2017年02月01日
地球環境
主席研究員
則武 祐二
気候変動問題に向けた最近の取り組みについて、2回に分けて報告する。
2015年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で決定したパリ協定は、米国、中国、EU諸国など多くの国の批准により、国連協定としては異例の速さで2016年11月4日に発効した。11月7~19日にモロッコのマラケシュにおいて、COP22に合わせ、パリ協定の詳細ルールを決めるパリ協定第1回締約国会合(CMA1)も開催された。日本は、11月8日にパリ協定を批准したが、CMA1の参加要件には間に合わず、オブザーバー参加となった。
COP22では、詳細ルールを2018年までに決めることが合意された他、次の点が決められた。①CMA1は今回で終了とせずに3回に分割して行う。2018年までにパリ協定のルール作りを完了させ、その上で3回目を行い、そこで最終決定する②パリ協定による取り組みの開始は2020年からとする③2017年の次回ドイツ・ボンでのCOP23の議長国は、温暖化の悪影響に苦しんでいる国のひとつであるフィジーとする④2018年に行う「促進的対話」に向け、COP22の議長国モロッコとCOP23の議長国フィジーが協力して、各国と協議を行う。その結果を、2017年のCOP23で報告する。
「促進的対話」は2度目標 に対して各国目標を整合させることを目的に各国と協議するものであり、これにより各国目標に関して実質上の協議が始められることになる。
日本では、パリ協定遵守に向けての取り組みが遅れ気味となっている。例えば、再生可能エネルギーへの転換を進める上では、卸電力市場の活性化が必要だが、現時点では、日本の同市場の規模はあまり大きくなっていない。また、2度目標に向けた企業の取り組み姿勢は、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資などを通じて評価されるが、日本のESG投資は、欧米に比べまだ極めて小規模にとどまっている。
欧米では、企業の環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みを評価し、投資判断することが多くなっている。この傾向はパリ協定の発効により、さらに強まることが予想される。そのため企業は、ESG活動にこれまで以上に配慮し、自主的に行動していくことが求められる。
アジアでの投資額は欧米に比べて非常に低いために、日本企業としては実感しづらいが、日本でのESG投資の動きも始まっている。
大きなきっかけは2006年の「国連責任投資原則(PRI: Principles for Responsible Investment)」の制定であり、署名機関数とその運用資産額は年々増加している。2015年9月には運用資産額が129兆円 を越える日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名した。また、国内においては、2011年に「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則(21世紀金融行動原則)」が策定され 、その署名機関も増加している。
2016年7月にGPIFはESG投資のインデックスを公募したが、その対象とするのは以下の要件をすべて満たすものとしており、これはパリ協定の内容を具体的に明示したものとなっている。①ESGの効果により、中長期的にリスク低減効果や超過収益の獲得が期待される指数であり、かつ過去のパフォーマンスやバックテストの結果が概ねそれを裏付けるものであること ②ESGに関係する1つ又は複数の要素に基づいて合理的な手法で企業を評価し、その評価に基づいて客観的に構成銘柄の選定及び加重が行われていること(EやSについての積極的かつ独自性を持った提案を求む) ③構成銘柄が国内株式であること ④指数構築ルール(メソドロジー)が公開されること ⑤パッシブ運用 に必要な指数データが適切に開示されること ⑥特定銘柄への過大な偏りが生じないこと ⑦相当程度の投資が可能なキャパシティを持つこと。
なお、ESGに関する具体的な要素については、以下のようなものが挙げられる (パリ協定や持続可能な開発目標<SDGs>など持続可能な社会構築等を目的とした国際協調に資する要素)。
このような投資家の行動が広がると、企業の投資行動、協業、製品購入等にも影響が出る可能性が高まってくる。こうした動きに適切に対応していかないと、製品を買ってもらえない、投融資を受ける際の困難性が増すなどの影響が出てくる可能性がある。
一方で、大企業だけでなく中小企業、自治体も対応を迫られることも想定され、ESGへの取り組みに協力・貢献するビジネスの機会は増加していくと予想される。
地球温暖化で保護が求められるマングローブ原生林(鹿児島県・奄美大島)
(写真)中野 哲也
気候変動問題に向けた最近の国際的な取り組み(下) に続きます。
則武 祐二