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2022年秋の中国共産党大会

=党指導部選出めぐり歴史的分岐点に=

2022年07月06日

中国・アジア

主任研究員
武重 直人

 2022年秋、中国共産党全国代表大会(以下「党大会」)が開催される。ほとんどのメディアが「習近平氏が異例の3期目を狙う」ための党大会と表現し、指導部選出の新たな形が示されることで注目されている。党大会を目前にした中国は、今後の政治や経済の在り方を方向付ける、歴史的分岐点に差し掛かっている。

図表

(出所)リコー経済社会研究所、stock.adobe.com

 5年に1度開かれる党大会では約9500万人の党員から選出された約2300人の代表が北京に集結。約1週間にわたってさまざまな課題を討議、採決する。

 最も注目されるのが党指導層の選出だ。中央委員約200人を選び、党大会閉幕直後に中央委員会第1回全体会議(1中全会)を開催。上位25人からなる中央政治局員、さらにその中から中央政治局常務委員(以下「常務委員」)7人を選出する。この7人が事実上中国の政治を動かしている。そこに誰が入るかで派閥の力関係や習氏の長期政権の成否が見えてくる。

中国共産党の指導階層

図表

(注)上級組織構成員は同時に下級組織にも属する。
(出所)各種報道を基に筆者

 今回はこれに加え、幹部の選出・退陣の形がどう変わるかが注目を集める。習氏が2020年の党大会で従来の慣例を破り、党トップの座にとどまる布石を打ったからだ。これまで党には、集団指導体制の維持と権力のスムーズな移譲を担保する不文律があった。党トップである総書記の任期は2期10年までとし、常務委員の引退年齢も党大会時点で68歳と制限していたのだ。このルールは、少なくとも胡錦濤政権が発足した2002年以来厳守されていた。

 これに加え、総書記に選出される者は常務委員の経験者とする慣例もある。常務委員の選出はこれらの原則から逸脱しないよう進められてきた。このルールに従うと、習氏は2022年秋に2期目を終えて引退となる。だが、その後継者として前回2017年の改選時に起用するはずの若手(翌期2022年から2期10年務められる57歳以下)の選出を見送ったのだ(下図)。さらにその約半年後、党総書記が兼務する国家主席の任期上限(2期10年)も憲法から削除した。

各期中央政治局常務委員

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(注)最上段が総書記、年齢は党大会時
(出所)各種報道を基に筆者

 従来の手順が取れないとすると、次期体制の選出は新しい形にならざるを得ない。以下ではこれまでの習氏の動きを踏まえ、今後の展開について足元で指摘されている3つのシナリオ①習氏3期目入り(常務委員の構成は変更)②習氏がより権限が強い党主席に就任③習氏退任―を示す。どの形になるかによって中国政治の在り方は大きく変わるだろう。

シナリオⅠ.現行枠組みの部分踏襲

 習氏を除き従来の常務委員の枠組みを維持する、最も変化が小さいケースを考えてみよう。残りの6人枠はどうなるか。候補を絞り込むため、現在の常務委員と政治局員(上位25人)から、党大会時に引退年齢68歳未満の人物を抜き出すと下表のようになる。

次期常務委員候補

図表

(注)団=共青団派、習=習派。ハイライトは初の常務委員入りが有力視される人物(青=団派、赤=習派)。年齢は党大会時。黄氏は大会開催時期によって66歳の可能性もある。
(出所)各種報道を基に筆者

 候補の多くを習人脈が占め、共産主義青年団(共青団)の出身者、通称「団派」がこれに次ぐ勢力となっている。習氏は共青団を通じて組織的に人材を育成・登用するルートを持たない。このため福建省時代(1985~02年)、浙江省時代(2002~07年)、上海市時代(2007~12年)に部下として仕え、信頼した人物を登用することになる。このうち特に有力視されているのが丁薛祥氏、李希氏、李強氏、陳敏爾氏だ。

図表(出所)リコー経済社会研究所

 ただし、この習派優勢の構図は2017年の人事を基にしたケースで、必ずしも現状を反映していない。直近では習氏主導の経済・外交の不振から、団派への期待が高まる流れも生じている。

 その点を考慮に入れると、団派からの常務委員は前回の2人から李克強氏、汪洋氏、胡春華氏の3人に増える可能性が高い。胡春華氏は現在常務委員ではないが、国務院副総理(4人中第3位)であり、党系メディアにおける露出度が高い。なお、残る団派の陳全国氏は、新疆ウイグル自治区トップを務めたものの、人権問題で米国の制裁対象とされた直後に同職を解任された(2021年12月)。対米関係上、常務委員への登用は考えにくい。

 習氏が勢力を保つため、常務委員枠を現行の7人から増員することも考えられる。増員しない場合、団派が3人に増え習派の勢力が後退するからだ。また、習派は前述のように多くの有力候補を抱えているため、増員で彼らに重要ポストを与え、習氏の求心力を強化できる。さらに、現常務委員の留任もあり得るから調整は複雑だ。現常務委員のうち派閥色の薄い王滬寧氏と趙楽際氏も習氏を支える重要な役割を果たしてきた。王氏はブレーンとして重要政策の立案で、趙氏は人事を司る立場から習派の抜擢で、それぞれ貢献が大きい。

 もっとも、ここまで紹介してきた有力候補もアキレス腱を抱える。団派ホープの胡春華氏は関係者が汚職の疑いで調査対象となった。その最終標的が胡氏だったとの見方もある。胡氏は実務能力の高さに定評があるだけに、ライバルの標的にされやすいのだ。李強氏にも弱みがある。同氏が務める上海市トップは江沢民氏以来、ほぼ全員が常務委員入りを果たした。しかし李強氏は上海市の「ゼロコロナ政策」が市民の不興を買い、激しく詰め寄られる動画が拡散したのだ。ゼロコロナ政策の評価次第では、既定路線とされてきた常務委員入りが難しくなる。

 以上を勘案して、従来の枠組みを踏襲する本シナリオの注目点は、習氏が①勢いを増す団派の増員を許すのか②習派勢力維持のため常務委員の枠を拡大するのか③総書記引退の新ルールを明示するのか―になる。

シナリオⅡ.党主席制の復活

 2022年の党大会をめぐっては、現行の「党総書記制」から党トップの権限を強めた「党主席制」へ移行するのではとの見方も浮上している。シンガポール紙ストレーツ・タイムズ(海峡時報)が2020年10月に、中国共産党幹部筋の複数ルートから得た情報として報じた構想だ。

 現在の総書記制は集団指導体制を基盤にしており、前述の通り常務委員7人の合議で物事を決める。党総書記は、採決において他の構成員と同等の1票を持つだけで、形式上は合議の取りまとめ役に過ぎない。毛沢東党主席の下で生じた独裁と混乱を繰り返さぬよう、1982年に鄧小平の主導で導入された仕組みだ。

 この制度の下で総書記が権力を握るには、自らの意を汲む構成員を増やす「多数派工作」が必要だ。これが結果として派閥争いを生じさせたとも言える。

 これに対して党主席体制の下ではトップである主席の権限が強く、ある意味で多数派工作さえ不要となる。前出の海峡時報が報じた党主席制導入構想の概要は次のようにまとめることができる。

海峡時報の報道内容(概要)

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(出所)海峡時報を基に筆者

 実は、これ以前にも党主席制復活の兆候らしきものがあった。2016年秋、習氏に「党中央指導部の核心」の称号が与えられた。翌17年の党大会では党規約に「習近平思想」が行動指針として書き込まれた。さらに21年11月に採択された史上3回目となる「歴史決議」では、前回鄧小平の歴史決議に盛り込まれていた「個人崇拝の禁止」「集団指導」「終身制の廃止」のキーワードが削除された。

 海峡時報の報道が仮に事実とすれば、この構想は中央政治局(5中全会)での討議を経て承認されていることになる。実現するかどうかは別として、習氏自身が過去の主席に匹敵する地位を目指していることは疑いがないだろう。

シナリオⅢ.習氏が退任

 可能性は低いものの、習氏が退任するのではとの見方もないわけではない。2020年10月当時から状況が大きく変化し、反習勢力が勢い付いているからだ。ゼロコロナ政策は3月以降経済に強烈なダメージを及ぼした上、行動規制を課された都市では市民の不満が高まっている。

経済ダメージを示す「小売額」(前年同月比)

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(注)1~2月データ無し 
(出所)中国国家統計局を基に筆者

 習政権の親ロシア路線についても、上海の幹部養成機関(党校)の胡偉教授や国務院参事の王輝躍氏が、国益の観点から異論を唱える論文を相次いで発表。中枢に近い層で危機感が共有されていることが分かる。反習勢力にとっては、行動を起こす絶好の環境が整った形だ。

 実際、2022年5月には習近平退位説が一部メディアで報じられた。同月の常務委員の会議において、党長老の後ろ盾を得た常務委員が習氏に引退を迫り、秋の党大会をもって退任することで合意したというのだ。退任を迫った理由は、習氏による①ゼロコロナ政策強行に伴う経済停滞②親ロ・反米路線による対欧米関係の悪化③個人崇拝の復活―という。

 にわかには信じがたい話で、信ぴょう性についても著名な中国ウオッチャーの間で評価が分かれている。しかし、こうした話が流れること自体が習氏の政権基盤が揺らいでいることを示唆するとの見方もある。

 反習勢力と習氏との間で結ばれたとされる合意内容は、次の4項目で表現される。

 
「提前交権」
(前もって権限委譲する)
 即座に実権を李克強氏に渡し、党大会を待たず徐々に政策転換していく。
「到站下車」(駅に着いたら下車する)
 新体制は党大会で公にし、習氏はその時点で総書記の肩書も速やかに返上する。
「平穏過渡」(平穏に権力を移行する)
 党大会までは実質的な権力移行を公にせず、体制や社会の急変を回避する。
「不追責任」(責任を問わない)
 おとなしく退任すれば、習氏の引退後の身分は保障し、在任中の行為に対して責任を問わない。
 

 

 関連の記事やテレビ番組は傍証として、習氏周辺の「異変」を指摘する。例えば台湾のケーブルテレビは、習氏が「ゼロコロナ」徹底を強調する中、李克強氏がマスクを外して大衆に接していることを取り上げ、習氏を無視、あるいは対抗の姿勢を示しているとの見方を紹介した。

 ほかにも「習外交の特徴である強硬姿勢(戦狼外交)が突如軟化した」「国営放送のニュースで党中央を形容する『習近平同志を核心とする』という文言が省かれた」「人民日報で李克強氏の講話が前例のない大きな扱いを受けた」などの指摘もある。

 習氏退任説はカナダの中国語ネットメディア「万維読者網」が掲載し、それを引用する形で中国内のネットメディアにも拡散した。さらに大本をたどっていくと「老灯」と名乗る中国人男性がユーチューブとツイッター上に公開した動画が発端となっている。同氏は北米在住の50~60代。ビジネスマンらしく、言論界で知名度は高くない。

 同氏は2022年5月5日、自分のチャンネル「老灯開講」に、中国内の国家安全部門関係者からの情報として、初めてこの説を取り上げた。その後も同じ情報源とのやり取りを重ねているとして、連日のように関連情報を紹介している。

 その中で、検討中とされる次期指導部の人選案に触れている。李克強氏(団派)=次期党総書記、汪洋氏(団派)=次期首相、王滬寧氏、趙楽際氏の常務委員入りは確定済みという。そのほか丁薛祥氏(習派)、胡春華氏(団派)、陳敏爾氏(習派)を有力候補として挙げた。興味深いことに、団派を核とする体制でありながら、習氏に近い人物を排除していない。

図表

(出所)リコー経済社会研究所

 動画の中には「情報源」とされるグループの思惑も垣間見える。老灯の動画は、情報源からのメールを読み上げる形をとることがある。その中には情報源が彼の発信を労う言葉のほか、老灯の発信が「中国内の各級幹部の間で話題になっている」「当初の見込みを超えた成果をあげている」という表現もある。一連の情報発信には反習勢力への期待を高める思惑があるようだ。

 実際に国家安全部門に情報源となるグループが存在するのかは定かではない。仮に情報提供が事実だとしても、反習世論醸成の手段として作り話を提供している可能性があり、内容がどこまで正確かは確認のしようがない。

 それでも彼を通じて発信される一連の情報が、反習勢力の考え方や手段を理解する好材料であることは間違いない。また、この不確かな情報が広く取り上げられていること自体が、習政権の政策に対する危機感と李克強氏への期待感の広がりを物語っている。

 3つのシナリオの中でどれに落ち着くのか、現時点で予測は難しい。ただ、習氏が党幹部選出の慣例を破ったことで、新たな仕組みの構築が必要になっていることは間違いない。派閥勢力の変化が最小の「シナリオⅠ」でさえ、総書記引退の仕組みをどう設定するかが、統治のあり方を大きく変える。決定のタイムリミットが迫る中、中国政治は正念場を迎えている。

武重 直人

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※この記事は、2022年6月23日発行のHeadLineに掲載されました。

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