世界でし烈な争奪戦 レアアースとは?

 AI(人工知能)を支える半導体の製造過程や小型モーターの性能強化、脱炭素社会の実現などに向けた最先端技術に不可欠なレアアース。将来の経済覇権を左右する重要資源で、その争奪戦や供給ネットワークをめぐる確執が米中経済協議の焦点の一つになった事態は記憶に新しい。日本が太平洋上に保有する広大な排他的経済水域(EEZ)には有望な鉱床が眠っているとされ、本格採掘に向けた試掘が進められている。世界中で注目されている、この重要鉱物をめぐる最新の動向を検証し、今後の期待について整理する。 

「産業のビタミン」

 まずは、より広い概念であるレアメタルについて説明しよう。存在量が少ない上に採掘や精錬が難しい希少金属元素を指し、リチウム、コバルト、ニッケル、チタンなどが代表例(元素周期表参照=ピンクがレアメタル)だ。EV(電気自動車)やバッテリー、半導体、磁石など今やハイテク工業製品に欠かせない存在だ。

 レアアースはレアメタルに含まれ、特に強い磁力を生むなど特殊な高機能化をもたらす特定17元素の総称だ。粉の酸化物として発見され、希土類と呼ばれてきた金属元素の一種だ。具体的には、原子番号21のスカンジウム(Sc)と39のイットリウム(Y)、さらに同5771まで15種類のランタノイドを合わせた計17元素(元素周期表参照=黄色がレアアース)(注1)だ。

 これらの元素は、いずれもハイテク製品に欠かせない。ごく少量添加するだけで小型化や耐熱性の向上など機能を飛躍的に高めることができ、「産業のビタミン」とも呼ばれ、世界的に需要が高まっている。高性能なバッテリー用の素材として有名なリチウムはレアアースには含まれないことに注意しておきたい。

元素周期表(出所)各種文献を基に作成 

 レアメタルに対比される金属の分類にベースメタルもある。これらの元素は豊富に存在しており比較的安価。鉄や銅、アルミニウム、鉛、亜鉛、スズなどが代表例で、建築や自動車、インフラなどさまざまな工業製品に日常的に使用されている。

 最後に貴金属を紹介しておく。代表例は希少価値があって高価なため宝飾品としても利用される金や銀、プラチナなどだ。これらは化学的に安定しており、腐食や酸化などが起きにくい金属だ。これらの貴金属が、工業製品に利用される場合には、レアメタルとして分類されることもある。こうした金属の分類には使われ方によって微妙に定義が異なる場合などがあることにも注意してほしい。

 本稿では広く認識されている、経産省が定めるレアアースとレアメタルの分類を元素周期表として記載した。

軍事用にも重要な鉱物

 ハイテク製品の機能向上にレアアースがどのように役立っているのか具体的に見てみよう。

分野

代表的な元素

具体的な製品

特長

磁石

ネオジム

ジスプロシウム

プラセオジム

EV(電気自動車)・HV(ハイブリッド自動車)の駆動モーター、風力発電機、HDD(ハードディスクドライブ)、スマホのバイブレータやスピーカー

小型軽量で強力

蛍光体・発光材料

ユーロピウム

テルビウム

セリウム

LED(発光ダイオード)、液晶ディスプレイ

色純度、少量で鮮明な発光可能

触媒

セリウム

ランタン

自動車排ガス浄化装置、石油精製触媒

酸化還元反応に優れ、環境対策に不可欠

二次電池

ランタン

HV用ニッケル水素電池、蓄電装置

安全、長寿命、高信頼、広い温度特性

研磨・加工

セリウム

半導体ウェハ研磨、液晶ガラス研磨、光学レンズ研磨

表面を傷つけずにナノレベルで研磨可能

合金・材料強化

セリウムーランタン系材料

高強度鋼、耐熱合金、航空宇宙材料

耐熱性・耐酸化性・機械強度の向上

レアアースの応用分野一覧(出所)各種文献を基に作成

 応用分野が広いレアアースを使った製品は民生用に利用されているだけではない。軍事用に転用することで①誘導ミサイルの性能向上②無人ドローンの高性能化③暗視野での視認性向上④レーダー性能の向上―など、兵器の性能を飛躍的に高めることができるとされ、特に高温・振動環境などの過酷な環境下でも高性能が発揮される点が大きなメリットだ。

 つまり、平時は民生用、非常時は軍事用として重要な鉱物であり、各国はデュアルユースの戦略物質として扱っているのだ。

生産量は中国が突出

 国別生産量を確認してみると、中国に依存している様子が見て取れる。もしこのレアアースの供給を絶たれたら、米国における最先端兵器は生産・調達に支障が出かねない。関税をめぐる米中貿易交渉において、米国が中国への強硬姿勢の矛を収めた背景には、そうした実態が交渉カードとして強力にはたらいたと言われる。

レアアースの国別生産量(酸化物換算)
(出所)USGS(米国地質調査所)Mineral Commodity Summaries 2025/2026

 しかしながら、埋蔵量としては必ずしも中国に偏在しているわけではない。日本のEEZにもレアアース鉱床がある。実際、2012年の尖閣諸島国有化を受けて中国がレアアースの対日輸出制限を発動すると、日本政府は調達先多様化の検討を始めた。中国への過度な依存を緩和するためだ。

サプライチェーン強靭化

 その成果のひとつとして近年注目されているのが、南鳥島沖にあるレアアース鉱床だ。水深約6000メートルの深海底から採掘すれば前例のない取り組みとなる。技術的な難易度や採算性が懸念されるものの、精錬時の副産物である放射性元素が少ない利点があると言われている。さらに、中国の陸上鉱山に比べて10倍以上の高濃度、かつ国内年間消費量の数百年分の埋蔵が推定されるなど期待も大きい。

 これまで中国は低価格なレアアースで世界市場を席巻してきた。最大の理由は、精錬時の副産物である放射性元素を厳格に扱うことなくコスト優先で処理してきたことが大きいと言われている。それでも精錬のコストはかかっている。日本はそのコスト面で勝てるだろうか。

 放射性元素をほとんど含まないとはいえ、南鳥島沖鉱床のレアアースを深海から採掘して精錬、製品化した場合、中国の陸上鉱山に対して、どこまでコスト競争力が得られるのか。経済安全保障に関わるサプライチェーンの強靭(きょうじん)化を左右するだけに、今後の技術開発を注視していきたい。

放射性元素が少ない理由

 南鳥島沖レアアースの「放射性元素が少ない」のは単なる偶然ではない。地球の地殻変動や海底の歴史を振り返りながら、日中両国における鉱床の成り立ちを確認しておこう。

 まずは中国。世界最大級の内モンゴル自治区のバヤンオボー(包頭)鉱山などのレアアースは、もともと地下深部にあったマグマの冷却過程で生じた。レアアースのほか、トリウムやウランはマグマが冷却・結晶化する際に一般的な鉱物には入りにくく、マグマと一緒に濃縮。結果として、リン酸塩鉱物モナザイトなどの特殊な鉱物にレアアースとトリウム、ウランが同時に取り込まれている。そのため、採掘・精錬すると副産物としてトリウムとウランを含む放射性廃棄物が大量に発生するのだ。

南鳥島沖への期待

 一方の南鳥島沖。その成立過程にマグマは関係なく、深海における海洋生物由来のメカニズムによりレアアース鉱床が造られたとされる。そのメカニズムはこうだ。①深海で魚の歯や骨を主成分とするリン酸塩鉱物アパタイトが海底に堆積②海水中にごく薄く溶けているレアアースが長い時間をかけてこれらに吸着③極めて安定した深層海流の下、数千万年かけてゆっくり高濃度化―した。

 生物に起源を持つアパタイトはレアアースを選択的に取り込みやすい一方、トリウムやウランとは化学的に親和性が低く、取り込まれにくい。その結果、鉱床はレアアースが高濃度な一方で放射性副産物が低濃度な、陸上鉱床とは異なる資源となっている。

 高濃度で放射性元素に汚染されていないという特徴を持つ深海のレアアース鉱床から安定的に採掘できれば、中国に依存しない、国産のレアアースを手にすることになり、経済安全保障の強化にもつながるだろう。早期に利用できるよう期待したい。また、その先に不可欠となる資源循環社会も併せて準備しておきたい。

注1 ランタノイドは、原子番号57のランタン(La)、58のセリウム(Ce)、59のプラセオジム(Pr)、60のネオジム(Nd)、61のプロメチウム(Pm)、62のサマリウム(Sm)、63のユウロピウム(Eu)、64のガドリニウム(Gd)、65のテルビウム(Tb)、66のジスプロシウム(Dy)、67のホルミウム(Ho)、68のエルビウム(Er)、69のツリウム(Tm)、70のイッテルビウム(Yb)、71のルテチウム(Lu)から成る。

スカンジウムなどレアアースの鉱石やレアアースを使った磁石など

《おさらい》

Q レアアースはレアメタルと別物か。
A 今話題のレアアースは、リチウムイオン電池で有名なリチウムなどの総称であるレアメタルのうち、特に強い磁力を生むなど特殊な高機能をもたらす特定17元素の総称。

Q レアアースの争奪戦が起きているのはなぜ。
A レアアース市場は中国の独壇場。民生用はもとより軍事用途としても極めて重要な鉱物資源であることから、地政学リスクの高まりも受けて全世界的な争奪戦となっている。

Q 日本の領海内の深海から採取可能と期待されているが、そんな深海から採取して採算は合うのか。
A 最終判断はまだできないが、鉱物の成り立ちからして、副産物であり精錬時のコストアップ要因になる放射性元素をほとんど含まず、高濃度で存在しているという優位性が確認されている。

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帯川 崇