない。しかし、特に日本においてニーズが強い介護や運輸などの産業を大きく変える可能性を秘めている。人口減少の加速が見込まれる中で、一段と期待が高まるところだ。

もろ刃の剣

 しかしながら、AIには、人の仕事を奪い格差を一段と広げてしまう可能性もつきまとう。もろ刃の剣と言えないでもない。AIを活用した成長戦略が功を奏し、正規分布に近い政治構造が維持されるか。経済成長の停滞が続く、あるいは人の仕事が奪われるなどから左右に裾野が広い政治構造が一段と強まっていくのか。まさに岐路に立たされているのかもしれない。

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早﨑 保浩