今年の経済 明るさを祈りつつ...
丙午(ひのえうま)の今年がスタートして、早くも1カ月。米トランプ政権のベネズエラ大統領拘束やグリーンランド「領有」を巡る騒動、わが国での衆議院解散など予期せぬ出来事が立て続けに起き、正月気分はすぐにさめてしまった。
こうして始まった今年の経済見通しを、さまざまな国際機関やシンクタンクが発表している。昨年の今頃を思い起こすと、トランプ米大統領の政策を巡る不確実性があまりにも高かったこともあり、2025年経済に対する悲観的な見方が大勢だったように思う。ところが実際には、昨年の経済は意外に悪くなかった。なぜだろうか。
まず、米国関税の水準が思ったほど高くならなった。米国に対する他国の報復関税があまり発動されなかったほか、各国が妥協と交渉を重ねて短期的に関税が引き下げられたことも奏功した 。トランプ関税を巡る「良い誤算 」のほかにも、三つほど要因が考えられると思う。
第一に人工知能(AI)投資の増加が挙げられる。膨大なデジタル情報を処理するデータセンターの建設が加速した。不確実性の高まりで企業の設備投資は見送られるとの予想が多かったが、ふたを開けるとAI関連の積極投資が懸念を打ち消した。貿易面でも韓国や台湾から米国への半導体関連輸出が著しく増加した。AI 関連株急騰を背景に、米国では富裕層の購買意欲に火が付き、個人消費は堅調に推移した。深刻な経済格差の問題はあるにせよ、AI由来の活況が米国経済を下支えし、その恩恵が世界に波及したことがプラスになった。これほどAIブームが盛り上がると経済予想で想定するのは難しかっただろう。
第二に、企業行動は動態的で予測が難しい点が指摘できる。輸出企業の関税への対応は、自動車産業とその他の産業で分かれた。自動車メーカーは、米国でのシェア(市場占有率)確保のため輸出価格の引き下げによって関税の負担を吸収した。円安が進んだ日本では、その負担はかなりの程度緩和された。他方、その他の産業は基本的に輸出価格を維持し、関税上昇分は米国での販売価格に上乗せされる形になった。だが、流通の中間段階で負担が吸収されたらしく、米国の消費者物価の上昇は予想を下回った。こうしたダイナミズムを経済予測の段階で織り込むのは容易ではない。
最後に、市場が4月を除けば落ち着いていたことだ。相互関税の発表に際してトランプ氏が「解放の日」と呼んだ4月2日を境に「米国売り」が加速し、トランプ政権は関税政策をかなり軟化させた。次々に強硬策を引っ込めるトランプ氏を皮肉り、TACO(Trump always chickens out=トランプはいつもおじけづいてやめる)という流行語ができたものの、こうしたトランプ政権の柔軟な対応が市場に安心感を与えた。
もちろん、トランプ政権の予期せぬ行動がリスク要因であることは間違いないが、「確率は低いが起きた場合の影響が大きいリスク」、いわゆるテールリスクを市場があらかじめ織り込むのは難しい。いざ事が起きるまで、マーケットは意外なほど落ち着いている。そんな状態を続けたのが、昨年1年間だったように思う。
当研究所は、昨年12月24日に今年の世界経済を予想するオンライン記事を掲載した。ポイントは「曇り空でも油断は禁物」だ。1月19日にIMF(国際通貨基金)は早速、今年の世界経済成長率の予測を、3カ月前の3.1%から3.3%に上方修正した。上向きの見込み違いが続き、曇り空より明るい1年に、と願わずにはいられない。一方で、研究所として指摘したリスクが顕在化し、「ほら言った通りなった」と胸を張ってみたい気持ちもある。まさに板挟み。ちょっと複雑な心境だ。

《おさらい》
Q 昨年の経済は米トランプ政権の政策の影響で落ち込んだのか。
A 結局、そうはならなかった。理由は三つ。一つ目は人工知能(AI)ブームが起きたこと。
Q それから?
A 二つ目は、企業が関税の影響を和らげる行動を取ったこと。三つ目は市場の落ち着き。
Q 今年はどうなるのか。
A 曇り空と予想するが、明るくなってほしい。
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早﨑 保浩