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人工知能(AI)化とグローバル化

【所長室から】 Vol.14

2018年05月16日

所長の眼

所長
神津 多可思

 近年、深層学習の技術が実用化され、人工知能(AI)の進歩が一段と加速している。それとロボッティクスの進化が相まって、モノのインターネット(IoT)によってカバーされる範囲が一挙に拡がり、第4次産業革命とも呼ばれる経済活動・社会生活の大変革が訪れる兆しがある。

 それに伴って、私たち人間が担う仕事が急速になくなるのではないかという危惧も強まっている。その点については既にさまざまなリサーチがあるが、将来の予測にはかなり幅がある。あえてまとめれば、今後、20年間程度で人の手によって現在行われている仕事の数十%はAI化された機械に代替されてくというイメージになるだろうか。20年は長いようだが、平成の時代が既に30年であることを思うと、あっという間かもしれない。

 雇用機会への影響という観点からは、これからのAI化とこれまでのグローバル化には、実は似たところがある。ベルリンの壁崩壊後のグローバル化は、先進国経済において同じ仕事を継続しようとする場合、国内のビジネス機会が海外の新興国経済に取って代わられていくという側面を持っていた。

 直接投資によって、先進的な生産技術の移転が容易になり、かつ労働コストは新興国の方が安いので、経済原理からすればそれは避けられない動きであったと言える。そうした変化は日本経済にも大きな影響を与えた(この点についてはこのほど出版した拙著『「デフレ論」の誤謬』でより詳しく整理している)。

 今後のAI化、さらにはロボティクス化の影響は、当然、そのスピード・規模がこれまでのグローバル化とは違うだろうが、質的には同じような調整圧力を経済にもたらすはずだ。

 先頃、リコーヨーロッパが主催した、欧州のお客様との議論の場に参加する機会を得て、英国オックスフォード大学を訪れた。AI化やロボティクス化が進む中で、私たちの働き場所、働き方はどう変わっていくかということも話題になった。見方は多岐にわたったが、共通する結論の1つは、とにかく非常に速いスピードで環境変化が進行しているということであった。

 結局、私たちが時間を費やすことは、人間にしかできない、人間しかしない分野へとシフトしていくのだろう。それは究極的には私たちが本当にしたいことであるのかもしれない。実際、12世紀に現在の原型が整ったとされるオックスフォード大学は、ブレグジットが騒がれる今なお世界からたくさんの学生を集めており、通りを歩くとさまざまな言葉が聞かれる。私たち人間が知りたいと感じることを伝えてくれる教育は、AIやロボットによって助けられる面は大きくとも、その本質が人間の求めであるとすれば、最後まで人間によって供給されるサービスなのかもしれない。そういう思いを強くして、春なお浅き学問の古都を後にした。

20180516_04.jpgオックスフォード大学

(写真)筆者

神津 多可思

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