2017年02月20日
中国・アジア
主席研究員
中野 哲也
休暇を取り、随分久しぶりに香港を歩いてきた。英国から中国への返還(1997年)後初の訪問となり、四半世紀の間にこのユニークな街は一段とたくましくなっていた。返還によって中国と香港の間の見えない「壁」が消え、ヒト・モノ・カネが大量に往来する。その一方で、香港の人々は共産主義体制にのみ込まれないよう、知恵を絞って生来の商魂に一層磨きを掛けていた。
香港島のビジネス街には高層ビルが林立し、中国をはじめ世界中からマネーを吸い寄せる。その株式市場はアジアでは上海、東京に次ぐ地位を占め、連日活況を呈している。不動産市況もバブルに沸いて高騰し、海沿いには一戸数億円あるいは十億円以上というタワーマンションが立ち並ぶ。
香港島のタワーマンション群(香港・アバディーン)
だが、庶民にとっては高嶺の花であり、住宅問題が深刻化している。案内してくれたガイドは「(中国本土と同じく)土地の所有権が付いていないのに、15平方メートルのワンルームマンションが5000万円もするんですよ」と肩をすくめた。経済格差は一段と拡大している。最近は家賃の比較的安い中国・深圳から香港まで、毎日列車で通勤する人も現れているそうだ。
香港島対岸の九龍半島側には最大の繁華街・尖沙咀(チムシャツォイ)があり、朝から次の日の朝まで人通りの絶えることがない。超高級ホテルや欧米のブランドショップ、若者が集まるファッションモール、地元の人が愛用するお粥屋さん、さらにちょっと怪しげな店がいくつも...。カメラを手に歩いていると四半世紀前と同じく、「シャッチョ(社長)サン、ニセモノの時計に興味ありませんか?」と何度も声を掛けられる。東京でいえば、銀座に渋谷、新宿、池袋を足して4で割ったようなエリアである。
香港最大の繁華街・尖沙咀 ※A-HDR撮影
ドイツではベルリンの壁が崩壊し、冷戦は終結に向かった。果たして香港人にとっては、中国との見えない「壁」が消えて良かったのか。
今のところ中国は香港を特別行政区として経済的自由を容認している(ただし、返還50年後の2047年以降は不透明)。しかし政治的には香港は不自由になり、2014年には民主化を要求する大規模デモ「雨傘運動」が学生を中心に発生した。政治のトップを決める行政長官選挙が来月に迫り、親中派VS民主派の対立激化も予想される。一方、太平洋の向こう側では、トランプ米大統領がメキシコ国境に見える「壁」を建設するという公約を撤回しない。見えても見えなくても、「壁」には国家や市民の運命を劇的に変えてしまう魔力がある。
香港の将来は果たして...(香港島の夜景)
(写真)筆者 PENTAX K-S2使用
中野 哲也