中国の消費停滞はなぜ続くのか (前編)

【目次】
◆経済発展の経緯、制度的な要因
〈1〉低消費と高貯蓄
〈2〉成長モデルと家計
〈3〉低い所得水準・格差
〈4〉戸籍による格差
〈5〉税制による格差

◆経済発展の経緯、制度的な要因

 中国経済は、成長をけん引してきた輸出と投資に不確実性と限界が見え、新たな成長の原動力として「消費拡大」が重要な課題となっている。しかし、消費は伸び悩み、構造転換は進んでいない。本稿では、消費が停滞する実態と背景を分析する。前編では発展の歴史的経緯や制度に由来する要因を、後編では人口動態や不動産市場、コロナ禍による消費行動の転換といった、潮流的な要因を検証する。

〈1〉低消費と高貯蓄

 中国の家計消費は長期的に低水準で推移してきた。世界銀行によると、家計の最終消費支出額の国内総生産(GDP)比は2000年代に下降した後、若干上昇した。しかしそれでも22年時点で約38%にとどまり、米国約68%、経済協力開発機構(OECD)平均約60%、日本約55%を大きく下回っている。世界銀行の所得分類で中国は上位中所得国に位置付けられるが、その平均値約46%と比較しても低い水準だ。

家計消費額のGDP比(出所)世界銀行のデータを基に作成

 こうした低調な消費の半面、家計貯蓄率は高水準である。中国の家計貯蓄率(可処分所得に対する貯蓄の割合)は2000年代以降20~30%台で推移しており、コロナ禍の時期を除いて10%未満で推移する日米よりも大幅に高い。

家計貯蓄率(貯蓄率=貯蓄額/可処分所得額)(注1)
(出所)OECD、中国国家統計局、CEICのデータを基に作成

〈2〉成長モデルと家計

 低消費・高貯蓄の構造は、中国の経済発展の経緯と密接に関係している。GDPに占める純輸出(輸出額から輸入額を差し引いた額)、投資(総資本形成)、消費の比率推移をみると、2000年から11年にかけて、純輸出と投資の比率が拡大傾向にある一方、消費の比率が低下している。このうち家計消費は40%台後半から35%程度に縮小している。

GDP支出項目(GDP比)(注2)
(出所)世界銀行のデータを基に作成

♢輸出主導

 1978年の改革開放以降、中国は外資導入と輸出加工型製造業の拡大を軸に成長してきた。特に2001年の世界貿易機関(WTO)加盟を契機に、外資参入規制の緩和などが進み、「世界の工場」としての地位を確立していく。05年の繊維貿易協定(ATC)の失効は、繊維・衣料品の輸出を一時的に大きく押し上げた。

 この輸出拡大を支えたのが低賃金労働力である。農村からの労働力供給により賃金は抑制され、その結果、企業部門と政府部門への資金集中が進み、家計部門への還元は限定的なものとなった(注3)。北京大学国家発展研究院の盧鋒教授は、このような資源配分を「供給強・需要弱」体制と表現し、生産能力の拡張が消費の拡大を上回る構造が形成されたと指摘する(注4)。

♢投資主導

 もう一つの成長エンジンは固定資産投資である。1998年の住宅制度改革により、所属企業・機関による住宅配給制度が原則廃止され、住宅の市場化が進展した(注5)。加えて、高速道路や鉄道、都市インフラの整備が進み、投資主導の成長構造が形成された。とりわけ2008年の世界金融危機で輸出が減速する中、大型の景気対策によってインフラや不動産を中心とする投資が高い伸びを維持。その結果、40%前後だった総固定資本形成のGDP比は2009~11年にかけて46%前後の高水準で推移した(注6)。

 地方政府の制度的インセンティブも投資拡大を後押しした。1994年の税制改革により中央と地方の税収配分が見直され、主要税目の多くが中央に帰属したことで、地方政府の税収は相対的に縮小した。一方で地方政府には経済成長などの目標が課され、その達成手段として投資が活用された。

 具体的には、地方政府は自ら設立した企業組織である融資平台を通じて資金調達し、都市開発やインフラ投資を拡大させた。融資平台は、地方政府による暗黙の保証や土地使用権の信用力に基づいて銀行借入や債券発行を進めた。その債務は形式上、地方政府の財政から切り離されているが、実質的な地方政府の簿外債務として蓄積されていった。

 この仕組みは、不動産価格の上昇局面では、担保価値と返済原資である土地使用権売却収入の拡大によって資金調達を拡大できた。しかし、不動産市場が悪化すると、地方政府は土地使用権売却収入の急減と簿外債務の膨張に直面。従来のように借り入れに大きく依存する投資の拡大が出来なくなった。

〈3〉低い所得水準と格差構造

 中国の低消費は、低い所得水準と大きな所得格差が背景にある。このうち所得水準を示す、1人当たりの国内総所得(GNI)は長期にわたり低水準で推移してきた。2000年代以降は上昇が加速しているものの、依然として米国やOECD諸国と大きな差がある。

1人当たりGNIの国際比較推移(出所)世界銀行のデータを基に作成

 国内において所得格差が大きいことも、消費を抑制する要因となる。低所得層は消費に充当できる可処分所得が限られる一方、高所得層は所得や資産の多くを貯蓄や資産運用に回すからである。追加的な所得が消費に結び付く度合いを示す限界消費性向は、一般に所得水準が高いほど低いことが知られている(注7)。

 所得上位20%と下位20%の平均所得額の比率をみると、中国は20カ国・地域(G20)諸国の中でブラジルに次ぐ大きな差がある。社会主義や共同富裕を標ぼうしているにも関わらず、米国を上回っている。

G20(一部)の所得上位・下位20%格差(2022年)(注)G20平均は中国を除く
(出所)盧鋒「聚焦我国居民消費偏弱的系統成因」2025年を基に作成

〈4〉戸籍による格差

 中国の所得格差は、都市と農村の間の格差として現れている。国家統計局によると、1人当たり可処分所得を都市と農村で比較すると、1978年以降で最も低かった1983年に1.8倍だったが、その後拡大し2007年には3.1倍に達した。その後は緩やかな縮小基調にあるものの、25年時点でも約2.3倍の開きがあり、格差は依然として大きい。

 この都市・農村の格差を制度的に固定化しているのが戸籍制度である。1958年の「戸口登記条例」により農業戸籍と非農業戸籍(都市戸籍)が制度的に区分され、人口移動や公共サービスの配分が行政的に管理される仕組みが整えられた。農村戸籍を都市戸籍に変更することは容易でなく、多くの農村出身者は戸籍を農村に残したまま都市に移住し、「農民工」と呼ばれる出稼ぎ労働者として就業している。その数は2023年時点で2億9756万人に達し、帯同家族を含めると4億人という推計もある(注8)。

 戸籍制度は農民工の消費を抑制する要因となっている。社会保険(注9)、教育機会、公営住宅の申請資格、各種給付は戸籍にひもづけられており、農村戸籍者は都市での制度利用が制限されているのだ(注10)。医療費や教育費などを自己負担することから、農村戸籍者は消費を抑制して予防的に貯蓄を優先することになる(注11)。本来、限界消費性向が高い低所得層の消費が抑制されているのである。

♢都市化の試み

 中国政府は都市と農村の格差の是正に向けた対策を講じてきた。その中心となるのが、2014年に打ち出された「新型都市化」である(注12)。この政策は、単なる都市への人の移動でなく、農村戸籍から都市戸籍への転換を通じて都市公共サービスの利用拡大を目指している。都市戸籍人口の比率である「戸籍ベースの都市化率」は、この政策が本格化した14年の約37%から、23年には約48%へと上昇している。 

 しかし、農村戸籍のまま都市に住む者を含めた「常住人口ベースの都市化率」も同時に上昇している。両者の差は縮小することなく18%ポイント前後で推移しており、農村戸籍のまま都市に移住する人口が依然として多数存在している。とりわけ、労働需要の大きい大都市ほど戸籍取得の条件が厳しく設定されており 、戸籍の都市化は進みにくい(注13)。

都市化率の推移(出所)中国国家統計局、CEICのデータを基に作成

 農村戸籍者に対して都市の公共サービスへのアクセスを拡大する措置も講じられている。2016年には都市に一定期間居住する農村戸籍者に居住証が発行され、教育や医療など基本的な公共サービスの利用が認められるようになった(注14)。ただし、その場合もサービスの範囲や水準は限定的であり、戸籍による格差は依然として残っている(注15)。

〈5〉税制による格差

 所得格差を是正する再分配機能が弱い税制も所得や資産の格差を固定化する要因となっている。中国の税収構成を日本と比較すると、個人所得税など直接税の比率が低く、増値税(付加価値税)や消費税(特定品目に課す個別税)など間接税の比率が高い。間接税は所得水準にかかわらず一律の税率が適用されるため、所得に対する負担割合は低所得層ほど大きく、税負担の逆進性を生みやすい(注16)。

 さらに、固定資産税や相続税に相当する資産課税が未整備であることも、資産格差につながっている。住宅保有に対する課税は上海や重慶など一部の都市で試験的に導入されているものの、全国的な制度には至っていない。導入拡大は不動産市場への影響が大きいことに加え、住宅所有率が高い中国においては高度な政治的調整を要する(注17)。

 この結果、中国の上位10%の富裕層が保有する民間総資産の割合は上昇を続け、2021年には約7割に達している。これは米国に迫る水準である(注18)。

♢脆弱(ぜいじゃく)な再配分

 中国の所得再配分の弱さは、公的社会支出の規模に表れている。OECDによると、2018年の公的社会支出のGDP比は日本22.2%、米国18.2%、OECD平均19.7%といずれも20%前後であるのに対し、中国は半分の10%にとどまる。

公的社会支出額のGDP比(2018年)
(出所)OECDのデータを基に作成(注19) 

 所得再分配の弱さはジニ係数の改善幅にも表れている。ジニ係数は所得格差を0~1で示す指標で、0に近いほど平等、1に近いほど格差が大きい。税や年金・生活保護などの給付を反映する前後で比べると、2021年の日本が0.463から0.318へと格差が0.145縮小したのに対し、中国は0.479から0.405への0.074の縮小にとどまった。中国で所得格差の是正効果が小さいのは長期的な傾向である。胡錦濤政権下の2000年代にいったん改善したものの、日米との差は依然として大きい。

再分配効果(再配分前後の差異)の推移
(出所)Standardized World Income Inequality Databaseを基に作成 

 こうした格差は、農村と都市の双方で消費抑制の要因となっている。農村部では、診療所の機能低下や人材不足で医療提供体制が不安定化し、将来の医療費負担への不安から消費が抑制される悪循環が報道されている(注20)。都市部でも、若年層の高い失業率を背景に低所得層が拡大。若者に広がる「寝そべり」は、最低限の労働と支出で暮らす生活態度を指し、上昇志向の後退を象徴する(注21)。こうした格差はさらに、社会の不安定化につながる可能性を高めている。

 このように、中国では消費を抑制する要因が歴史的、制度的に形成されてきた。輸出産業を支える低賃金労働に加え、戸籍による都市と農村の分断、社会保障の未整備、再配分機能の弱い税制が格差を固定化。予防的貯蓄が必要になり、本来は限界消費性向が高い低所得層の消費も抑制している。

 後編では、人口動態の転換や不動産市場の低迷、コロナ禍による消費者心理の変化など、近年に顕在化してきた潮流変化に焦点を当て、中国の消費が停滞する要因をさらに明らかにする。

《おさらい》

Q 中国で今、消費が注目されるのはなぜか。
A 成長を支えてきた輸出と投資に不確実性と限界が見え始め、新たな成長の原動力として消費の重要性が高まっている。 

Q 消費停滞の主な要因は何か。
A 改革開放後の中国経済は輸出産業にけん引されてきた。競争力確保には低賃金労働力が不可欠で賃金が抑制されてきた。

Q 制度的にも何か要因がある?
A 戸籍制度の弊害や不十分な社会保障、逆進性の強い税制が所得格差を生み、消費を抑制している。

Q 格差拡大が消費を抑制するのはなぜか。
A 富裕層は限界消費性向(追加的な所得を消費に回す傾向)が弱い。本来は限界消費性向が強い低所得層も社会保障の弱さから将来不安に備えて貯蓄を優先し、全体として消費が伸びにくくなる。


1:中国は家計消費のみ、他国は家計消費とNPISH(対家計非営利団体=家計向けに教育・福祉・宗教活動などを行う私立学校、慈善団体、宗教団体など)の消費を含む計算。NPISHを含む計算では貯蓄率が通常12%ポイント低く出るとされる。
2IMF Country Report No. 12/195の図を参考に世界銀行のデータで作成。家計消費は家計消費とNPISH(対家計非営利団体)の消費を含む。International Monetary Fund, People's Republic of China: 2012 Article IV Consultation, IMF Country Report No. 12/195, 2012.
3:中国の労働分配率(雇用者報酬のGDP比)は、1990年代半ばには50%台前半で推移していたが、投資・輸出主導型成長が加速した2000年代半ばにかけて低下し、2007年前後には40%台前半まで低下。Hao Qi, "The Labor Share Question in China," China Economic Review, Vol. 30, 2014, pp. Chart 2.
注4:盧鋒「聚焦我国居民消費偏弱的系統成因」北京大学国家発展研究院、2025年9月26日。
5:住宅の市場化は1990年代初頭から段階的に進められ、1998年に本格導入された。1994年「城鎮住房制度改革決定」および国務院「関於進一歩深化城鎮住房制度改革加快住房建設的通知」(1998年)。
6:中国のGDPに占める総資本形成の比率は、世界金融危機前は200540.2%200639.7%200740.2%40%前後、同危機後は200944.9%201046.1%201146.3%201245.8%46%前後に上昇。World Bank, World Development Indicators, "Gross capital formation (% of GDP)".
7International Monetary Fund, People's Republic of China: Selected Issues, IMF Country Report No. 22/022, 2022, "Household Savings and Its Drivers: Some Stylized Facts".
8:国家統計局「2023年農民工監測調査報告」によると農民工総数は約29,756万人。世界銀行のレポートは帯同家族を含めた流動人口を3億~4億人と記載。World Bank, China's Internal Migration and Urbanization: Trends, Challenges, and Policies, 2021, p. 7.
9:中国の主要社会保険は、基本養老保険、基本医療保険、失業保険、労災保険、生育保険の5種類。
10Jason Hung, "Hukou System Influencing the Structural, Institutional Inequalities in China: The Multifaceted Disadvantages Rural Hukou Holders Face, "Social Sciences, Vol. 11, No. 5, 2022, Article 194, section 2.2.
11International Monetary Fund, People's Republic of China: Selected Issues, IMF Country Report No. 22/022, 2022, pp. 3, 27.
注12:国家発展改革委員会「国家新型城鎮化計画(2014-2020年)」(2014年)。
13:常住人口300万人未満の都市では戸籍取得が比較的容易である一方、500万人以上の大都市ではポイント制によって厳格に管理され、1,000万人級の超大都市への戸籍転換は極めて困難となる。国務院「推動1億非戸籍人口在城市落戸方案」(2016年)。
注14:国務院「居住証暫行条例」(2015年公布、2016年施行)。
15International Monetary Fund, People's Republic of China: Selected Issues, IMF Country Report No. 22/022, 2022, p. 6.
16:各国の税直間比率は、2012年米国8218、日本8119に対して、15年前後の中国は3565Li Shi and Zhu Mengbing, "Redistributive Effects of Tax and Social Security System in China," China Institute for Income Distribution, 2018.pp. 8,13-15.
17:中国の家計資産に占める不動産の割合は68割。中国人民銀行「2019年中国城鎮居民家庭資産負債情況調査」『中国金融』2020年第9期。Logan Wright, Camille Boullenois, Charles Austin Jordan, Endeavour Tian, and Rogan Quinn, No Quick Fixes: China's Long-Term Consumption Growth (New York: Rhodium Group, 18 July 2024), p. 32. Kenneth Rogoff and Yuanchen Yang, "A Tale of Two Countries: The Real Estate Crises in 1990s Japan and Contemporary China," BPEA Conference Draft, March 26-27, 2026, pp. 2.
18WORLD INEQUITY LAB. 2022 WORLD INEQUITY REPORT
19:中国はOCED, Society at a Glance: Asia/Pacific 2025, p.89, Figure 5.7の元データhttps://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/publications/reports/2025/02/society-at-a-glance-asia-pacific-2025_e40bb2aa/24fa8f05-en.pdf.
日米はOECD 
https://www.compareyourcountry.org/social-expenditure/en/0//datatable/
20Reuters, "China's ageing villages face yawning healthcare gap amid fragile economy," January 19, 2025.
21JETRO「中国、就業形態の多様化と若年層の就職観」(2023年)

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武重 直人