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気候変動問題に向けた最近の国際的な取り組み(下)

=気候変動対策目標の実現可能性の技術面から見た評価=

2017年02月02日

地球環境

主任研究員
稲葉 清高


気候変動問題に向けた最近の国際的な取り組み(上) に続き、公開します。


 (上)で述べたように、パリ協定が発効し、温暖化を2度未満に抑え、さらに将来的に人為的な温室効果ガスの排出をゼロにする事(ゼロエミッション目標)が合意された。本稿では、その裏付けとなる気候変動対策について確認する。ここでは比較的中立的な立場の組織と考えられる国際エネルギー機構(IEA)の報告に基づいて、技術的な可能性および経済的な妥当性のある手段を組み合わせることでパリ協定の合意水準を達成することが可能かどうかを検証する。そこでの気候変動対策では、エネルギー利用の効率化だけではなく、代替技術の導入も重要となる。

IEA 報告に基づくパリ協定の達成可能性

 2013~2050年の間に、どういった技術により温室効果ガスの排出削減を実現するか、IEAの報告に基づき示したのが 図表① である。2013年の排出実績値の34GtCO2(CO2換算値,G=10億)は、新規の削減努力をしないと2050年には55GtCO2にまで増加する。それを2度目標と整合的な15GtCO2にまで減少させるために、再生可能エネルギーやエネルギー転換(石炭を天然ガスに変えるなどの温室効果ガス排出の少ない手段の採用)など、すでに存在するさまざまな技術を利用する必要がある。


(図表①)温室効果ガス排出削減への各技術の寄与

20170130eco1.jpg(出所)International Energy Agency (2016), Energy Technology Perspectives 2016, OECD/IEA, Paris を基に作成
(注) 各項目の百分比は2050年時点での削減量(A-B)への寄与率


 新規に採用する技術の中では「効率の良い電力の利用」、「再生可能エネルギーの利用」の二つの寄与が大きい。即ち、パリ協定の合意水準の達成には、利用効率の向上(いわゆる「省エネ」)と合わせ、エネルギー源の転換も必須ということになる。

部門別の削減への取り組み

 IEAの報告では、経済活動を大きく5つの「部門」 に分けた分析も行っている。前述の2013 年の34GtCO2の排出を2050年には15GtCO2にまで減らすというシナリオを、これら5部門の寄与により表したものが図表②である。

 ここでは、2050年の新規の削減努力なしでの排出量55GtCO2と、パリ協定での合意水準である15GtCO2との差である40GtCO2の削減を、電力部門の▲15.4 GtCO2(全体の39%)、産業部門の▲8.5GtCO2(23%)、運輸部門の▲7.7GtCO2(18%)、ビル部門の▲5.4 GtCO2(14%)、その他エネルギー変換部門の▲3.0 GtCO2 (6%)によって達成するという姿となっている 。

(図表②)各部門の削減への寄与

20170130eco2.jpg(出所)International Energy Agency (2016), Energy Technology Perspectives 2016, OECD/IEA, Paris を基に作成
(注)各項目の百分比は2050年時点での削減量(A-B)への寄与率


 以下、電力、産業、運輸、ビルの4部門に関して、温室効果ガス排出の削減をより具体的にどのように実現し得るかをみる。



電力部門

 電力部門では2013年時点で、石炭で9,600TWh(TWhは1兆Wh)、化石燃料全体では16,000TWhの発電を行っている。化石燃料による発電は全電力供給23,000TWhの67.5%を占める(図表③参照)。


(図表③)電力部門における利用エネルギーの変化

20170130eco3.jpg(出所)International Energy Agency (2016), Energy Technology Perspectives 2016, OECD/IEA, Paris を基に作成


 こうした発電から生じる温室効果ガスを2050年までに▲15.4GtCO2削減するために、次のような対応が必要になる。①石炭発電をできる限り減らす②天然ガスなど、石炭に比べエネルギーあたりの温室効果ガス排出の少ない化石燃料による火力発電も極力減らす③それでも残る化石燃料による火力発電には、CO2 を回収・貯留する「炭素貯留(CCS:Carbon Capture Storage)」を極力導入する④不足分は風力/太陽光などの再生可能エネルギーで賄う。

 2050年に必要な総電力量は、需要増により42,000TWhになると想定されるが、それでも以上のような対応により削減目標の達成が可能とされている。

 パリ協定の2度目標の達成については上記の通りだが、いわゆるゼロエミッション目標においては、CCS を天然ガス火力発電も含め全面的に採用することが必要と考えられている。CCS はすでに実証済みの技術ではあるが、ゼロエミッション目標に必要な規模が実現できるかどうかは温室効果ガス排出に伴い払うべき費用(炭素価格)次第と言える。


産業部門

 産業部門の温室効果ガス排出は、2013年に8.967 GtCO2であったが、2050年には新規の削減努力なしでは13.625GtCO2になる。それを▲6.721GtCO2削減することが必要となる(図表④参照)。


(図表④)産業部門における排出量削減

20170130eco4.jpg(出所)International Energy Agency (2016), Energy Technology Perspectives 2016, OECD/IEA, Paris を基に作成

 
 産業部門で特にエネルギー消費が多い業種、セメント(窯業)、鉄鋼、紙パルプ、アルミ、化工(化学工業)の 5 業種に関して、前述の電力部門と同様のエネルギー転換の可能性が検討されている。2050年の排出ガスの削減量として、セメントが ▲0.90GtCO2、鉄鋼が▲2.28GtCO2、紙パルプが▲0.14GtCO2、アルミが▲0.20GtCO2、化工が▲1.61GtCO2とされており、これにその他業種での削減量を合わせ、産業部門全体としての必要な削減量が実現できる。

 削減の方法として、排出量の多い業種では先端的なプラントとそれ以外の間で大きなエネルギー効率の差があるので、先端的な技術を他にも展開することや、CCSを導入することが挙げられている。また、鉄鋼に関してはそれ以外にスクラップの利用によるエネルギー利用効率の向上も寄与するとされる。


運輸部門

 運輸部門に関しては、2013~2050年への温室効果ガス排出削減を、以下の対応を通じて、全体として▲7.7GtCO2行うとしている。①使用手段の転換(ガソリン車から電気自動車への転換、自家用車からバス/電車への変更等、寄与率約36%)②再生可能燃料の利用(バイオ燃料の使用等、寄与率約28%)③効率の向上(寄与率約36%)。

 さらにゼロエミッション目標に対しては、航空機燃料および船舶の燃料を完全にバイオ燃料へ転換する必要があるが、そこには完全バイオ燃料の航空機への安全な利用や、重油等の従来燃料との価格差などの改善項目が残っている。


ビル部門

 ビル部門(IEA報告の分類ではビルのみではなく戸建てなども含む)に関しては、2013~2050年にかけて、①暖房の効率化で▲1.2GtCO2、②調理の効率化で▲0.24 GtCO2、③その他機材の効率化で▲0.07GtCO2の温室効果ガス排出削減が可能と想定されている(図表⑤参照)。ビル部門は全体で▲5.4GtCO2の削減が必要だが、上にあげた以外の部分は大半を他エネルギー源から電力へと転換することで達成するとされる。


(図表⑤) ビル部門の温室効果ガス排出削減

20170130eco5.jpg(出所)International Energy Agency (2016),Energy Technology Perspectives 2016,OECD/IEA, Paris を基に作成

 
 ここで、暖房の効率化とは、例えば電力を介在させるのではなく、直接太陽熱で暖房するなどの新技術の導入を意味しており、こうした技術が重要となる。

 以上、主要な4部門についての温室効果ガス排出削減に向けIEAが想定している諸施策を見てきたが、これらは次のように分類することができる。

(a) 使用エネルギーの転換 (石炭から天然ガスへ、再生可能エネルギーの利用など)
(b) エネルギー発生プロセスにおける効率の向上(蛍光灯から LED 電球への変換、暖房における太陽熱の直接利用など)
(c) 排出される温室効果ガスを回収・貯留する手段の導入



20170203kitayoka1_650.jpg地球温暖化のゆくえは...(島根県・宍道湖の夕景)


(写真)中野 哲也

稲葉 清高

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