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ゼロコロナか、経済回復か...

=大きなジレンマに苦悩する中国=

2022年03月24日

中国・アジア

主任研究員
武重 直人

 新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大してから2年余。震源地となった中国は、ゼロコロナ政策によって封じ込めに成功してきた。新規感染者が出ると、そのエリアや、場合によっては都市全体で検査を義務化し、外出・移動を厳しく制限しては感染拡大を抑え込んだ(ロックダウン=都市封鎖)。これに対して欧米は中国とは対照的に、感染者数より重症化率を重視し、コロナ対策と経済回復の両立を模索している。

新規感染者数
(100万人当たり、7日間移動平均)
図表(出所)Johns Hopkins University及び国連World Population Prospectsを基に筆者

 だが、中国のゼロコロナ政策には「副作用」も指摘される。経済に対する打撃だ。職場閉鎖や交通遮断などは消費や生産、供給網の著しい停滞をもたらす。2021年第4四半期(10~12月)の実質GDP成長率は前年同期比4.0%とコロナ前の水準(6%前後)に届かず、停滞色を一層強めた。その原因としては、不動産市場の引き締め政策と並んで、ゼロコロナ政策による消費低迷が挙げられる。

中国の実質GDP成長率(前年同期比)
図表(出所)中国国家統計局を基に筆者

IMFが中国経済に懸念

 米調査会社ユーラシア・グループは、年初に公表した2022年10大リスクの筆頭に、中国政府によるゼロコロナ政策の失敗を挙げた。同社は、中国が独自開発したワクチンはオミクロン株に対する有効性が低いと指摘。感染が拡大すればさらに厳しいロックダウンを行い、そのために経済が一層停滞、それが国民の不満を増大させると指摘する。

 国際通貨基金(IMF)も同様の懸念を抱く。1月28日公表の中国に対する年次審査報告書では、ゼロコロナが個人消費に打撃を与えるとして、規制緩和の必要性に言及。記者会見ではさらに、中国のコロナ対策は「最善の調整を検討する必要がある」と踏み込んだ。

 それに先立ちIMFは、2022年の中国の実質GDP成長率見通しを3カ月前予測の5.6%から4.8%に下方修正した。実際、中国国家統計局の非製造業購買担当者景況指数(PMI)は、飲食など接触型サービス業を中心に感染者増加の影響を強く受け、徐々に悪化している。

感染者数と非製造業PMI
図表(注)PMIは50が景気の拡大・縮小を判断する節目
(出所)国家統計局、中国国家健康衛生委員会を基に筆者

 景況感が悪化しているとはいえ、ゼロコロナ政策からの転換は容易でない。これに関し、米外交問題評議会(CFR)のグローバル保健スペシャリストはロイター通信の取材に対し、「人口の大半が新型コロナに対する免疫を獲得していない以上、中国でオミクロン株は容易に急拡大する」と予測している。

 事実、中国の保険当局によると、2022年3月12日にはオミクロン株を主体に新規感染者数が3122人に達した。1日当たり3000人を超えたのは20年2月以来のことだ(3月14日、NHK)。

 一方で前述の通り、中国製ワクチンのオミクロン株への有効性が低いならば、有効なワクチンが準備できるまでの間、感染急拡大に対して政府は行動規制や隔離でしのぐしかない。

習氏が今秋3期目続投を目指すには...

 また、中国政府自身による対欧米批判のプロパガンダが、コロナ政策の転換を困難にしている側面もある。政府はこれまで、武漢市に代表されるように厳格なロックダウンで感染拡大を封じ込めてきた。

写真厳格なロックダウンで封じ込めたが...(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

 これをもって、習近平政権は中国特有の政治システムの優位性を内外にアピール。同時に、感染者数が拡大する欧米の自由主義的な政治システムの弱点を喧伝(けんでん)してきた。

 中国で国民の政府のコロナ対策への満足度や政権への支持率が総じて高いのは、こうした宣伝工作が奏功したためと考えられる。だから人心を掌握するためには、欧米に追随する方向へ政策を転換するわけにはいかないのだ。

主な都市全体の封鎖例
図表(出所)各種報道を基に筆者

 今、習近平国家主席は自らの権力の継続・強化に向けて正念場を迎える。北京冬季五輪・パラリンピック後も重要イベントが続き、秋には総書記3期目続投が決定する党大会がある。

 この節目を乗り切るには、自身の功績としてコロナ制圧が重要な意味を持つ。ゼロコロナ政策はそれまで解除できないと筆者は予想する。

中国重要イベント
図表(出所)各種報道を基に筆者

 それを裏付けるように、中国共産党系メディアは最近も、ゼロコロナ政策継続の方向性を鮮明にする。人民日報系ネットメディア「環球網」は専門家の見解として、ゼロコロナ解除はすぐさま医療体制の崩壊につながり、「その代価と犠牲はとうてい甘受できない」というコメントを掲載した。

 この記事の中では、中国の感染対策を評価する海外報道が引用され、中国在住の外国人が政府の対応の速さを称える記述もある。米国各州が民主党対共和党で分裂して政策が一本化できないのに対し、中国は全国統一的な対策で成果を上げているとも強調する。

 中国のある都市に在住する知人に筆者が話を聴くと、一般市民の多くは概ね政府方針を支持しているという。仮に隔離されても仕事が公休扱いになるなど、個人が経済的な損失を被らないためだ。

 ところが、西安市の都市封鎖中(2021年12月23日から約1カ月間)に発生した一連の出来事により、知人は国民の間に疑問が芽生え始めたという。例えば、妊娠8カ月の妊婦が腹痛で病院に行ったところ、陰性証明の期限が4時間前に切れていたため、診療を断られて病院前で死産。

 また、心臓発作を起こした高齢男性が、感染「中リスク地区」の住民であることを理由に迅速な診療を受けられず死亡―。こうした「事件」がネット上で拡散し、ゼロコロナ政策の行き過ぎが認識されつつある。

 知人によると、多くの国民は弱毒のオミクロン株に対してゼロコロナ政策は過剰という感覚を持っているようだ。にもかかわらず、結局は役人の自己保身のため、この政策は変わることなく維持されると思われているという。

「共同富裕」がもたらすジレンマ

 習氏は秋の総書記3選に向け、コロナ制圧と経済回復という2つの実績を必要とする。前者についてはゼロコロナを貫くことで達成しようとするため、トレードオフの関係にある経済を犠牲にしなければならない。

 その犠牲を最小限に食い止めようと、習政権が照準を合わせたのが不動産政策だ。2020年夏以降、長期的な視点から不動産会社の債務圧縮と不動産バブルの価格調整に乗り出し、不動産関連の規制強化を進めてきた。

 しかし、それとゼロコロナ政策に伴う経済の落ち込みは、前述したように想像以上に大きかった。このため、習政権は早くも2021年末、規制の部分緩和に転じた。

 具体的には、12月6日に中央政治局会議で不動産規制緩和の方向性が示されるとすぐに、中国人民銀行(中央銀行)が15日から銀行の預金準備率を引き下げると発表したのだ。

図表(出所)各種報道を基に筆者

 その結果、銀行の貸出金利の基準となる最優遇貸出金利(LPR)1年物が0.05%引き下げられ、年3.80%に改定。利下げは2020年4月以来、1年8カ月ぶりのことだ。不動産業界にとっては金利負担の軽減になるが、その後も景気テコ入れの必要性から追加利下げを余儀なくされている。

 習氏は3期目続投をにらみながら、改革開放を推進してきた鄧小平の「先富論」(=富める者から先に富む)を修正し、「共同富裕」(=国民が共に豊かになる)に政策転換した。このため、格差是正に向けた不動産投機抑制の姿勢は維持するとみられる。

 しかし、ゼロコロナ政策で経済停滞がさらに長期化するなら、「先富」をつくってきた不動産業界への締め付けを緩めざるを得ない。

 今後の展開次第では、強化してきた不動産関連規制を骨抜きにする可能性も排除できない。習政権は大いなるジレンマに苦悩している。

写真ゼロコロナと経済回復のジレンマ(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

武重 直人

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※この記事は、2022年3月29日発行のHeadLineに掲載予定です。

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