2019年05月08日
中国・アジア
主任研究員
武重 直人
世界最大を誇る中国の自動車市場に変調が生じている。2018年の新車販売台数が28年ぶりに前年実績を割り込んだのだ。それでも2800万台と2位の米国(1770万台)や3位の日本(527万台)を引き離すが、昨年下半期から顕著になった減速は不気味だ。世界経済の先行きに不透明感が強まる中、中国の自動車市場はこのまま縮小に向かうのか。
中国の新車販売台数
(出所) 中国自動車工業協会のデータを基に作成
自動車販売落ち込みの要因として、中国自動車工業協会やメディアなどが指摘するのが、①小型車購入税減税の打ち切り②米中貿易摩擦による消費者心理の冷え込み③株価下落による逆資産効果④庶民の資金調達・財テク手段であるネット金融の破綻拡大―などである。この中で②~④は自動車販売が急減速した時期と一致する。
今後、中国の自動車市場は以前のような拡大基調に戻るのか。必ずしも楽観できない。
第一に高齢化の進展。消費の中心を担う生産年齢人口が2013年をピークに減少に転じているのだ。日本は、生産年齢人口が1995年をピークにして減少に転じ、この頃から自動車を含む消費の伸びが頭打ちになった。中国の自動車の世帯普及率は38%(日本の1973年頃に相当)で、市場飽和には至っていない。だが少子高齢化の加速で普及に急ブレーキが掛かる可能性も排除できない。
日本の自動車販売台数と小売総額
(出所) 経済産業省、日本自動車工業会のデータを基に作成
第二に政府の交通政策。都市部では激しい渋滞を緩和するため、ナンバープレートの発行数を制限し、車両の増加を抑えているのだ。北京市の場合、順番待ちは100万人以上といわれる。また、ナンバープレートの末尾で走行できる曜日が決められるなど、自動車所有のメリットが薄れているとも指摘される。
第三にシェアリングエコノミーの普及。カーシェアリングが進めば、全体のパイが大きくならない限り、自家用車の需要も減る。一方、米国の市場調査会社ニールセンが世界60カ国の3万人を対象に実施した調査で、中国人のシェアに対する許容度が突出して高いことが判明した。他人のモノを使うことに抵抗を感じない人の割合は欧米43~44%、世界平均66%に対し、中国は94%と断然トップだった。
中国が官民挙げて力を入れる完全自動運転が実現すれば、シェアリングの普及に一層拍車が掛かる。米国のコンサルティング会社PwCは、中国の新車販売市場が完全自動運転の実用化が見込まれる2025年から減少に転じると推定。同様の見方をする自動車業界関係者も少なくない。日本企業も含めて、自動車市場の「チャイナショック」に備えて心構えをしておく必要があるかもしれない。
武重 直人